106.アルナにできること
アルナはリーゼ達と共に、森の入口付近へと残った。
フィリスが三人の前に守るように立つ。
コウとローリィはシエラが去ったあと、すぐさま行動を開始した。
(私にできることは……)
――何もない。アルナも、それはよく理解している。
今のアルナにはただ待つことしかできなかった。
それはとても歯痒く感じられるが、自分の力を弁えている――ついて行ったところで、今はきっと足手まといにしかならない。
「……意外ね」
「……?」
不意に、隣に立つリーゼがそんなことを口にした。
状況が理解できていないマーヤをそっと抱き寄せながら、彼女は冷たい視線をアルナに送る。
「貴方一人が残ったこと、ですわ」
「……今の私が行っても、足手まといにしかならないから」
「ふふっ、そういうところはとても素敵だと思いますわ。自らのできることできないことをよく理解している――そうでなければ、ここに残るという選択肢はあり得ませんもの」
「どういう――」
「いま、このタイミングでわたくしが裏切れば、どうなるか分かりませんこと?」
「っ!」
不意に、リーゼが言い放つ。
ちらりと、前に立つフィリスがこちらに視線を送った。
……今、ここにはアルナ一人しかいない。
アルナを守ってくれるシエラもローリィも、戦いに参加してしまっているのだ。
「そんなこと、全く考えてなかったわ」
アルナはリーゼの言葉に答える。
普段から狙われる立場だというのに、こうして一緒に一日過ごしただけで――アルナはリーゼやフィリスと共にいることに違和感がなかった。
「どうして? 狙われる可能性は十分に考えられたでしょう」
「ローリィも、最初に警告してくれていたわね。でも、シエラが大丈夫って言ったんだもの。私は、それを信頼しているわ」
はっきりと宣言する。
シエラはリーゼとフィリス――それにマーヤの三人に、悪意はないということを言っていた。
感情を表現することは苦手なのに、誰よりも感情を読み取ることに長けたシエラがそう言ったのだ。
だから、アルナはここに残ることに迷いはなかった。
確かに、今は一人という状況は事実だったが。
アルナの答えを聞いて、少し驚いた表情を浮かべたリーゼは、
「うふふ――あははははっ、本当に面白いですわね。貴方達は」
そんな風に、大声で笑い始める。
「……リーゼさん?」
「ふふっ、ごめんなさいね。わたくしも、貴方の命をこんな形で狙おうなんて思っていませんもの。ましてや、わたくしが目指すのはこの国の《王》。確かに手段を選ぶつもりはありませんけれど、わたくしは貴方達に助けてもらっている身ですから、感謝はしていますわ」
「マーヤちゃんを守りたいのは、同じ気持ちだから」
アルナはマーヤに近づいて、彼女の頬に触れる。
マーヤがアルナの顔を見上げた。
「マーヤちゃん、ここにいると少し疲れるわよね」
「うん、ちょっと」
マーヤの口数が少ないのは、眠いからだろう。
まだ幼い子供であるマーヤはまるで状況を理解していない――けれど、それでいい。
こんな子が、命を狙われているという事実を知る必要もない。
アルナは地面に座り込むと、
「おいで、ここで休んでもいいから」
「うん……」
地面に座って汚れることも気にせず、アルナは促してマーヤを横にならせる。
彼女の身体を支えて、抱きかかえるような形だ。
「マーヤちゃんのことは私が見ておくから、リーゼさんも休んだ方がいいわ」
「……わたくしは別に。どこまでも、貴方は善人ですこと」
「私は、善人じゃないわ。きっと、本当に善人だったのなら、私はもうこの世にいないと思うから」
リーゼの言葉に、ポツリと呟くようにアルナは言う。
生きることを選んだから――今も戦ってくれているシエラに大きな負担がかかっている。
友達になってくれたシエラに甘えて、アルナは生きている。
けれど、それがアルナの『選んだ道』だから――
(……シエラ、貴方なら大丈夫、よね?)
そう信じることが、アルナのできることだった。
「……それにしても、わたくし達もここで待っているだけというのは、些か癪ですわね」
「リーゼ様」
「分かっていますわ。下手に動けば――」
「オレらに見つかる可能性がある……そういうことかい?」
「っ!?」
リーゼとフィリスの会話に割って入ってきたのは、男の声だった。
その場にいた全員が後ろを振り返る。
……それよりも早く動いたのはフィリスだった。男の前に相対するように立ち、地面に剣を突き刺して構えを取る。
男はその様子を見て、小さくため息をついた。
「あなたは――いえ、あなたがここに来たのですね」
「やれやれ。聞いていた話は本当だったんだなぁ。フィリスちゃん、あんたが裏切るなんてね」
髪をかき上げながら、男がアルナ達を見る。
アルナの知らない相手ではあったが、男の後方に構える者達を見て、およそ見当はついていた。
(騎士……このタイミングで……!)
「一応、オレを知らなそうな嬢ちゃんもいるみたいだから自己紹介だけはしておくか。《聖騎士》の一人、オーゼフ・ガインヴェイルだ。まあ、そこのフィリスちゃんとは同僚ってことよ」
ふっと笑みを浮かべて、男――オーゼフはそう言い放ったのだった。
少し長めの短編投稿してみました。
少女が少女を守る系のファンタジーです!
よければどうぞ。
斧使いの少女がダンジョン内の『黒い箱』に入っていた少女を守るお話
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