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53.シエラ、ただ蹂躙する

 全員が部屋を出た後、一人残ったシエラが構える。

 手に持った《赤い剣》はまるで敵を引き寄せるかのように輝きを増していく。


(《遠隔型》なら、一番魔力の反応の強いところに集まるはず)


 ――魔法で操る人形のうち、遠隔型と呼ばれるモノはその名の通り離れた距離からでも操ることもできる。

 ただ、多くは簡易的な命令によって動くようになっている。

 動いている者を殺せとか、建物の中にいる者を殺せとか――今回の場合、シエラは最初の人形の動きを見て察した。

 魔力の大きな者を追うようにしている。

 だから、シエラがここで《装魔術》を使用して構えているだけで、敵はよって寄って来るだろう。

 実際、シエラの考えは当たっていた。


「……来た」


 ガチャガシャと音を立てながら、やってくる。

 先ほどの人形はテーブルの下に隠れていたためその全容は窺えなかった。

 だが、少なくとも人らしい形をしている物は少ないのだろう――誰かが、この塔にある装飾品などに混ぜて人形を配置していたのだから。


「……」


 一瞬の静寂の後――それは姿を現した。

 シエラの背後、突き抜けた床の底から出てきたのは、数十本の腕を持つ人形。

 シエラの一撃を受けて傷ついた姿だが、まるで蜘蛛のような身体をしている。

 そこから生える複数の腕には、いくつもの刃物が握られていた。

 シエラは迷うことなく剣を振るう。

 赤い斬撃は今度こそ人形を捉えて、吹き飛ばす。

 バラバラと砕け散った部品が宙を舞うと同時に、戦闘が開始された。

 穴の開いた床、入り口、窓に至るまで――次々と多種多様な人形がやってくる。

 いずれも動物をモチーフにしたような姿の彼らは、ある者はシャンデリアの上に。

 またある者は飾られた食器や絵画に隠れていたものだ。

 シエラがこの塔に入った時に確認したものもある。


「ふっ」


 一呼吸。

 吐き出した息と共に、シエラは動き出す。

 床を踏みしめると同時に、部屋の入口に押し寄せた人形達を斬撃で一掃する。

 魔力の込められた一撃は、人形達を簡単に吹き飛ばした。

 シエラはそのまま、部屋から飛び出す。

 螺旋状に構成された塔の頂上――そこから見下ろすと、歪な人形達が次々とシエラに向かって登ってきているのが見えた。

 同時に、ローリィと共に逃げるアルナの姿も見える。

 アルナがちらりと一瞥し、シエラはこくりと頷いて答えた。

 ここは大丈夫――そういう意味だ。


「ギギギギギギ」


 奇妙な音を鳴らしながら、数体の人形が背後から迫る。

 細長い腕で床を搔き、ズルズルと勢いよく、走るようにシエラの下へとやってくる。

 シエラは剣を振り上げて、それを両断する。

 そのすぐ後ろから、隠れていた人形が飛び出してくる。


「!」


 シエラの両腕を、人形が掴んだ。

 ミシリと締め付ける力が直に伝わってくる。

 シエラの腕を無理やり広げるような形になる。

 動きを止めて、確実に仕留めるつもりなのだろう――人形達はそれぞれ顔を持っている。

 口元から生えるように出てきたのは、一本の針だった。


(毒針……暗殺者はこういうのが好きだね)


 ヒュンッとシエラ目掛けて、毒針が射出される。

 シエラはわずかに身をかがめると――上下の歯でそれを受け止めた。

 そのまま、舌先に小さな《方陣術式》を展開する。

《風》の魔法――シエラが加速する時に足元に展開する魔法と同じものだ。


「かえふよ」


 小さな声でそう呟いて、シエラは口元の針を飛ばす。

 勢いよく加速した針は、人形の頭部を貫いた。

 その一撃で頭部にヒビが入り、シエラはさらに蹴りを一撃食らわせる。

 よろけた人形がシエラの両手を離すと、そのまま剣での一撃で人形を葬り去った。


(今ので……何体だろう)


 途中までは数えていた、小さな人形も含めると相当な数になる。

 一人の手練れか複数人のチーム――シエラはそう予想していたが、さすがに今の情報だけではどちらか分からない。

 これが直接操作するタイプの人形であれば、シエラにも相手の実力が分かるのだが。


(……なら、いいよ)


 シエラは再び動き出す。

 集まってくる人形達を次々と切り捨てながら、シエラは螺旋状の塔を下っていく。

 どこかの部屋に隠れていたのだろう――上からもまだ人形達はシエラを追いかけてきた。

 シエラはその場で構えて、剣へと魔力を集中させる。

 シエラが繰り出したのは、赤い斬撃。

 それは今までのものとは比べものにならないほどの大きさ――赤い三日月となって、シエラに襲い掛かる人形を両断していく。

 そのまま、斬撃は塔を切断するのではないかという勢いで壁を破壊し始めた。

 地震でも起きたかのように揺れる塔の中、それでも崩れないのはシエラの一撃が上手く加減されていたからだと言える。


(……うん、こういう感じなのかな)


 シエラが赤い剣を持ったまま、さらに威力を調整する――普段なら絶対にやらないことだろう。

 むしろ、シエラにはできない芸当だった。

 そのできないことを可能にしたのは、すぐ下にいるアルナのためだ。


「……さてと」


 シエラはすぐ近くで壊れかけた人形の頭を掴むと、そのまま床に叩きつける。

 無表情のまま、シエラは淡々と言葉を続けた。


「これ以上は無駄。でも、続けるっていうのなら、いいよ」


 シエラはそうして、人形の頭を素手で握り潰す。

 パラパラと欠片が砕け散り、シエラの手にもう一本の《赤い剣》が握られていた。


「《デュアル・スカーレット》――残りも全部、壊してあげる」


 シエラの口角がわずかに上がる。

 戦いの中で無意識に、彼女は高揚するのだ。

 再び人形達がシエラの下へと集まってくるが、何も変わらない。

 本気を出したシエラに、ただ蹂躙されるだけの人形達が次々と雨のように塔の下層へと降り注いでいく。

 シエラは吹き抜けとなっている塔の中心部から飛び降りて、着地した。


「! シエラ!?」


 アルナの驚きの声が耳に届く。

 丁度、一番下まで降りてきたローリィとアルナに合流する形となる。



「アルナ。約束通り、すぐに追いついたよ」


 むしろ追い越してしまうほどだったが、そんなシエラの姿を見てアルナが安堵の表情を浮かべる。

 結局――シエラは襲い掛かる人形達を、ただ一人で全て壊し尽くしたのだった。

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タイトル変更となりまして、書籍版1巻が7月に発売です! 宜しくお願い致します!
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