表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/129

13.シエラ、友達ができる

 入学初日に怪我をして保健室に運ばれることになったのも、シエラが初めてだろう。

 頭部からの出血は激しかったが、止血の術式によって血は止まっている。


「出血は一先ず治まったけど、しばらくは安静にね」

「うん、分かった」


 校医の言葉に、こくりと頷くシエラ。

 怪我に関して中々に傷は深いが、それでもシエラは平気な顔をしている。

 痛みには十分慣れていた。


「私は報告に言ってくるから、ここで待っていてくれる?」

「分かりました」


 そう答えたのは、シエラを保健室まで連れてきてくれたアルナだ。

 校医がいなくなったあと、アルナが心配そうにシエラの隣に座る。


「痛みはまだある?」

「平気だよ。慣れてるから」

「慣れてるって……そういう問題ではないのよ? でも、命に関わるような怪我ではないらしいから」


 それはそうだ、とシエラは納得する。

 もっとひどい怪我はいくらでもしたことがある。

 シエラは最強の傭兵と名高いエインズに育てられて、その強さに並ぶ実力もある。

 だが、人の子であることには変わらない。

 痛みも感じるし、剣で斬られれば致命傷にも繋がる。

 それでも生きてきたのは、シエラが純粋に強いからだった。


「でも、マグニス先生のことは許せないわ」

「……? どうして?」

「どうしても何も、あんなの絶対細工したに決まっているわ。鉄製のものがあんな簡単にへし折れるはずないもの」


 アルナの言うことは間違っていない。

 シエラは持った時点で違和感は覚えていた。

 だから、特にホウスに対して怒りの感情はない。

 むしろ感謝しているくらいだった。


「ホウス……先生は私に壊れた武器での戦い方を教えてくれたんだと思う。それを判断できる技術とか――」

「そんなわけないじゃないの!? 貴方馬鹿なの!?」


 ピシャリとそう言い切られ、シエラは黙る。

 ただ、少し視線をそらしながら、


「別に……バカじゃないけど」


 そう小声で否定した。

 アルナはシエラの小さな抗議が聞こえているのかいないのか――小さくため息をつくと、


「……別に、貴方を責めるつもりなんて一切ないわ。でも、マグニス先生の行動は絶対わざとよ。許したらいけないの」

「……そうなの?」

「そうよ。保健室の先生にも報告したからきっと大丈夫だと思うけど……シエラさんに負けた腹いせなのかしら」

「腹いせ?」

「ええ、きっとそうよ」


 腹いせ――ということは、シエラに負けたことが悔しかったということになる。

 シエラ自身、エインズに負けると悔しい思いをしていたから、その気持ちは理解できる。

 けれど、アルナの言うことも理解できた。

 わざとなのだとしたら、他人を傷つける行為だ。


(父さんの言ってた『ぼーかん』と一緒、かな)


 だとしたら次は殴り飛ばしてもいいのかもしれない――そんな風に考える。


「怪我が傷にならないといいけど……」

「アルナは、わたしの心配をしてくれるの?」

「……当然でしょう? 怪我をした人がいたら、心配するのは当たり前なの」

「そうなんだ」

「貴方は……そういう環境で暮らしてこなかった、ということでいいのかしら?」


 ――そういう環境、というのはシエラにも何となくだが理解できる。


「怪我とかすると父さんは心配してくれることもあったけど」

「友達とかは?」

「いたことないよ」

「! そうなのね……」


 シエラの言葉を聞いて、何故かつらそうな表情をするアルナ。

 何か悪いことでも言っただろうか――そう思いながらも、シエラはこれをチャンスだと考えた。


「……アルナはわたしの友達になってくれる?」

「え、友達って……私と?」

「うん」

「……それは、私となるのは、あまりオススメしないというか……」

「ダメなの?」

「うっ……」


 シエラがすり寄るように問いかけると、アルナは困ったような表情を浮かべる。

 やがて、観念したように大きく息を吐くと、


「ううん。私も、貴方とは仲良くしたいと思ってたから。それに、色々と教えてあげた方がいいみたいだものね」

「! じゃあ、友達になってくれるの?」

「……まあ、一応そういうことかしら」

「うんっ、よろしくね」


 シエラは笑顔を浮かべてそう言った。

 今度の笑顔はシエラ自身――無意識のうちに嬉しさが表れたものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイトル変更となりまして、書籍版1巻が7月に発売です! 宜しくお願い致します!
表紙
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ