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4.シエラ、侵入者になる

 王都――《オルグア》。

 地方からもやってくる人も多く、年々人が増えてきているという。

 そのため、中心部には貴族などの富裕層、王都の端の方になると貧困層といった具合に分かれている。

 外壁で覆われた王都は移住してくる人々に応じて改修も検討されているということだった。

 そんな王都に一人、シエラはやってきた。


「《ロウスタ魔導学園》……だっけ」


 懐から一枚の紙を取り出して、シエラは情報を確認する。

 エインズからもらった王都の地図だった。

 シエラが今いる場所は王都の東側の外壁の上――そこは本来、人が立ち寄れるような場所ではなかった。

 上からの方が簡単に見つけられそうだと、シエラが登ってきたのだ。

 シエラが学園を目指す理由――そこはエインズの知り合いが学園長を務めているらしい。

 全寮制の学園であるため、普段の暮らしにも慣れていくことができるだろう、とエインズは言っていた。


「……中央寄りだから、このまま真っ直ぐって感じかな」


 おおよその位置取りは把握できた。

 シエラはそのまま、外壁から飛び降りる。

 シエラが降り立ったのは人通りの少ない道だったために、目撃者は少なかったが。


「……え、今?」

「上から来なかったか……?」


 目撃者の何人かは、そんなことを口にする。

 シエラは特に気にすることもなく歩き出した。

 降り立ってから、シエラはエインズの言っていたことを思い出す。


(そう言えば町中では目立つ行動はするな……って言ってたっけ)


 すでに目立ち始めているが、それに気付くことなくシエラは気を付けようと心に決める。

 一先ずは、学園の方に向かって歩き始めた。

 王都の中心部に向かうほど、だんだんと人通りも多くなってくる。

 何故か、シエラの方に視線が集まっていた。


「……?」

(見られてる。何でだろう……?)


 幼い頃から戦場で生きてきたシエラは、他人からの視線には敏感だった。

 もっとも、それは殺気を感じ取るという意味で重要だったために、今の感覚は良く分からない。

 太陽の光に照らし出されると、長い銀髪はより輝きを増す。

 ローブは森の中で捨ててしまったために、白い肌を露わにしていた。

 少し前までは泥に塗れていたようなシエラだったが、別れ際にエインズから綺麗な洋服を渡されている。

 女の子だから少しはそれらしく、とエインズは言っていたが――よく分かっていなかった。

 シエラに視線が集中しているのは、そんなあまりに目立つ少女に目を奪われているということに起因しているのだが、シエラは気付きもしない。

 この中に暗殺者でも混じっていれば、別の意味でシエラは気付いていただろう。


(……あまり汚すなって言ってたけど、さっき馬車から下りた時に泥も付いちゃったな)


 足元を見てそんな風に考える。

 先に宿を見つけるという選択肢もあったが、


(まあでも、挨拶してからの方が自由だよね)


 そう思うのが早く、シエラはまた学園の方を目指す。

 相変わらず視線を向けられることにやや違和感を覚えつつも、迷うことなく進んでいく。

 もっと複雑な洞窟の中でも、エインズと共に魔物の討伐を行ったことがある。

 王都は確かに入り組んでいる場所もあるが、それに比べれば楽な方だった。

 人通りの多い道もするすると抜けるように歩き、シエラは学園の前に立った。


(また壁だ……)


 素直な感想を漏らす。

 王都の外壁に比べれば小さいが、それでも周辺の住宅に比べると存在感を放っていた。

 ロウスタ魔導学園――シエラが入学試験を受ける予定の場所だ。

 シエラはきょろきょろと周囲を確認する。

 外壁に覆われていて、すぐに入口が見当たらない。


(じゃあ、ここからでいっか)


 シエラはそう決めると、少し助走をつけて壁へと走り出す。

 そんな姿を周囲の人々は訝しげな表情で見ていた。


「何やってるんだ、あの子――」


 道行く人がそんな疑問を口にした直後、シエラは跳躍した。

 一回目のジャンプで、ほぼ外壁の頂上にまで達する。


(あ、微妙に足りないや)


 そんなことを心の中で呟くと、さらに壁を一度蹴る。

 垂直の壁を蹴りあげて、シエラはそのまま学園の敷地内へと入っていった。

 その姿を見送った人々は唖然とした表情でシエラを見送る。

 ザッ、とシエラが着地すると――そこは自然に溢れる場所だった。

 王都の中は石造りの建物が多く、学園もまた外壁に覆われていてイメージからすると変わらないものだと思っていた。

 だが、そこにあるのは緑色の草木達。

 シエラはこういった自然の場所をよく好む。


「……悪くない――」


 そんな感想を口にしようとした時、すぐ近くに人の気配を感じた。

 今度は先ほど都の中で感じていた視線とは違い、敵意の感じられるものだった。

 やってきたのは、二人組の男女だった。


「なに……子供、だと?」


 男の方が、シエラを見て驚いた表情を見せた。

 もう一人、女性もまた同じように驚いている。


「侵入者用の結界に反応があったから来てみたけど」

「えっと、学園長に挨拶に来たよ」

「挨拶って――あれか、学園長が言っていた女の子の……」

「あっ、朝方お話しのあった……!?」


 何かに気付いたように男がそう言うと、女性もハッとした表情を見せた。


「たぶん、それ」


 シエラはそんな風に適当に答える。


(……まあ、こんなところで急に襲ってくるわけもないかな?)


 先ほどまで感じられていた敵意は幾分か和らいでいて、シエラもまた後ろ手に隠していた《赤い剣》をスッと手放す。

 地面に溶け込むように、剣は消えていった。

 学園に到着したシエラは、侵入者として見つかることになるのだった。

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タイトル変更となりまして、書籍版1巻が7月に発売です! 宜しくお願い致します!
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