28.シエラ、アルナに教える
「魔力をボワッて感じにして、ボボボってやるんだよ、分かった?」
シエラは身振り手振りで大きく表現をする。
そして、アルナに問いかけた。
アルナは苦笑いを浮かべて答える。
「えっと、全然分からないわ」
「そっか」
「あ、その……私の理解力が足りないからよね!」
露骨にテンションの下がったシエラをフォローするようにアルナが言う。
《魔法学》に関しては非常に詳しく話すことができるシエラだが――実際に教えるとなると話は別だ。
シエラが今教えているのは《装魔術》に関するものだった。
アルナも時間に限りはあるが使えるらしく、練習していたところはシエラも目撃している。
魔力の塊を武器とする装魔術は、本人の能力にも大きく左右されるところはあり、コントロールも難しい魔法だ。
アルナがそれをマスターしたいと考えるのは、身を守るためだろう。
「もう一回説明してくれる?」
「うん」
何故か教える立場のシエラが諭されるようになりながら、シエラは再び説明を始める。
「手の先に魔力をガーッてして、ギュッとする。ゴワゴワしてくるけど、もっとギュッとするんだよ」
「……何となくは理解できたわ」
シエラの説明に何とか頷くアルナ。
ちなみにシエラの説明は簡単に言うと「手の先に魔力を放出させて、それを固めるイメージをする。固めても魔力が暴れだすような感覚があってもそれをさらに固定させる」というものなので、あながち間違ってもいない。
アルナからしてみれば、授業中は魔法に関しても説明できていたのに、教えるとなるとどうしてこうなってしまうのかという気持ちの方が大きいだろう。
これは、シエラが分かりやすく伝えようとして、逆に分かりにくくなっているパターンだった。
――元々、知識として持っていても、シエラ自身が感覚派なのも要因の一つだ。
実際、装魔術は基本的な魔法の発動方法である《方陣術式》とはやり方が少し異なってくる。
魔力の放出のあとに必要な術式を次々と用意するのだ。
剣として魔力の存在を固定、具現化するのをさらりとやってのけるシエラだが、そこに辿り着くのは並大抵の努力ではない。
アルナが改めて、シエラの前でそれを披露する。
「……ふぅ」
深い呼吸のあと――アルナの手元に魔力が集中していく。
そこに現れるのは小さな術式。
そこには何も存在せず、魔力という概念が集まっているだけだ。
やがてそれが《剣》を象ろうとする。
少しでも集中を切らせば、その剣はすぐに霧のよう消えてしまうだろう。
そう思えるほどに不安定なものだったが、シエラのものとは対象的に青く、そして白く輝くそれはどこか幻想的でもあった。
「アルナ、綺麗だね」
「っ!?」
シエラの言葉に動揺したのか、アルナの作り出した剣は霧散していく。
「あ、綺麗な剣が……」
「そ、そうよね。剣のことよね」
「……? アルナも綺麗だと思うよ」
「……面と向かって言われるのは恥ずかしいからやめて頂戴」
「陰で言えばいいの?」
「そういう意味でもないわよっ」
すかさずシエラに突っ込みを入れるアルナ。
一応、動揺して消滅してしまったが、アルナのコンディションが良い状態なら五分は維持できるとのことだった。
「シエラさんはどのくらい維持できるのかしら?」
「うーん、もう数えたことないから分からない。適当に置いとくから見といてもらってもいいよ」
シエラはそう言うと、作り出した《赤い剣》を地面に突き刺す。
アルナからしてみれば、手元から離れても消えずに残っているというのは驚きだった。
「これって、このまま消えないものなのかしら……?」
「維持できる限りは。あまり遠くになると消えるかも」
普段から剣を投げて扱うことも多いシエラには慣れたものだった。
およそアルナには想像できるレベルのものではなかったが、
「……一先ず、十分維持するところから始めて見るわ」
「それでいいと思う。わたしも最初はそうだったから」
そんなシエラの発言を聞いて、安堵した様子のアルナ。
年齢的には同じであっても色々と規格外なシエラにも、そういう時代はあったのだと感じさせる言葉だった。