表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/129

21.シエラ、暗殺者と戦う

 倒れた相手に目もくれず、シエラは二人の暗殺者と対峙した。

 仲間がやられた瞬間にも、暗殺者は左右に分かれてシエラから距離を取る。

 どちらか片方が狙われても、もう片方が背後から攻撃ができる。

 そういう判断なのだろう。

 だが、暗殺者達はすぐには動かない――否、動けなかった。

 標的であったはずのシエラが、仲間の一人を殺してここに立っているのだ。

 一瞬の静寂の後、先に口を開いたのはシエラだった。


「どっちでもいいよ」

「っ!」


 どちらでも同じこと――そう暗殺者に対して言い放った。

 ローブと仮面によって顔を隠しているが、どちらも男ということは体格で分かる。

 どちらも中肉中背と言えるが、片方の男の方がやや筋肉質な感じがする。

 それと同時に、シエラに対する反応もわずかに早かった。

 おそらく、シエラが殺した暗殺者がこの中では一番実力の劣っていた人物だと言える。


「その《赤い剣》――まさかとは思うが」


 口を開いたのは、反応の早かった方の暗殺者だ。

「まさか」というのは、シエラにもおおよそ想像できる。

 だから、迷わずに答えた。


「違うよ。わたしは違う」


 エインズ・ワーカーではない――そういう意味での答えだ。

 聞かれるたびにそう答えている。

 シエラはエインズではないが、それに並ぶ力を持っている。

 エインズではないと否定はするが、娘であるかと聞かれれば肯定するかもしれない。


「これは正直、想定外じゃないかな」

「ああ、だが……こうなった以上はここでやるしかない」


 一人は若い青年の声。

 もう一人は少し歳の食った男性の声のように聞こえる。

 シエラはこくりと頷いて答える。


「うん、わたしもそうしてもらった方が助かる。なるべく早く終わらせたいから」

「ははっ、なるべく早く、ね……僕はもう少し――」

「長引かせるつもりはないよ。早くそれ、引いたら?」

「……バレているかい!」


 直後、若い声の暗殺者が動いた。

 クンッと何かを引くような仕草を見せ、シエラはそちらを視認する。

 それは、シエラが見ることすらしなかった暗殺者の死体――そこに繋がった糸が引かれると同時に、死体がその場で爆発を起こす。

 死体にではなく、初めから暗殺者が爆薬を仕込んでいたのだろう。

 直後、暗殺者達が動き出す。


「今の、目くらまし?」

「な、ん……!?」


 若い声の暗殺者の驚きの声が響く。

 仮面で覆われているが、その下は驚愕に満ちた表情になっているだろう。

 暗殺者が目眩しにするために発動した爆薬――死体の血は目潰しとなるように周囲に降り注いだが、シエラはその中を迷わずに突き進んできた。

 暗殺者の前に《魔方陣》が展開され、すでに魔法が発動する瞬間だった。

 仲間の暗殺者よりも先に行動をしてしまったのが、この暗殺者の不運だったと言える。

 シエラがそのまま、魔方陣ごと暗殺者の胸に剣を突き立てる。

 ――呆気なく、二人目の暗殺者は命を落とした。


「あと一人は……あれ?」


 三人のうちのもう一人は、やはり反応が早い。

 シエラの動きを見て勝てないと判断したのか、二人目にシエラが迫った時点で距離を取った。

 可能な限り速く、遠くへ逃げる――それを、シエラは許さない。


「逃がさないよ」

「ぐあっ!?」


 シエラは暗殺者の頭を後ろから掴むと、そのまま床にたたきつける。

 建物の屋上から屋上へと跳んでいた勢いのままに、暗殺者の頭が床にめりこむほどの勢いを見せる。

 仮面が割れて暗殺者の素顔が露わになるが、シエラは興味を示さない。

 そのまま剣を振り下ろすと――シエラは暗殺者の足の腱を切った。


「が、ぐっ! な、にを……!?」

「どっちでもいいって言ったよね。どっちかには依頼主の話を聞かないといけないから。暗殺者には必ず依頼主がいる――《元凶》を絶たないとダメなんだって」

「情報、か……!」


 シエラの言った「どっちでもいいよ」というのは、どちらからかかってきても構わないという意味ではない。

 シエラにとってはどちらから来ても結果は同じだ――先に来た方を殺し、もう片方は生かして情報を聞き出す。

 そのための選択肢を提示しただけに過ぎない。

 結果的に、判断力に優れた暗殺者の方が生き残ってしまったと言える。

 だが、シエラは暗殺者に背を向ける。

 残り四人――先回りをしようとしていた暗殺者の仲間達がいる。


「ここで待ってて。聞きたいこと、あるから。すぐに終わらせて戻ってくる」

「……っ」


 シエラは反転して、すぐにそちらの方へと跳んだ。

 ここでの戦闘時間は一分にも満たない――アルナの下へ別の暗殺者が辿り着く前に、シエラが四人の暗殺者と遭遇する方が早いだろう。

 四人の暗殺者達もまた、シエラが向かっているとは気付いていなかった。

 建物から建物へと、四人が跳躍した瞬間にシエラが姿を現す。


「四人目」

「――」


 四人目はシエラの投げた赤い剣に貫かれて、声を発することもなく絶命する。

 空中で力の抜けた人形のようになった暗殺者は、そのまま地面へと落下していく。


「貴様!? どこから――」

「五人目」


 五人目はその剣を抜き取ったシエラによって首を跳ね飛ばされる。

 その間わずか二秒。

 六人目と七人目はシエラの存在に気付き、振り返り様に魔法を発動した。


「《アルター・フレイム》ッ!」

「《ボルト・ストーム》!」


 いずれも十六の正方形、上級魔法の《魔方陣》だ。

 仲間二人が一瞬で葬り去られたのを見て、即座に魔法を発動するという選択ができたことはさすがと言える。

 どちらの魔法も発動はした――発動はしたのだが、シエラの一振りによって全てが無に帰されることになる。

 赤い剣が作り出す《赤い斬撃》は魔力の塊――魔法すらも切り裂き、飲み込むそれは暗殺者の放った炎の魔法と雷の魔法を、暗殺者ごと無慈悲に消し飛ばす。


「これで仕事は終わり」


 着地したシエラは、赤い剣を手放した。

 六人を始末して、一人は情報を聞き出すために生かしてある。

 アルナにお願いして、受けた依頼は完璧にこなしていると言えた。


「仕事ならいいって父さん言ってた、よね」


 ぽつりとそう呟いた。

 シエラは父の仕事外では極力人を殺してはならない――その言葉には従っていた。

 その言葉に従うのなら、仕事であれば殺しても構わないということになる。

 だから、シエラはアルナに依頼をしてほしいとお願いをしたのだ。

 父の言葉に対して正当性を持たせようとしただけだ。

 アルナが頷かなければ、シエラは暗殺者達を拳で制圧することになっていたかもしれない。

 エインズの言葉には、どういう状況であれシエラは従っていた。

 それでも、シエラが勝つことに変わりはなかったが。


「情報、聞きださないと」


 シエラは生かしておいた暗殺者の下を目指す。

 シエラとアルナに迫った暗殺者達は、わずか数分のうちに全滅することになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイトル変更となりまして、書籍版1巻が7月に発売です! 宜しくお願い致します!
表紙
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ