31.シエラ、甘い物尽くし
王都の大通りは、相変わらず賑わいを見せていた。
人通りも多い中で、シエラとアルナはその間を縫うように移動していく。
シエラがアルナの手を引いて先導する形だった。
人混みの中でも、シエラは抜け道でも見つけるように進んでいく。
この人混みの中でも――シエラならば殺気ですぐに狙っている者には気付くことができる。
学園内でも外でも――アルナが狙われているという事実は変わらない。
それでもシエラと一緒に出掛けようとアルナが言い出したのは、シエラのためなのだろう。
人混みを抜けてある程度落ち着ける場所に着いてから、二人は行き先について話すことにした。
「どこに行けばいいの?」
「シエラさんは甘い物がいいんでしょう?」
「うん」
「そうね……この近くに美味しいって噂のパン屋さんがあるらしいけれど、そこはどう?」
「いいよ、そこに行こう」
アルナの提案を受け入れるシエラ。
大通りから少し外れたところにあるパン屋に二人は向かう。
途中――いくつか見える看板にシエラが目を奪われつつも、今度はアルナの先導によって目的地へとたどり着いた。
「……シエラさんは食べ歩きの方がいいかもしれないわね」
「どうして?」
「どうしても何も、途中で色々なものに目を奪われていたじゃない」
「アルナも行きたそうだったから」
「うっ……まあ、否定はしないわ」
シエラが反応するものは、大体いい匂いを漂わせていたり、見た目からしても美味しそうだったり――人より目も鼻も良いシエラが選ぶものは良いものが多い。
本人に選ぶ意思があるときに限るが。
パン屋に入った二人は、それぞれ気に入ったパンを選んで買うことにした。
店の中には豊富な種類のパンと、店で買ったものをそのまま食べられるようにテラス席が用意されている。
シエラとアルナは向かい合うようにして座る。
シエラは干した果物を使ったパンからクリームが詰まったパンなど相変わらず甘さに特化したものだった。
一方のアルナは見た目重視というところだった。
「……動物?」
「ふふっ、可愛いわよね。私、こういう趣向を凝らした感じのものが好きなのよ」
笑顔でそう答えるアルナ。
犬や猫をモチーフにしたものだ。
趣向を凝らした――と言いつつも、何となくアルナの買ったパンを見て思う。
(可愛いものが好き?)
シエラにも見た目で可愛いと感じるものはある。
それこそ猫や犬――魔物でも可愛らしい見た目のものにはそう感じる。
どんな見た目であろうと、仕事であれば容赦しないのはシエラらしいところだが。
「シエラさんは飲み物、何にする?」
テラス席を用意しているだけあって、ある程度くつろげるように飲み物も取り扱っていた。
シエラはメニューを広げて考える。
果物の名を冠した飲み物は間違いなく甘いだろう――だが、他にもいくつか気になるものはある。
「メロンソーダがいい」
「また甘いものを選ぶのね……」
「ダメ?」
「またそういう顔を……まあ、今日はいいってことにしましょう。私はコーヒーにするわ」
「アルナ、コーヒー好きなの?」
「そうね。苦味があるのも良いと思うし、貴方は飲まないかもしれないけれど、ミルクや砂糖を入れればコーヒーだって甘い飲み物になるのよ? もちろん入れすぎはよくないけれど」
「そうなんだ」
次はコーヒーを頼んでみよう――アルナの話を聞いて、そんなことを考えるシエラ。
黙々と甘いパンを食べながら、さらに甘いジュースを口にする姿に、アルナが苦笑いを浮かべる。
「……貴方がいいのならいいのだけれど、胃もたれとか大丈夫なのかしら」
「? よく分からないけど美味しいよ」
「それならいいのだけれど……」
アルナの口調は少し心配するようであったが、当のシエラは気にすることもなく次々と食べていく。
元々傭兵生活を送っていて、身体を動かす機会も多かったシエラの代謝は人よりも良い。
甘いものを多少取りすぎても問題はなかった。
シエラの取り方は多少を超えているようにも見えるが。
「さて、次は買い物にでも行く? 私の元々の目的はそっちなのだけれど」
「何か買うの?」
「色々と見たいものがあるのよ。シエラさんは何か買いたいものはないの?」
「わたしも……ある」
「あら、何を買うつもりなのかしら」
「……これから考える」
「そう? なら、次は買い物で決まりね」
こくりと頷くシエラ。
シエラの買いたいものは、あくまでアルナに渡すものだ。
何となく、買う物の方向性は決まりつつあるシエラであった。





