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25.シエラ、勉強する

 翌日、シエラとアルナは以前と変わらずに過ごしていた――かのように見えたが、いつになくシエラがそわそわとしている。

 アルナだけでなく、クラスメート達まで気にするほどだ。


「シエラさん……どうかしたの?」


 たまらずその雰囲気に、クラスメートが声をかけてくる。

 ピクリとわずかに反応したシエラは、


「どうもしないよ?」


 いつものように抑揚のない声でそう答える。


「そ、そう?」


 クラスメートもそれ以上聞くつもりはないといった様子で、そそくさとシエラの下から離れていく。

 今度は、アルナが小声で話しかけた。


「シエラさん……もしかして、ずっと警戒してくれているの?」

「うん、護衛の仕事ってあまりしたことなくて」


 アルナに話しかけられると、少しだけシエラは声のトーンが上がる。

 本人は気付いていないが、話す相手によって表情も微妙に変化している。

 特に表情の変化に乏しいシエラだからこそ、嬉しそうな雰囲気などは伝わりやすい。

 シエラがそわそわとしている理由――それはシエラが言った通り、護衛の仕事はほとんどしたことがないからだ。

 傭兵だった頃、当然人を守るという依頼も来たことがある。

 だが、大抵本人の周囲を守るのは父であるエインズであり、シエラは近場で遊撃をするのが仕事だった。

 一人で誰かを守ることも、友達を守るということも初めての経験であるシエラは少しばかり落ち着きが足らなかった。

 そんなシエラを見て、アルナがシエラの手を取る。


「そんなに警戒しなくても、ね? ここだと皆が心配するから」

「そうなの?」

「そうよ。シエラさん、普段と全然違って見えるもの」

「全然違う……」


 アルナの言葉を繰り返し、シエラは考えをめぐらせる。

 以前――エインズが言っていたことを思い出した。


 ――いいかい、シエラ。護衛の仕事に必要なのは平常心だ――と言っても、シエラはいつも平常心だから心配はしてないけどさ。


「……!」


 ハッとした表情を見せるシエラ。

 これもまたシエラが普段見せる表情ではなく、そんな表情もできるのかとクラスメートを驚かせることになるが、やがて普段通りの表情に戻る。


「うん、普段通りでいいんだよね」

「そういうこと。私だって常に変わらないもの」


 命を狙われているというのに、確かにアルナの雰囲気は変わらなかった。

 それはシエラも同じことだが、護衛をされる側の人間はおよそ怯えているような雰囲気を感じさせるのが常だった。


(アルナは王様になれる人だから、そうなのかな?)


 心の中でそう解釈するシエラ。

 王になるとかならないとか――シエラにはおよそ理解できる話ではなかったが、アルナを守ればいいという分かりやすい目標がある。

 それだけで十分だった。

 その後、授業中も特にシエラは目立った行動はなく――普段通り《魔物学》と《魔法学》の授業では目立っていた。


「《ロック・ガム》はその魔物の性質上、柔らかさと硬さを兼ね揃えた珍しい魔物。魔法での攻撃――特に火属性の術式が有効。具体的には――」

「そ、そこまでは聞いていませんからね!」


 魔物学では対魔物戦に関して有効となる具体的な魔法まで指し示そうとしたり、魔法学の授業では黒板の前に立つと、


「……」

「せ、正解だね。素晴らしい」


 《方陣術式》も習ったばかりのものを完璧に書ききる。

 講師は間違えるところから始めるつもりだったのだが――シエラを当てたことで逆に出鼻をくじかれる形になる。

 他方、それを除いた授業については相変わらず興味が出ない――それがシエラだったのだが、《歴史》の授業についてはいつになく真剣にシエラが話を聞いていた。

 特に《王》に関するところだ。

 理解できているかどうかはともかく――理解しようという姿勢が見られた。

 放課後、そんなシエラを見てかクラスメート達が声をかけてくる。


「シエラさん、放課後図書室で勉強しない?」

「勉強……?」

「あ、ちょっと嫌そうな顔してる」

「こら、そういうこと言わないでさ。シエラさん魔物学と魔法学には詳しいでしょ? その話とか聞いてみたいし、他のことには興味なさそうだったけど、最近は歴史とかも興味ありそうだったから教えてあげようと思って」

「それなら、いいよ」


 クラスメートの提案にこくりと頷くシエラ。

 そのままアルナの方を向くと、


「アルナも行こう?」


 そう提案した。

 だが、アルナは首を横に振り、


「私はいいわ」

「え、でも……」

「いいのよ。勉強、頑張ってらっしゃい」


 シエラの言葉を聞くことなく、アルナは席を立つ。

 クラスメート達もその雰囲気に圧倒されつつ、


「相変わらずシエラさんはすごいねー。カルトール様に物怖じしないというか……」

「編入生ならではってやつ?」

「仮に編入してきてもカルトール様相手ならみんな萎縮すると思うけどね」

「……そうなのかな?」

「ん、何か言った?」

「……ううん、何でもない」


 シエラだけが、そのことについては疑問を感じていた。

 学園内であれば、どこにいたとしてもシエラは異変に気付くことはできる――護衛といっても、アルナからは四六時中一緒にいる必要はないと念も押されていた。

 それでも、アルナから離れて行動するのは少しだけ違和感を覚えるシエラだった。

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