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60.ローリィ、追いかけられる

 ローリィは図書室を逃げるように後にした。

 いや、実際逃げ出したのだ。


(あいつ、何で急にあんなこと……!)


 そう考えるが、ローリィにも覚えはある。

 シエラがローリィとアルナの仲を取り持とうとしているのは明白だった。

 何も考えていないような表情をして、実際に何も考えていない。

 だから、簡単にあんなことを言えるのだろう。


(僕は、アルナお嬢様を守るためだけにいるんだ……)


 早歩きだったローリィの足が、徐々にゆっくりとなっていく。

 小さく息を吐いて、心を落ち着かせる。

 アルナと仲良くしたい――そんなこと、ローリィだって思っている。

 昔のように戻りたい、と。


(でも、僕には……)

「ローリィ」

「っ!? お、お前、どこから!?」


 ローリィは驚きの表情で、突如窓から現れたシエラを見る。

 後ろからやってくるならまだしも、シエラが出てきたのはローリィの歩いている方角の先。

 先回りをするのにどのような動きをしたというのか。


「……っ」


 ローリィは咄嗟に、窓を開いてその場から飛び降りる。

 それを見ていた何人かの生徒から、小さな悲鳴が上がった。

 三階からの飛び降りだ――シエラがよくやることだったが、まだ見慣れていない生徒も多い。

 シエラに実力では及ばないにしろ、鍛えた身体がある。

 この程度の高さであれば、飛び降りるくらいは造作もない。

 当然、シエラもそれは同じだ。


「待って、ローリィ」

「ついてくるな!」


 空中で話しかけてくるとは思わなかったが、ローリィは拒絶の言葉を口にする。

 元々、頭を冷やすために図書室を出たのだ。

 それなのに、シエラが追いかけてきては元もこうもない。

 だが、シエラはそんなローリィに対しても食い下がる。


「言い忘れてたことがある」

「後にしろ!」


 ローリィは地面を蹴って、駆け出す。

 全力での疾走――常人離れした身体能力は、図書室のある建物からあっという間に距離を取る。

 当たり前のように、シエラはついてきた。


(ぐっ、こいつ……!)


 焦るローリィに対し、シエラは余裕の表情だ。

 どこまでも追いかけてくる気なのだろう。

 ローリィも意地になっていた――それならばどこまでも逃げてやる、と。

 図書室を離れ、本館に入り、廊下を駆け抜ける。

 途中で講師に見つかって「走るな!」と怒られても関係ない。

 ローリィはひたすらに逃げることを選んだ。

 そんなローリィをどこまでも追い詰めるのはシエラだ。

 一瞬まいたかと思えば、先回ししてシエラは立っている。

 時には木の上に、時には天井裏から――どこへ逃げてもシエラは追いかけてくる。

 ローリィとて、ずっと全力で走ることはできない。

 やがて息を切らしながらたどり着いたのは、本校舎から離れたところにある森林園だった。

 ここも学園の敷地内で、お昼休みなどに生徒達がよく利用している。

 夕暮れ時になって、今は生徒もいない。


「はっ、はあ……くそっ」


 悪態をつきながら、ローリィがベンチに倒れるように腰かける。

 その後ろから姿を現したのは、シエラだ。


「……しつこいんだよ、お前は……」

「話があるって言った」


 どこまで逃げても、逃げ切れないというのはこういう気持ちなのか、とローリィは理解した。

 これが戦いであったのならゾッとする。

 シエラが仲間であってよかったと思わされると同時に、ローリィにとってはある事実をどこまでも見せつけられてしまう。

 その気持ちを押し殺して、ローリィは観念したように問いかける。


「……何だ、話って」

「アルナにローリィと仲良くなってほしいって伝えた。だから、ローリィにもそうしてほしいって先に言おうと思ってたんだけど、忘れてた」

「……っ。余計なことはするな。僕はそんなこと――」

「思ってる。だって、ローリィはアルナのこと心配してるから」

「当たり前だ。僕はカルトール家の執事として――」

「違う。ローリィはローリィとして、アルナを心配してる」

「――」


 はっきりと、シエラがそう告げた。

 ローリィは思わず身体を起こして、シエラの方を見る。

 この少女は、何も考えていないはずだ。

 ろくに勉強もできないような、強いだけの少女――そのはずなのに、どこまでもローリィのことを見透かしているようなことを言う。


「お前に、何が分かる……」

「分かるよ」

「分かるわけないだろ! 僕と知り合ってどれくらいだ!? そんな短い期間でどうしてわかる!」

「アルナを本当に守りたいって気持ちが伝わるから」

「そんな、曖昧な……! いや、いい。とにかく、だ。勝手なことは――っ!?」


 ローリィはいつものように取り繕うつもりだった。

 そんなローリィを、押し倒すようにシエラが覆いかぶさる。

 体格だけではシエラよりもローリィの方が上だというのに、抵抗する間も与えられなかった。


「なにを……!?」

「わたしはローリィがしたいことを聞いてる」

「……そんなこと、聞いてどうする」

「アルナもローリィと仲良くなりたいと思ってる。わたしは、二人に仲良くなってほしい」

「何でお前がそんなことを気にするんだ」

「二人ともそう思ってるから」


 シエラの言うことは間違っていない――アルナとローリィのそれぞれの態度から、察したのだろう。

 そんなことができるあたり、どこまでもシエラは人間離れしていると言える。

 シエラがそうしたいと思うのは、そうあるべきだと思うから――実に単純な理由だ。

 けれど、ローリィはそこまで単純には考えられない。


「……僕の役目は、アルナお嬢様を守ることだ。その役目すらも……満足に果たせないんだ。はっきり言って、僕はお前に嫉妬してる」


 ローリィははっきりとそう言った。

 アルナと仲良くなることも、アルナを守ることも――ローリィがしたいと思ったことは、全てシエラがやっているから。

 だから、ローリィがするべきことはそれをサポートすること。

 それだけでも構わないと思っている。

 けれど、シエラはそれを望まないようだった。


「嫉妬っていうのは、よく分からない。けど、わたしはローリィとも仲良くしたいと思ってるよ」

「……っ。本当に、何も分かってないんだな……。僕はお前と仲良くするつもりはない。あくまでアルナお嬢様を守るために一緒に行動するだけだ」

「それでもいいよ」

「それでもいいって……分かってないだろ」

「アルナを守るために一緒にいるんだよね?」

「それはそう、だが……」

「じゃあ、それでいいよ」


 そう言って、シエラはローリィの傍から離れる。


「『同じ目的を持つ人とは仲間』は傭兵の基本なんだよ。知ってた?」

「傭兵って……何だ、それ」


 突然そんなことを言うシエラに、ローリィの理解が追い付かない。

 ただ、ローリィにもシエラのことが理解できた。

 きっと彼女には、何を言ったとしても退くということはしないのだろう。

 何を言われても、その気持ちは揺らぐことはないと思っていた――けれど、ローリィにとってはアルナの護衛になりたいと言った時点で何も変わっていなかった。

 アルナの傍にいたいという気持ちは、ずっと変わらない。


(だからこそ、僕は今のままでいいんだ)

「……シエラ、そう呼ばせてもらう。お前の言いたいことは分かった。それでも、僕は今のままでいい。それは理解してほしい。そうしたら、僕とお前は仲間ということで構わない」

「友達ってこと?」

「そう呼びたいならそう呼んでくれても構わない。だが、僕とアルナお嬢様の関係にはこれ以上踏み込まないでくれ。それが僕の願いだ」

「……ローリィがそう言うなら、分かった」


 そこでようやく、シエラが頷いた。

 納得はしていないようだったが、分かったという以上はこの件でローリィを追い回すようなことはないだろう。


「分かったのならアルナお嬢様のところに戻れ。まだ勉強会の途中だろう」


 そう言い残し、ローリィはその場を去っていく。

 シエラが仲を取り持とうとしたところで何も変わらない――ローリィはそう考えていた。


(本当に、バカな奴だ。そう言うと怒るだろうが……)



 そう考えていたローリィの中で、わずかに変化があったことに本人がまだ気づけていない。

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タイトル変更となりまして、書籍版1巻が7月に発売です! 宜しくお願い致します!
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