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98.ベッドは三つ

 そそくさと部屋へ戻ったシエラ達……その人数は六人。

 宿のベッドは三人分だが、さすがにその倍ともなると中々に狭かった。

 マーヤがまだ小さい子供であるということが、唯一の救いだろうか。


「わーい、ベッドベッド!」


 マーヤが一人、ベッドを見てはしゃいでいる。

 汚れたローブで飛び込みそうになるのを、フィリスが制止していた。


「一応、先生が宿の人には話を通してくれるって言っていたけれど……大丈夫かしら」


 ぽつりと、アルナが不安そうに呟く。

 説明すると言っても、リーゼやフィリスについては騎士から追われている身――宿の人間の反応を見る限り、二人の正体について気付いた様子はなかったのが幸いと言えるだろう。


「まあ、クロイレン家は特に王都での活動が中心ですし、地方の人間が知らないのも無理ありませんわね」

「そこは偉そうにするところではないのでは……」

「あら、貴方……ローリィとか言ったかしら。わたくしに意見するつもり?」

「別に、そういうつもりは」


 ……協力すると言っても、ローリィやリーゼの性格面では明らかに合わなそうなところはあった。

 特に、ローリィが難しい立ち位置だろう。

 ようやくアルナと距離を詰めた――と言っても、ここではアルナとリーゼが同じ貴族として対等な立場にある。

 ローリィから強く意見は言えないというのが本音だろう。

 むろん、シエラはそんなこと気にしないが。


「お互い協力する立場になったのだから、煽るような言い方はやめて頂戴。ローリィも普通でいいから。それでいいでしょう」


 ローリィを庇うように、アルナが言い放つ。

 リーゼがそれを聞いて小さく息を吐くと、


「もちろん、構いませんわ。これは生まれながらの性格ですもの。好きにして」


 そう言って肩を竦める。

 そんな三人を尻目に、フィリスがマーヤを連れて窓の外を見ていた。

 シエラはそちらの方に向かう。


「……」

「ここからなら狙撃の心配はない」


 フィリスの心の内を読むように、シエラは言う。

 フィリスが少し驚いた表情を見せた。

 アルナやローリィからすればもう当たり前になりつつあることだが、シエラは人の考えることについては特に過敏なことがある。

 フィリスの心配していることが、シエラにも分かったのだ。

 建物の三階――高さで言えばそれなりだが、他の建物が障害となりここを直接狙うのは難しい。

 先程の相手が生きているのならば、周囲にある山の頂上から直接狙ってくることも考えられたが、シエラに防がれた時点で何度も同じ方法では来ないだろう。

 普段難しいことは考えないシエラだが、アルナとマーヤを守る――そんな戦う目的があるからこそ、いつもよりも頭の回転が早い。

 宿の周辺状況や構造……それらを加味して、この場所が襲われにくいということは、シエラはよく理解していた。


「そのよう、ですね」


 フィリスもまた、シエラの言葉に納得するように頷く。

 そっとマーヤの肩に手を乗せて、フィリスが微笑みを浮かべた。

 そして、シエラの方に視線を向けて、


「先程は、失礼をしました」

「……? 何が?」

「あなたとの一戦です。私は騎士でありながら、冷静さを欠いていました――それは、認めざるを得ません」

「別に、気にしてないよ」

「フィリスおねえちゃんとシエラおねえちゃんはもう仲良しさんだもんね!」

「うん」


 マーヤがフォローするように言って、シエラはそれにこくりと頷いて答える。

 フィリスは、どこか二人の様子を見て安堵するような――あるいは心配するような難しい表情をしていた。そんな時――、


「一先ず、貴方達の先生が宿の方に説明をしてくださる……そこはいいの。けれど、部屋の数がいっぱいで、わたくし達が一緒の部屋で寝るしかないのは確実――それで、どう寝るのかしら?」


 およそこの場において、シエラとマーヤ以外が心配していたであろう問題をリーゼが口にする。

 もっとも、選択肢など一つしかない。

 三つのベッドで六人……つまり、二人で一つのベッドを使うということ。


「さすがにちょっと狭いかもしれないけれど……」


 どれもシングルベッドで、一人で寝るのが丁度いいくらいだ。

 そうなれば、自ずと夜までに決めておかなければならない重要課題の一つということになるだろう。

 全く気にしていないシエラとマーヤ。気にはしているが素振りは見せないアルナとフィリス。そして、明らかに気にしているリーゼとローリィ。

 組み合わせるのであれば、少なくとも最後の二人だけはないのかもしれない。


「こういう場における決めごとこそ、勝負というもので決めるべきでしょうけれど――」

「やる?」

「何もしませんわよ! その剣をしまいなさいな!」


 勝負と聞いてすぐに反応して《赤い剣》を作り出したシエラに、リーゼがすかさず突っ込みを入れる。

 少しだけ、シエラはしゅんとした。


「じゃあ、どういう方法で決めるのさ」

「ふふっ、簡単なことですわ」


 ローリィの問いかけに、にやりと笑みを浮かべたリーゼが宣言する。


「運も実力のうち……すなわち、くじ引きで決めますわよ!」


 そんな――高らかに宣言する必要もないことが宣言されて、一緒に寝る組み合わせが決定されることになった。……リーゼとローリィが組み合わさることになるのは、まさにフラグでしかなったのである。

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タイトル変更となりまして、書籍版1巻が7月に発売です! 宜しくお願い致します!
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