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19.シエラ、甘い物を好む

 放課後――シエラとアルナは学園の外にいた。

 結論から言うと、シエラの交渉は成功したことになる。

 一応校医に相談してから――ということになったが、シエラの傷はほんの数日で回復していた。

 アルナは驚いていたが、シエラにとっては、普通のことだ。

 編入試験を受けてから、シエラはまともに学園の外に出たことはなかった。

 王都を真っ当に見るのは今日が初めてになる。

 学園は王都の中心付近にあるため、当然人通りも多かった。

 周囲を窺うような仕草のシエラは、アルナから見てもすぐにどこかへ行ってしまいそうな雰囲気がある。


「ほら、はぐれないようにね」

「うん」


 アルナがシエラの手を取って、人通りの多い場所から外れる。


「遊びたいって言うけど、どこに行きたいとかはあるのかしら?」

「行きたいところ?」

「……もしかして、どこか行きたいってわけではないの?」

「王都のこと、よく知らないから」


 いずれは見て回ろうと思っていたが、見たいところがあるわけではない。

 シエラの答えを聞いて、アルナは少し考える。


「うーん……そうなると私が選んだところにいく――ってことよね?」

「それでいいよ」

「それでいいって……気軽に言ってくれるわね」


 そうは言いながらも、またアルナは考え始める。

 実際、王都であればアルナの方が詳しいだろう。

 色々と回るつもりはあったが、アルナがいるのならば任せてしまおうという考えだった。

 だが、そう考えていたはずなのに――アルナが考えている間にもシエラは匂いに反応していた。

 鼻が利くシエラは少し離れたところからも漂ってくる良い香りにも敏感だった。


「何か気になるものでもあるの?」

「分からないけど、いい匂いがする」

「ああ、この辺りだと食べ物屋とか色々あるでしょうし」

「食べ物……」

「そういうのでもいいのなら、行く場所は決めない方がいいかもしれないわね」

「そうなの?」

「観光地とかなら分かるけれど、食べ物屋さんは私もあまり詳しくないからね」

「じゃあ一緒に見て回ろう」

「ええ、決まりね」


 アルナもホッとした表情を見せる。

 シエラが具体的に何をしたいか分からないところだったが、興味があるならそちらの方がアルナにとっても楽だった。

 人通りの多い道の中、シエラとアルナは飲食店を見て回る。

 シエラの食生活の中心は、主にエインズと狩った魔物や、森で採れる果実などが中心だった。

 もちろん、エインズに付き添って酒場などに寄ることはあったが、シエラが好んで食べるようなものはない。


「雲がある」

「雲……?」


 シエラが指差したのは、白くふわふわとした物。


「ああ、綿菓子ね」

「綿菓子?」

「砂糖を溶かして絡めたお菓子……とでも言うのかしら」


 アルナの言葉に、興味深そうに頷くシエラ。

 授業中のシエラよりもこちらの方が興味津々といった様子を見せて、アルナが苦笑する。


「せっかくだし、食べてみましょうか」

「! うん」


 シエラとアルナが最初に選んだのは綿菓子――王都でならそこらで見かけることのできるものだったが、


「ふわふわだけど、甘いよ」

「それが綿菓子だもの」


 黙々と綿菓子を頬張っていくシエラ。

 その速度にアルナも目を丸くする。


「もう少しゆっくり食べなさいって」

「わたし、甘いの好きかも」

「嗜好品は美味しいけれど、食べ過ぎは身体によくないわよ?」

「……そうなの?」

「まあ、一日くらいならいいと思うわ」


 シエラの問いかけにそう答えるアルナ。

 それを聞いたシエラの表情が明るくなる。

 そこから二人は、主に甘い菓子類をメインに探していくことにする。

 特別珍しい食べ物というわけではなかったが、シエラにとっては新鮮なものばかりだった。

 エインズと一緒にいるときは、多少興味はあってもほしがったことはない。


「次はあれ行こ」

「そんなに食べたら夕飯食べられなくなるわよ……?」

「大丈夫」


 根拠のないシエラの返事だったが、アルナは小さくため息をついて、結局シエラに付き合うことにした。

 そうして二人はアイスクリームを手に、ようやく人通りの疎らな広場までやってきた。


「甘い物は甘い物で食べ過ぎると結構きついわね……」

「でも美味しいよ」

「まあ、言いたいことは分かるけれど。ほら、アイスが付いているわ」

「ん」


 アルナはそう言って、シエラの頬についたアイスをハンカチで拭き取る。


「ありがと。付き合ってくれて」

「いいのよ、元々お願いしているのも私だし」

「魔法の練習?」

「そういうこと」


 アルナの言葉に、シエラも頷く。

 遊びに来たのと同時に、シエラはアルナに魔法を教える約束をしている。


「でも、アルナは魔法、使えてると思うけど」

「シエラさんに言われると複雑ね。でも、私に必要なのは今のレベルではないの」

「……? どういう――」


 シエラは問いかけようとしたが、不意にアルナの正面に立つ。

 周囲を窺うような様子で、シエラは視線を向けた。


「シエラさん……?」

「伏せて」

「え――」


 言うが早いか、シエラがアルナの身体を引く。

 それと同時に、飛ばされてきた《針》をシエラは指で挟み込むようにして受け止めたのだった。

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タイトル変更となりまして、書籍版1巻が7月に発売です! 宜しくお願い致します!
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