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117.もう一人の傭兵少女

 シエラとアルナの下を去り、フィリスは前を歩くリーゼにただ付き従う。

 今回の戦いも、継承者争いも降りると決めたのは彼女だ――だから、リーゼはその意思に従う。もちろん、リーゼ自身の心が揺らいでいた、というところもあるが。


「ねえ、フィリス」


 不意にリーゼが足を止めて、こちらを振り返る。その表情は、いつになく真剣であった。


「どうかなさいましたか?」

「もう、わたくしの傍にいる必要はありませんのよ」

「!」


 リーゼの言葉に、フィリスは目を丸くする。まさか、そんなことを言われるとは思ってもいなかったからだ。


「……何故そのようなことを?」

「何故も何も、お父様が何故貴方をわたくしの傍に置いたか、忘れているわけではないでしょう?」

「……王位継承戦に勝利するため、ですか」

「ええ、そうよ。才能のある貴方を従者としてクロイレン家に引き取り、わたくしの護衛とした。貴方はその期待に全て答えて、《聖騎士》になる活躍まで見せた。今日まで、わたくしのことをしっかりと守ってくれたものね」

「……それは、私では不足だということでしょうか」

「もう、何でそういう話になるのかしら? 逆よ、逆。わたくしの傍にいる必要が、貴方にはない――」

「リーゼ様」


 フィリスは、リーゼの言葉を遮るようにして彼女の前に立つ。そのような言葉を、彼女の口からは聞きたくなかったからだ。


「私が、いずれ《王》になる方だからと、あなたの傍にいたとお思いですか?」

「……違うと言うの?」

「そうだとお思いなら、私は少し残念に思います。確かに私は、あなたの父君からいずれ《王》になる器となる少女――あなたの護衛を任されました。そのために強くなり、今もこうしてあなたの傍にいる。それは何も、間違っていないことです」

「だったら――」

「ええ、だから、私はこれからもあなたの傍にいます」

「……それは、少しおかしいのではなくて?」

「おかしなことがありましょうか。王にならないとあなたが決めた――ただそれだけで、私があなたを守らない理由にはならないと思いますが」

「守る必要はないと思うのだけれど。これから、狙われるのはアルナさんの方よ。あちらをしっかりと守って然るべきよ」

「もちろん、命令があればそうします。けれど、私の役目は、私の人生はあなたのためにある」

「……どうして、そこまで言い切れるのかしらね。ひょっとしたら、《聖騎士》という立場も捨てるかもしれなかったあの状況でも、貴方は付いてきてくれましたわね」

「それが答えであり、私の気持ちです。あなたは、私に居場所をくれた――だから、これからも、あなたの傍にいることが私の務めです。私は、あなたの騎士なのですから」


 フィリスはそう宣言すると、リーゼは小さくため息をつく。


「はぁ……恥ずかし気もなくそう言い切れるところはさすが、というべきかしらね?」

「お褒めに預かり光栄です」

「……別に褒めていませんわっ! けれど、そういうことなら……これからも、わたくしの傍にいること。いいわね?」

「はい、我が主」


 フィリスは変わらぬ忠誠を誓う。

 たとえ、リーゼが王にならなかったとしても、彼女はこの国に必要な存在だ。

 そして何より、フィリスにとって必要な存在だ――だから、これからも、フィリスはリーゼの騎士であり続ける。


   ***


 全てが終わり、また平穏な日々が戻ってくる――そういうわけにもいかなかった。

《マルベール森林施設》での一件により、被害者は出なかったとはいえ、学園の生徒が人質に取られたのだ。

 特に、魔物に殺されかけた人質の少女はまだ学園に通うことができていないらしい。

 ……アルナは、それを気にかけていた。

 もちろん、そこまで自らの責任としてしまっては、きっとアルナの精神の方が持たなくなってしまうだろう。

 それでも、全ては《王位継承》争いという、事の発端が存在している。


(あの時のお茶会に出ていたのは、ロックフィールズ家……)


 メルベル・ロックフィールズ――王位継承者の中でも、本人が戦うことができるだけの実力を持っていると、あの時のお茶会ではその片鱗を見せていた。

 他の二つの家がどう動くか分からないが、現状ではカルトール家とロックフィールズ家が残っている……それで全てが終わるのなら、そう望んでしまいたい。


「……」

「アルナ、学校行こう」

「! もうそんな時間なのね」


 ガチャリとドアを開けてやってきたのは、シエラだった。

 ――シエラに先に来られることになるなんて、よほど考え込んでいたのかもしれない。ただ、寝ぐせが立っているシエラのことを見て、すぐにアルナは安堵した表情を見せる。


「……そろそろ髪のセットくらい自分でできるようにならないとね?」

「うん、分かった」


 言えばこくりと頷くが、きっと彼女はまだ覚えるつもりはないだろう。

 ……シエラと共に生きてこの戦いを乗り切られるように、心の底でそう願い続けるのだった。


   ***


 ――戦場に、一人の少女が立った。

 手に持つのは、特徴的なほどまでに《赤い剣》。返り血で染まった顔を袖で拭いながら、赤い瞳を光らせる。長い黒髪を風になびかせて、怯える少女の前に立った。


「ひあっ、こ、殺さないで……!」

「何であたしがあなたを殺すの? 助けてあげたんじゃない!」


 少し怒ったような表情を見せながら、少女は言う。

 周囲に倒れ伏すのは、漆黒のローブに身を包んだ男達。たまたま少女が追われているのを見て、助け出したのだ。


「あ、そ、そっか……ごめんなさい、ありがとう」


 怯えながらも、少女は震える身体を起こして頭を下げる。少女を助けた理由は別に、人助けというわけではない。


「あなた、名前は?」

「え、アリス・シーファ……だけど」

「ふぅん、アリスね。いい名前じゃない。それで、アリスはどうしてこんな奴らに追われてたの?」

「うっ、そ、それは……」


 少女の問いかけに、アリスは悩んだ仕草を見せる。

 彼女の服装もまた、明らかに人目を避けようと目立たないように仕立てているのが分かった。

 明らかに、彼女は理由があって追われている――それが分かって、少女はアリスを助けたのだから。


「いいじゃない。せっかくだから話してみてよ。見たでしょ、あたし結構強いんだから。何せ、《最強の傭兵》の娘なんだからね!」

「さ、最強の傭兵……? それって――あっ」


 アリスが何かに気付いたように視線を送る。それは、少女の持つ《赤い剣》だ。

 禍々しいほどに赤く、そして刻むような刀身。《装魔術》として作り上げるにしては、逆に歪すぎるほどだ。


「あ、あなたは、一体……?」

「クゥネ・ワーカー――エインズ・ワーカーの娘とは、あたしのことだよ。あなたのこと、守ってあげよっか?」


 優し気な笑みを浮かべて、少女――クゥネは言う。四人目の王位継承者であるアリス・シーファとクゥネ・ワーカー――二人の少女は、そうして出会ったのだ。

これで第三章は完結となります!

次回が第四章となりますが、ひょっとしたらそこで完結になるか……もう一章くらい増えるかな?という感じで書いています。

楽しんでいただけるように頑張っていきたいと思いますので応援よろしくお願いいたしますー!

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タイトル変更となりまして、書籍版1巻が7月に発売です! 宜しくお願い致します!
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