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82.シエラ、隙が気になる

 夜、寮の脱衣所に三人の少女の姿があった。

 シエラとアルナとローリィの組み合わせだ。

 元々周囲の目を気にするシエラのためにアルナが入浴時間を遅らせていたのだが、そこにローリィも加わったことによりさらに遅らせていた。

 男として振る舞ってきたローリィにとって、同い年の少女と風呂に入るというのは中々にハードルが高い。

 視線に晒されるということ自体が苦手なようだ。

 シエラとアルナの二人ならば、まだ一緒に入ることは問題ないが――


「ローリィ、着替えるの遅いね」

「い、一々僕の前に裸で立つな」

「? お風呂に入るなら裸にならないと」

「そういう意味じゃないっ」


 まったく羞恥心のないシエラと、羞恥心が強すぎるローリィという対極の存在がそこにあった。

 アルナがその中間に位置することになる。

 シエラは教えられたことはある程度実行するため、着替える時は颯爽と脱ぎ捨てるがきちんと服は畳む。

 ただし、タオルで隠すという行為にはあまり意味を見出せないらしい。

 川で水遊びをしようものなら、全裸になるのではないかという懸念を持たれているわけだが、それはあながち間違っていない。

 シエラは水浴びをするときは包み隠さず全裸になるからだ。

 一方のローリィは、風呂に入る前から顔が赤い。

 シエラとアルナと目が合うと、恥ずかしそうに視線を逸らす。

 仕草も湯に入るまでずっと恥ずかしそうにしているため、見ている方が恥ずかしくなる、とアルナが言っていた。

 シエラからしてみれば、ローリィの反応がいまいち理解できない。


「ローリィはお風呂で襲われたらどうするの?」

「!? ど、どういう意味だ!?」

「お、落ち着いてローリィ。シエラ、もうちょっと言い方を考えないと。お風呂場で戦うことがあったら、ってことよね?」

「そう」

「! そ、そういうことか」

「ローリィは何を考えたの?」

「べ、別に何も考えてないっ! もちろん、そういう可能性も考慮して水場での戦闘経験も積んできた」

「でも、すごく無防備に見える」


 シエラはローリィにそんな指摘をする。

 胸と下半身の部分は頑なに守ろうという意思を感じるが、それ以外は疎かだ。

 普段のローリィと比べても圧倒的に隙だらけ。

 これではいざという時に身を守れないだろう。

 だからこそ、シエラなりにレクチャーしようとしていた。


「もっと堂々と構えないと」

「シエラが隠すのが正解なのよ」

「そうなの?」

「普通は――」

「いや、アルナちゃん。シエラの言うことにも一理ある……」

「! ロ、ローリィ?」


 アルナの言葉を遮って、真面目な表情でそう答えるローリィ。

 視線は泳いでいるが、ローリィは小さく深呼吸をすると、


「いざという時、こんな風に恥ずかしがっていたらダメだということは確か、だ」

「さすがに気にしすぎよ……?」

「ローリィが守れなくても、私が二人を守るから大丈夫」

「! ぼ、僕だってアルナちゃんを守るくらいできるさ! 見てろ」

「ちょ、ローリィ落ち着いて……!」

「アルナちゃんは黙っていて!」


 男として育てられたからなのか――男気を感じさせたローリィがタオルを脱ぎ捨てる。

 仁王立ちするシエラに対して、同じように仁王立ちするローリィの姿があった。

 それを見て、アルナが頭を抱える。

 これほど張り合うことに意味のない戦いはないだろう。

 最初から最後までポーカーフェイスのシエラは、表情が変わることはない。

 羞恥心を感じないシエラにとっては、ローリィが隠さなくなったくらいでは動揺することもない。

 必要があれば人前で脱ぐくらいのことはするだろう。

 ローリィはというと、唇を噛みしめて顔を赤くしている。

 どう見ても無理をしている――それがすぐに分かったシエラは口を開く。


「よく分からないけど、ローリィは隠した方がいいのかも」

「な、別に今だってへ、平気だぞ」

「ううん、さっきより隙だらけになってる」

「……!?」


 そう言われて、ローリィが驚きの表情を浮かべる。

 せっかく張り合って裸を晒したというのに、結局隙が大きくなっただけというシエラの指摘があったからだ。――ただの晒し損である。


「……とりあえず、お風呂入りましょうか」

「うん、早く入ろ」

「……うん」


 アルナに促されて、シエラとローリィも頷く。

 もはや消え入りそうなレベルのローリィの声を聞いて、シエラは考える。


(……もしかして、裸になると隙ができるのかな?)


 あながち間違ったことでないが、シエラがその理解を深めると相手を引ん剝くことで隙を作るという恐ろしい子になってしまう。

 勘違いともいえる認識を、シエラは頭の片隅に置いておくのだった。

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