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22.シエラ、仕事を終える

「……失敗した」


 あまり感情を表に出さないシエラだったが、目の前の光景を見て落胆した様子で呟く。

 生かしておいた暗殺者は――自害していた。

 少し考えれば当然のことで、躊躇なく相手を殺すシエラに捕まればおよそ無事で済むことは考えにくい。

 そして、暗殺に失敗した時点でこの男は自害すると決意していたのだろう。

 傍らには、アルナとシエラを狙った《毒針》が落ちていた。

 エインズであれば、このような失敗はしなかっただろう。


「……」


 シエラは無言のまま、その場を後にする。

 少なくとも、アルナとシエラを狙った七人の暗殺者は全て始末したことになる。

 だが、これでは送られてきた刺客を撃破しただけに過ぎない。

 また同じように送られてくる可能性もある。

 一先ず、シエラはアルナのところへと戻った。

 不安そうな表情のまま待機していたアルナに声をかける。


「アルナ」

「っ!」


 声をかけた瞬間、びくりと肩を震わせるアルナ。

 振り返って見せた表情は、怯えていたが――


「シ、シエラさん……!? 血が……!」

「大丈夫だよ、返り血だから」


 主に、爆破された死体の血を浴びた時のものが多い。

 銀色の髪も、学園指定の制服も赤く染まっていた。

 アルナは懐からハンカチを取り出して、シエラの顔を拭く。

 そんなアルナに、シエラは俯き加減で告げる。


「ごめん。情報聞きだすつもりだったけど、無理だった」

「それじゃあ、シエラさんが……本当に暗殺者を撃退したの?」

「うん、殺したよ」

「!」


 アルナの言葉に頷くシエラ。

「殺した」という言葉を聞いたアルナの表情は、少しつらそうだった。


「ごめんなさい。貴方に無茶をさせるようなこと……」

「……? 私が依頼してってお願いしたんだよ」


 シエラがアルナにお願いしたことは、何でもいいから依頼をするということだった。

 どうであれ、依頼という形になればいい。

 だから、シエラはアルナから依頼を受けた。


「この状況が切り抜けられたら、アイスくれる約束だから」

「……そう、ね」


 シエラが提案したのは、そんな簡単な口約束のようなものだった。

 およそ命を狙われている人間のやり取りではないが、シエラの言葉を聞いてアルナも頷いた。


切り抜けられたらアイスくらい、いくらでも買ってあげるけど――


 それを聞いたシエラはそれで《契約成立》とした。

 何度か仕事を受けるエインズを見たことはあるが、軽い口約束のようなものでも仕事をしていることを見たことがある。

 実際にシエラもその仕事を手伝った。

 だから、シエラは――自らの正体を明かして仕事を受けた。


「でも、情報聞き出せなかったから、アイス買ってくれない?」


 視線を逸らしながら、シエラはそんなことを聞く。

 たった今、七人の暗殺者を倒した少女の口から出るような言葉ではなかったが、アルナはそれを聞いて小さく首を横に振る。


「このままだと目立つから、ね? アイスはまた今度にしましょう」

「買ってくれるんだ」

「切り抜けられたらって話、だものね」


 周囲を確認するようにアルナが言う。

 実際、この近辺ではすでに大きな騒動となりつつあった。

 シエラが戦いを開始した時点で大きな爆発音――さらには、シエラが空中で殺した暗殺者の一部は地上で発見されている。

 騒ぎにするな、という方が無理な話だった。

《王国騎士》という、国の秩序を守る存在が徐々に集まってきている。

 そんな中、返り血だらけのシエラと共にどう説明していいのか――アルナも考えがつかなかった。

 だから、人目につかないようにシエラとアルナは二人で学園の方へと戻る。

 何より、今のアルナにとって唯一信用できる相手が――暗殺者から守ってくれたシエラしかいなかったということもある。

 戻る途中、シエラはアルナに問いかける。


「ねえ、どうしてアルナは狙われてるの?」

「それは……後で話すわ。私も、貴方のことは、きちんと聞いておきたいから」

「……? いいよ」


 こくりと頷くシエラ。

 依頼主の情報までは聞き出せなかったが、アルナを守るという意味では仕事は達成されたのだった。

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