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87.シエラ、押し切られそうになる

 カッ、カッと黒板に大きな文字を女子生徒が書いていく。

 そこに刻まれているのは、《校外学習》の班決めについてだ。

 授業終わりに、来週行われる校外学習について説明が行われた。

 基本的には数名の班で行動することになる。大体、三名から五名で組まれるということだった。


(アルナとローリィとコウで四人……丁度いい)


 シエラはそんな風に考えているが、コウは講師。班の頭数に入れていい人物ではない。

 そんなことは気にしないシエラだったが、今は一つ気になることがあった。――クラスの四方から視線を感じる。


「それじゃあ、一先ず自由に班決めをするということで――開始!」


 黒板の前にいた女子生徒が宣言すると、合図と共にシエラの下に三人の女子生徒がやってきた。


「シエラさん、一緒の班にならない?」

「……わたし?」


 思わず聞き返してしまう。

 同じクラスとはいえ、シエラとはそれほど関わりのない女子生徒ばかりだった。

 さらに隣――アルナの下にも何人か集まってきている。

 そこには一緒に勉強会をしたり、病院へお見舞いに来てくれたりしたオーリア・トルトスやルイン・カーネルの姿もあった。


「アルナさん、あたし達と組まない?」

「私と?」

「はい。シエラさんも誘って――っと、思ったのですが、シエラさんはシエラさんで数人に誘われていますし」

「まー、一番誘われてるのはローリィさんだけどねー」


 シエラも含めて、そちらに視線を向ける。

 どうやらすでに仲の良い者同士で組まれたメンバー二組に誘われているようだった。


「ローリィさん! 一緒に班を組みましょ!」

「いえ、是非ウチらと!」

「私達が最初に誘ったんだけど!?」

「いやいや、ウチらの方が早かったよ!」

「いや、あの、落ち着いて……?」


 ローリィが困惑している。

 普段なら笑顔で宥めているところを見るが、雰囲気に圧されているのか。

 シエラも含めて、三人で班を組むつもりではいた――だが、それ以上にクラスメート達も理解していたのだろう。

 シエラとアルナとローリィが、三人で組むということに。

 ある意味クラスは団結していると言えた。

 それぞれの仲の良い者同士で組んだ班で、三人を取り込もうとしているのだから。


「ローリィさんも人気だけど、私達はシエラさんと組みたいわけよ」

「わたしはアルナと――」

「いつも一緒にいるんだから、たまには私達とも話そうよー!」


 シエラも、物事についてははっきり言うタイプだが、ぐいぐい押されると中々言葉が出ない。

 表情には出ていない――というより、アルナやローリィくらいしか気付けないだろうが、シエラは困惑していた。

 そんなに一緒に班になりたいものなのだろか、と。


(わたしと何を話したいんだろう)


 アルナやローリィといつも一緒にいるのだから、一緒の班にいて悪いことがあるだろうか。

 シエラにとっては、そういう疑問が生まれてきてしまう。

 いつも一緒にいる人の方が、安心できるとシエラは考えてしまうからだ。


「わたしと何か話したいの?」

「何かって……まあ、色々?」

「色々って?」

「シエラさんって何でも疑問に考えちゃうタイプだよね」

「そうそう。そこが可愛いところなんだけどね!」

「……可愛い?」


 シエラは首をかしげる。

 女子生徒達が何を言っているのかよく分からないが、何故かシエラは褒められている。

 褒められているのだから嬉しいと感じなくもないが、シエラ自身は自分のことを可愛いとは思っていない。

 むしろ、エインズのように傭兵として格好良くありたいと思うのがシエラだ。


「わたしはかっこいい方がいい」

「魔法の授業のシエラさんはかっこいいよ!」

「! ほんと?」

「うんうん。こういう話とか色々してみたいの。だからさ――」

「はいはーい。注目!」


 シエラも流されそうになった時、黒板の前に立ったのは担任のコウだった。

 その手には、何やら木箱が握られている。


「男女共々、すぐに班が決まりそうにないわ。そこで、あなた達の言うことも踏まえて――くじ引きで班決めできる用意をしておいたのよね」

「えー、くじ引き!?」

「せっかく組んだのに……」

「はいはい、仲の良い者同士で組むのもいいけど、交流を深めたいんでしょ? だったら文句は言わない。さ、並んでくじを引いてね」


 コウの仕切りは早く、そして彼女に逆らおうとする者もいない。

 普段は優しいコウだが、剣術の授業で彼女の実力はクラス中で知られている。

 下手に逆らおうとする者はいなかった。

 それに、コウの言うことにも一理ある。

 あくまで生徒達は皆――交流を深めるという意味でシエラやアルナ、そしてローリィに声をかけたのだ。

 それならその三人でなくてもよいことになる。

 だから、生徒達も納得したのだが。


「……というわけで、紙に書いてある模様が同じ子が班のメンバーだから。異論は認めないわよ」

「これって……」


 ちらりとアルナがシエラとローリィに視線を向ける。

 当たり前のように――三人は同じ班になっていた。

 明らかにコウの作為を感じる。何せ、他の班員もあまり変化がないのだから。


「先生、これだといつもと変わらないんだけど……」

「異論は認めないって言ったでしょ?」


 にこりと笑顔でそんな風に答えるコウ。

 シエラがコウの方を見ると、ウインクだけで答えてくれた。

 ――やはり、コウが何かをしたのだろう。

 アルナにシエラとローリィの三人で、いつも通りのメンバーとなったのはありがたいことだ。

 何せ、先ほどまではシエラですら押し切られそうだったのだから。


「……危うく別々の班になるところだったね。僕達が外で行動するなら、余計に一緒にいないといけないっていうのに」

「そうね。班で分かれると、一緒の子達が危険かもしれないし……」


 何か起こると決まったわけではないが、アルナがいつもそういう心配をしているということが分かる。

 コウも、それが分かっていて三人を同じ班にしてくれたのだろう。


「それじゃ、班になった子達と行動計画を立てて提出するように。今回の校外学習――《マルベール森林施設》のことが知りたかったら、図書館で調べられるからね」


 コウがそう宣言をして、少し熱気だった班決めは終了した。

 マルベール森林施設――そこが、来週シエラ達が向かう校外学習の目的地なのだ。

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