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80.アルナ、呼ばれる

 一週間後、追試の日はすぐにやってきた。

 追試は放課後に実施され、シエラは授業終わりに担任のコウに連れられて別室へと向かって行った。

 心配そうについていったのはアルナ。

 そして、アルナに同行するローリィもいた。

 追試を受けている教室の前で、アルナはただシエラが出てくるのを待つ。


「……ローリィはどう思う?」

「どうって、シエラの追試のこと?」

「ええ。この一週間、シエラは頑張ったと思うわ」


 アルナの言うシエラの『頑張った』のラインはかなり低くなりつつある。

 控え目に言っても、少し覚えれば褒めるくらいなのだからそう見えてしまうだろう。

 それでも、アルナにとってはシエラの成長を実感できる日々だった。

 初めの頃は本当に筒抜けという表現が正しく、教えてもすぐに忘れてしまうレベル。

 それは、シエラの頭が悪いというわけではない。

 ――シエラはどうしても、興味の持てることと持てないことに差がありすぎるのだ。

 剣術に精通し、魔法や魔物には詳しいにも関わらずそれ以外には無頓着。

 だから、シエラの興味が持てるようにさえすれば他の子よりも覚えはいいことになる。

 それが、お菓子で釣るという方法だったとしても、だ。


「まあ、大丈夫だと思うよ。アルナちゃんが教えたんだから」

「そうね。ローリィだって手伝ってくれたもの」

「……いや、僕は別に。アルナちゃんの負担が軽くなればいいと思っただけだから」

「そんなこと言って。お菓子だって作ってくれたじゃないの」

「だ、だからそれは違うんだって……! いや、違うわけじゃないんだけど……」


 どうにもローリィはシエラに対しては素直になれないようだった。

 ようやく、アルナとは仲良く向き合えるようになったのだ。

 ローリィももう少し素直になれれば、シエラとは一層仲良くなれるだろうとアルナは感じている。


「……一先ず、テストが終わったら三人で遊びに行きましょうか」

「! アルナちゃんが言うならその、構わないけれど。大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ」


 ローリィの問いかけに、アルナは頷いて答える。

 この前も命を狙われたばかりだ――外に出るのが億劫になるのではないか、とローリィは思っているのだろう。

 実際、どこでいつ狙われるかも分からない生活は、少なからずアルナの精神をすり減らしている。

 アルナ自身が、気晴らしをしたいという気持ちもどこかにあるのだ。


「はい、じゃあ追試は終了ね。お疲れ様」

「うん」

「!」


 教室の中から、コウとシエラの話す声が耳に届く。どうやら追試が終わったようだ。

 ガラリと教室からシエラが出てくる。

 いつものように無表情だが、どこか達成感のある表情だった。


「シエラ、どうだった?」

「バッチリ」

「! 本当!?」

「こんなに不安になるバッチリがどこにあるんだ……」


 ローリィがそう本音を漏らす。

 アルナからしてみれば、シエラなら「分からない」というが常だ。

 そこをバッチリと言ったのだから、アルナは素直に信じることにする。

 シエラの後ろからコウもやってくる。


「まだ軽くしか目を通してないけど、まあ合格だと思うわよ。短時間で頑張ったじゃない」

「本当ですか!」

「あはは、シエラさんよりアルナさんの方が喜ぶところかね」

「アルナとローリィが教えてくれたからできた」

「僕は別に、簡単にしか手伝ってない。アルナちゃんが教えるのが上手かっただけだろう」

「いやぁ、仲いいね。あんた達は」

「うん。アルナ、追試終わったから遊ぼう」

「そうね。丁度その話をしていたところなの」


 アルナも乗り気で答える。

 シエラの追試が合格と決まったわけではないが、コウの言葉を聞いてこれからお祝いでもしようという気分になっていた。

 そんなアルナに対して、コウが声をかける。


「その前に、ちょっとあたしと来てもらってもいいかな?」

「え、私ですか?」

「アルナさんもだけど、シエラさんとローリィさんもね」

「僕も、ですか?」

「なに、コウが遊んでくれるの?」

「んー、話が終わったら遊んであげてもいいかもだけど、あたしじゃなくて呼んでるのは学園長なのよね」

「学園長が……?」

「そういうこと。ま、一先ず学園長室に行こっか!」


 そう軽く言って、コウが歩き始める。

 アルナは二人と顔を見合わせる。だが、一先ずはついていくしかない。

 学園長からの直接の話――一体何の話なのか、アルナには見当もつかなかった。

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タイトル変更となりまして、書籍版1巻が7月に発売です! 宜しくお願い致します!
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