79.シエラ、追試対策をする
テスト期間が終わって、学園内は少し落ち着いていた。
図書館の利用も、テスト期間が落ち着くのに合わせて減少する。
そんな場所に、シエラはいた。
これからアルナとローリィの二人による、シエラの追試対策が行われようとしているのだ。
「追試までは一週間しかない。短期間で効率的に覚える方法がベストだろう」
そう言いながら、ローリィが持ってきたのは大量の本。
それを見たアルナが、眉をひそめる。
「貴方の言う効率的ってとにかく叩き込む、みたいな感じがなのかしら?」
「とにかく反復すること。繰り返しというのは勉強だけでなくあらゆる分野で必要なことだよ」
「こんな大量だとシエラが大変でしょう。少しずつ覚えさせるべきよ」
「言いたいことは分かるけど、期間が限られてるんだ。追試をクリアできる程度に叩き込むのが優先だよ」
「しっかりと覚えないと勉強の意味がないもの。ゆっくりでも確実にやるべきよ」
まるで子供の教育方針で言い争う両親のようだった。
シエラはただ、そんな風に話す二人をじっと見つめる。
以前とは違い、ローリィもアルナに対して言いたいことはしっかりと言うようになっている。
――カルトール家との連絡は、また別の人間が派遣されてくるとのことだが、今度から話す時はアルナとローリィ、それにシエラも同行することになっている。
シエラならば、仮に相手が何であったとしても対応できるだろう。
まだ主張の食い違う二人を尻目に、シエラは小さく欠伸をする。方向性が決まるまでは特に勉強しよう、とも考えていなかった。
ちなみに追試まで落ちると、夏休や放課後に補修が入ってくることになる。
シエラは別に勉強自体を嫌っているわけではない――だから、補修が入ると云われても特に気にはしなかった。
だが、
「シエラも、今の時間はノートだけでも見ておきなさい」
「えー」
「えー、じゃないの。いい? 補習になったら遊べる時間はその分減るのよ?」
「!」
それを聞いて、シエラは驚きの表情を浮かべる。
遊ぶ時間が減るということは、アルナやローリィと一緒にいる時間が減るということ。
すなわち、甘い物を食べる機会も減るということ。
頭の中でパズルのようにその図式が出来上がり、シエラはそっとノートを開く。
「二人とも教えてくれればいいよ」
「いや、その方針が違うからこうして話しているんだが……」
「頑張る」
シエラはただ、一言そう答える。
アルナは少し嬉しそうな表情をして、ローリィは心配そうな表情をそれぞれ浮かべた。
それぞれ思うところはあるのだろうが、ようやく勉強会はスタートした。
テストの結果だけで言えば、アルナとローリィはほとんど変わらず、どちらも学年で言えば上位に位置している。
こんな二人に付きっきりで教えてもらえるのも、シエラくらいのものだろう。
「覚えられたらローリィがお菓子作ってくれるわ」
「ほんと?」
「……覚えられたらな。僕の労力を無駄にするなよ」
そう言って視線を反らすローリィ。
どことなくローリィのカバンから、甘い香りが感じられる。
「お菓子もう作ってるよね?」
「! 犬か、お前は! これは覚えられたら、だ。待てだぞ、待てっ」
「いや、だから犬じゃないんだから……」
早くもお菓子に興味を示したシエラをそうやって抑制するローリィ。
アルナも苦笑いを浮かべるが、アルナはアルナでシエラを子犬のように扱うことがある。
それこそ、しっかりと覚えられたときの褒め方は頭を撫でて誉めちぎるなど同い年の子にやるようなものではない。
アルナからすれば、シエラが覚えられることが本当に嬉しいのだろう。同時に、褒められることでシエラの覚えがよくなる、ということも理解しているようだった。
ローリィの方はシエラを褒めるようなことはしない。
以前と変わらず、スパルタ系の教え方をする。
けれど今のようにお菓子を作ってくるなど、要所要所でシエラのために行動してくれていた。
「ローリィのこと、ツンデレって言うんだよね」
「そんな言葉をどこで覚えた!?」
「父さんの持ってた本」
シエラの知識の基本はエインズとの暮らし、エインズの持っていた本、そしてエインズからもらったノートだ。
最近はノートを見る機会も少なくなり、学園生活に馴染めていることがよく分かる。
――単純にシエラが困っていないから見ないだけで、本来ならば参考にすべき点はたくさんあるが。
ローリィの作ったお菓子とアルナの誉め殺し作戦によって、シエラのパフォーマンスが数倍以上に跳ね上がる。
結果――今日教えられたことをほとんど覚えることに成功した。
「やればできるじゃないの! シエラ、私は信じていたわよ」
そう言ってアルナがシエラの頭を撫でる。
普段は無表情のシエラも、アルナに褒められてその表情は綻んでいる。
「……まあ、普段からそれくらいできれば何も問題はないんだけどね。ほら、ほしがってたやつだ」
「やった」
ローリィがそう言って、カバンからお菓子を取り出す。
やはりはじめから作って用意していたらしい。
アルナも微笑みながらローリィのことを見る。
「べ、別にシエラのために用意してたものじゃないからね? 皆で食べようと作っていたもので……」
「ツンデレ」
「その言い方をやめろっ!」
「ふふっ、ローリィったら嬉しそうにして」
「これのどこが嬉しそうなのさ!」
「わたしは嬉しいよ」
「ぐ、い、いいから食いたければ食え!」
「うん、ありがと」
――そのあと、図書館で騒いでいるのと飲食をしているのがバレて怒られたのは言うまでもない。
別所で応募用に書いているものですが、せっかくなのでこちらでも投稿始めました。
同じく学園物ですので、ご興味ある方はどうぞ。
色々連載物もあるので、一先ず十万文字くらいの完結は目指してます。
https://ncode.syosetu.com/n0835fj/
生まれ変わった《剣聖》は楽をしたい ~最強の《剣聖姫》の護衛になりました





