95.少女と少女の同盟
リーゼは困惑していた。
先ほど、アルナとは協力しないことをはっきりと告げたはずだ。
何せ、彼女には一切のメリットがない。互いに《王位継承者》であるのなら、分かるはずだ。
ここでリーゼの言う『見なかった』ことにする提案を受け入れるか、あるいはリーゼのことを切り捨てて騎士達に話してしまえばいい。
それなのに、アルナの選択肢はなおリーゼとの協力関係を結ぶことだった。
(どうして、貴方はそんなことを……)
リーゼにはそれが理解できない。
同じく貴族であるはずのアルナが、どうしてそんな考えに至るのか、と。
(あるとすれば、マーヤのためになるのでしょうけれど……)
アルナとマーヤは初対面だ。
リーゼのように、マーヤを明確に守らなければならない理由もない。
考えられるのは、本当にアルナがマーヤという少女のために、協力を申し出ているということ。
それこそ彼女にとってメリットにはならないような、そんな話。
(見ず知らずの女の子のために、そこまでできると言うの……? アルナさん、貴方という人は……とんでもない愚か者、ということになるのかしら)
リーゼは目を細めて、アルナを見る。その瞳に迷いはない――とても、嘘をついているようには見えなかった。
リーゼはアルナに向かって、再び口を開く。
「……貴方は、本当にただの善意でそんなことを言っている、ということで良いのかしら?」
「善意と言っていいのか、分からないわ。ううん、これは私のただの我儘。さっきも言ったけれど、私の一存では本当は決められないの。けど……シエラは協力してくれるって、分かっているから」
アルナがそう答えて、少し儚げな視線をシエラに送る。
リーゼもその視線に釣られて、シエラを見た。
初めて見た時、リーゼから見ても常識のない子だった。
けれど、《イゼルの塔》で人形の軍勢が襲い掛かってきた時、それを一人で切り抜けただけの実力があることは、リーゼもよく理解している。
どこか独特な雰囲気で、他人の目を引くほどに真っ白い少女――シエラが視線に気付いたのか、アルナとリーゼをそれぞれ見て、
「……どうかした?」
きょとんとした表情で首をかしげた。
何を考えているのは分からないが、少なくともシエラがきちんとリーゼとアルナの話を聞いていないということだけは分かる。
この場において、リーゼを守る騎士であるフィリスと並ぶ実力があるというのに、中身はどこまでも抜けていると言わざるを得なかった。
そんなシエラの問いかけに、アルナが答える。
「シエラ、マーヤちゃんのことだけれど……私はその子のことを守りたいと思っているの。協力、してくれる?」
「うん、いいよ」
「!」
リーゼは目を見開く。それは、迷いなど一切感じさせない即答であった。
アルナが難しい言葉を使うこともなく、純粋にマーヤを守りたいという意思を伝え、シエラがそれに答える。
リーゼから見ても、二人に固い絆があるというのが明白に見えた。
「……ローリィも、お願いできる?」
「アルナちゃんがそう言うなら僕も協力するよ。問題は――リーゼ様、あなたの決断です」
ローリィから、そんな言葉を投げかけられる。
この場において、少なくとも三人がマーヤを守るために行動すると言っている。
もちろん、リーゼもそのために動くつもりだった。
リーゼの頭はどうしても、素直にアルナの厚意を受け取ることができない。
(……いいえ、そうですわ。わたくしはそれでいい――その上で、協力してくれると言うのなら、利用すればいいのです。簡単なこと、ですわ)
だからこそ、リーゼは発想を変えた。
シエラの実力は本物だ。純粋な戦力としても、マーヤを守り抜くという面では大きくメリットがある。
そう考えれば、リーゼの思考は動き始める。
戦力を見て、戦略を練り、戦果まで見据える――それが、リーゼ・クロイレンという少女なのだ。
「……はあ、そこまで言うのであれば、仕方ありませんわね」
「リーゼ様」
「フィリス、貴方も協力なさい。これは命令ですわ」
「……リーゼ様がそう仰るのであれば、私に異論はありません」
リーゼの言葉に従い、フィリスがそう答える。
彼女はそういう子だ――リーゼにどこまでも忠実で、騎士であるというのにリーゼを守るために行動してくれている。
……本音を言えば、彼女も含めてリーゼは巻き込んでしまっているという認識があった。
(それでも、光明は見えてきた……そう言えますわね)
どれだけ考えても逆転の目はない――少なくとも、先ほどまではそう結論づけるしかなかった。
リーゼにとっての勝利条件はマーヤが殺されるよりも早く、ある者達がマーヤを保護してくれること。
それまでは身を潜めるくらいのことしかリーゼにはできなかったが、これである程度の自由が利くようになる。
はっきり言ってしまえば、アルナに弱みを見せないように虚勢を張っていたに過ぎない――だが、それもリーゼ自身は決して認めることはないだろう。
リーゼはスッとアルナの前に手を出して、
「……今更後悔しても遅いですわよ。わたくし、一度手を組むと決めればどこまでも利用するつもりですもの」
「別に、それでも構わないわ。マーヤちゃんの安全の確保。そこさえ一致しているのなら」
リーゼのそんな言葉にすら、アルナははっきりとそう答えてくる。
互いに考えることは違っても、明確な目的は一つ――マーヤを守り抜くこと。
そのために、カルトール家とクロイレン家。二つの貴族の娘は、誰も知らないところで同盟を結ぶことになったのだった。
よくよく考えなくてなくても結構登場人物いるのに、ここにいる子達みんな女の子ですね!





