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9.シエラ、寮生と出会う

 シエラが向かうのは女子寮だった。

 いくつかある女子寮のうちの一つであり、昨日も生徒達によってシエラは目撃されている。

 編入生として、すでに噂が立っているのだ。

 ――とはいえ、すぐに話しかけてくれるような人もいない。

 元々、シエラもあまり人とはコミュニケーションをしたことがない。

 話しかけてくれる人間とは話せるが、自身から話しかけようとはあまりしない。

 夜――シエラが向かったのは、屋上だった。


(今日は外で寝ようかな)


 シエラは元々傭兵だ。

 野営などは日常茶飯事で、基本的にはどこでも眠ることができるタフな生活をしてきている。

 およそシエラの姿からは想像できないことだが、危険な場所でも寝ることには慣れていた。

 特に、夜風に当たって眠るのは心地が良い。

 そんな時、足音が近づいてくるのが耳に届く。

 キィ、と屋上の扉が開いた。

 ――月明かりに照らされてやってきたのは、長いブロンドの髪の少女だった。

 横顔でも分かる端正な顔立ち。

 藍色の瞳が空を見上げて、シエラの姿を捉えた。

 その少女は、泣いていた。

 驚きで目を見開いて、少女はすぐに自身の涙をぬぐう。


「……っ、あ、貴方……! 何でそんなところに!」

「夜風が気持ちいいから」


 シエラは飛び降りて、少女の前に降り立つ。

 ふわりと身のこなしは軽く、音もない。

 少女は少し驚いて声を上げていたが、すぐにシエラに問いかけてくる。


「貴方確か……昨日から寮に来ている子ね」

「うん、シエラ――シエラ・アルクニスだよ」


 シエラ・ワーカーと、本名で言いかけたところで言い直す。

 シエラはこの学園ではエインズの娘ではない。

 田舎から来た世間知らずの娘という設定だ。

 シエラの実力が、世間知らずの娘というだけでは中々難しいのだが。


「シエラさん、ね。名前でいいかしら、呼びにくいから」

「うん、その方がいい」

「……? まあ、いいわ。私はアルナ・カルトール。ここの寮生よ。それで、貴方はここで何をしているのかしら……?」

「アルナ……うん、覚えた。さっきも答えた通り、夜風が気持ちいいからだよ?」


 それ以上でもそれ以下でもない、とシエラは答える。

 訝しげな表情でシエラを見るアルナだが、やがて納得したかのように頷く。


「……それが本当に答えってことね。じゃあ改めて聞くけれど、ここにいるのは――この学園に編入するってこと、かしら?」

「うん、今日合格した」


 しれっと答えるシエラに、アルナは見定めるようにシエラを見る。

 今日合格して、明日から通う予定になっている。

 シエラの言葉を聞いて、アルナはまた何かを考えているようだった。


「そう……まあ、合格できるだけの実力はあるってことかしら。分からないことがあれば聞いて頂戴。仮にも同じ寮生なのだから、それくらいのことは教えてあげるわ」

「いいの?」

「ええ。……カルトール家の娘として当然よ」


 自らそう口にしたアルナだったが、どこかつらそうな表情を見せる。

 分からないこと――そう言われて、シエラは真っ先に思いついたことを口にする。


「……? よく分からないけど、それじゃあ――どうして泣いてたの?」

「っ!」


 暗い中でも、シエラの目はしっかりとその涙が見えていた。

 アルナは戸惑いの表情を見せる。

 ばつが悪そうな表情で、アルナは答える。


「別に、泣いてなんていないわ」

「あれ、そうだった?」

「……そうよ。そういう話ではなくて、もっとこの学園について知りたいこととかないのかしら?」

「うーん……あんまないかも」


 それこそ、学園に来たはいいが興味のあることは見付けられていない。

 シエラが素直にそう答えると、アルナは小さくため息をついて、


「そう……まあ、気になることがあれば聞いて、ね。それじゃあ、夜は冷えるからあなたも早く部屋に戻りなさいな」


 アルナはそう言って、屋上から去ろうとする。


「あ」

「ん、何かあった?」

「……何でもない」

「……? そう、それじゃあ、また」


 アルナが屋上から去ったあと、シエラはそのまま屋上で横になる。

 今日は部屋ではなく、ここで寝ると決めていたからだ。


「友達の作り方、聞けばよかったかな」


 シエラはそんなことを口にした。

 何故か、それを聞くことをためらってしまった。

 シエラが学園で望むものと言えばそれくらいだ。

 エインズがいつか言っていた――望むものは簡単に手に入るものじゃない、と。

 そして、努力をして手に入れるものでもある、と。

 エインズの言うことを時々思い出してしまうシエラは、こんな時にそれを思い出してしまっていた。


(アルナ……アルナ……なんだっけ?)


 名前は覚えたが、姓までは覚えきっていなかった。

 アルナ・カルトール――シエラがこの学園で初めて話した、同い年の少女だった。

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タイトル変更となりまして、書籍版1巻が7月に発売です! 宜しくお願い致します!
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