26.シエラ、約束を思い出す
シエラはクラスメートの女子生徒二人と、図書室へとやってきていた。
本館から少し離れたところにあり、扱われている本の数は多種多様だ。
立ち入り禁止区域には、実際に魔法の効果を持つ《魔導書》も存在しているという話だ。
「それでねー、初代の王――ゴルドーフ・フェルトス様がこの地を治めて今の《フェルトス王国》ができたってことだよ。フェルトス王国のフェルトスは初代様の名前から来てるわけだねー」
「そうなんだ」
説明を受けて、シエラは頷いて答える。
語尾が特徴に伸びやすく話すのは、茶色でピンとはねた髪が特徴的なルイン・カーネル。
もう一人は黒髪の清楚な出で立ちをした少女、オーリア・トルトス。
オーリアの方はアルナと同じく貴族とのことだが、本人曰く下級の貴族であり、アルナとは格が違うと言っていた。
それでも、話し方はどこか気品を感じさせる。
他方、ルインの方はどこかシエラにもフレンドリーであり、話しやすい雰囲気を感じさせる。
本当はルインの連れと合わせて三人で勉強をする予定だったのだが、急遽用事ができたと言ってルインとシエラの二人で図書室へとやってきた。
そこにいたクラスメートのオーリアと合流した形になる。
「ルインさんは意外と博識なのですね」
「意外は余計じゃない? それを言うならオーリアさんだって毒舌なのは意外って感じー。シエラさんは何て言うか、雰囲気とか話し方とか全部一致してるけど」
「そうかな?」
「そうだよー! ミステリアスっていうかさ、なに考えてるか分からない感じがするよねー」
実際、普段は特に何か考えているわけではないので当たっている。
今はアルナのことについて、特に考えをめぐらせていたが。
「カルトール様とお話しできるのも、シエラさんの性格……というところでしょうか?」
「二人はアルナとお話したいの?」
「話したいっていうかー、まあクラスメートなんだしそりゃあ仲良くしたいとは思うけど。馴れ馴れしいのは嫌いだって本人が言ってたし」
「……アルナが?」
ルインの言葉に、シエラは首をかしげる。
人一倍面倒見の良いアルナがそんなことを言うとは――シエラには到底想像できない。
「二人が話したいってこと、アルナに伝える?」
「え、ですが……」
「あたし達と話したいとは思わないんじゃないかなー。シエラさんは何て言うか、魔法の技術とかは特化してるし」
「魔法……あ」
魔法という言葉で、シエラはアルナとの約束を思い出す。
魔法を教える――そういう話をしていたはずだった。
けれど、アルナからは中々そのことについては触れてこない。
シエラはそれを思い出すと、そそくさと荷物をまとめ始めた。
「あれ、シエラさんもう帰る感じ?」
「うん、アルナのとこ行ってくる」
「お二人は本当に仲がよろしいのですね」
「だねー。あたしもそういう友達ほしいわー」
「ルインさんはお友達がたくさんいるイメージですが」
「ま、ねー。友達と親友は違う違う、みたいな?」
ルインにはルインで悩みがあるらしい。
シエラにはそもそも友達と呼べる人間はアルナしかいないと考えている――けれど、二人がアルナと話したいというのなら、それをアルナに伝えるくらいのことはできる。
「二人のこと、伝えとくけどいい?」
「あー、まあいいけどさー。結果があれだったらフィードバックはいらないから」
「……? 分かった」
言葉の意味はよく理解していなかったが、シエラはとりあえず頷いて答える。
そのまま図書室の窓をガラリと開けると、
「え、ちょ、シエラ――」
「じゃあ、また明日ね」
窓から飛び降りた。
シエラのいた部屋は三階だが――ルインとオーリアが窓から下を眺めたときには、遥か先に駆けていくシエラの姿があった。
「……シエラさんってさー。田舎の出身とか聞いたけど、田舎の人ってみんなああなの?」
「……さあ、どうでしょうか」
田舎の人々へのあらぬ風評を広めていることに気付かぬまま、シエラはアルナの下へと向かっていった。





