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103.シエラと森林施設

《マルベール森林施設》は町から隣接した森から真っ直ぐ向かったところにある。

 広い範囲で森が柵で囲われており、柵には侵入者を検知するための魔法が仕組まれている。

 万一破壊された場合にも、すぐに状況を把握するためだろう。

 これは主に人間に対してではなく、《魔物》に対して使われるものだ。

 そんな森林施設の入口に、シエラ達はやってきた。

 クラスメート達は一度宿の方へと戻っている――本来ならば、施設の職員が他のクラスの子を連れてやってきて、交代でシエラのクラスが向かう予定だった。

 だが、予定の時間を過ぎても一向に職員がやってくる気配はない。

 もちろん、少しくらいの遅れならば待つという選択肢もあるだろう。


(けど……)

「気付いた?」


 シエラの様子を見てか、コウが尋ねてくる。

 シエラはこくりと頷いた。

 シエラの索敵範囲は、常人の域を軽く超えている――だからこそ、今の森林施設の状況が分かってしまう。

 明らかに強い殺意……およそ戦場と差異がないほどの気配があった。

 さらに感じられるのは獣臭。森林施設で管理している魔物もいるはずだが、シエラの感じ取った気配はとても普通の人間が制御できるレベルのものではない。

 森か平原か――シエラが出くわせば、すぐに殺し合いが始まっておかしくないレベルのものだ。


「森の中に魔物は少なかった」

「それってつまり、森の魔物がここにいるってこと?」

「分からない。けど、たぶん中にいる魔物はその比じゃない」


 フィリスがリーゼとマーヤの安全確保のために魔物を倒した――そう考えていたが、付近に魔物がいないのもその理由の一つのように感じられた。

 ……おそらく、近隣の森の魔物もここに集まっている。そして、それ以上に強い『何か』も集められている。


「それじゃあ……皆は戻って来ないんじゃなくて、戻って来れないってこと……?」

「たぶん、そう」


 アルナの問いかけに、シエラはそう答える。

 生きているかどうかも含めて――今の状況では判断することはできない。


「……」


 そんな今の状況で、リーゼはただ考え込むように黙っていた。

 森の奥地を見据えて、ただ真剣に何かを考えているようだ。

 狙われているのはリーゼとフィリス、それにマーヤの三人――だが、今はシエラと同じ学園の生徒が危機に瀕している。

 タイミングだけで考えれば、関係ないとはとても言い切れないだろう。


「わたしが少し様子を見てくる」

「頼むわよ。一応、あたしも確認したんだけどね。さすがに森林施設の方までは見えないのよね」


 シエラ達を呼ぶ前に、コウの方でも確認したらしい。

 だが、森の中に入ってから《マルベール森林施設》の建物までは馬車で移動が必要なくらいの距離がある。

 その距離を素の状態で確認できるのは、シエラくらいのものだろう。

 シエラはすぐに駆け出すと、森の中に入って手頃な木を駆け上がる。

 あっという間に木の上に上がると、シエラは奥地にある森林施設を見据えた。

 木々に隠れているが、わずかに坂になっているのか――奥地の方に建物が確認できる。

 そんな建物の屋上を見ると同時に、輝く光のようなものが見えた。


「っ!」

「……シエラ!?」


 アルナが驚いて、シエラの名を呼ぶ。

 木を駆け上がったシエラが、バランスを崩したように落下したのだから無理もない。

 空中でバランスを取ったシエラは、地面へと綺麗に着地する。――シエラに向かって、《魔法の矢》が放たれたのだ。


「今のは……」


 コウもシエラが攻撃を受けたことに気付いたようだ――矢が飛んで行った方向を見据える。

 シエラの下へと、すぐにアルナとローリィが駆け寄ってきた。


「だ、大丈夫?」

「平気。すぐに避けたから」

「……今の攻撃はもしかして、あの時森で狙撃してきた奴か……!」


 昨日――リーゼ達と同盟を結んですぐに襲ってきた者。マーヤを狙う《暗殺者》がいた。

 とんでもない程離れたところからの狙撃を可能とし、シエラでも確実に殺せたのか分からないほどの距離からだった。

 その相手が、再び攻撃を仕掛けてきた可能性がある。


(でも……何か違う)


 シエラは相手の攻撃を受けて、何か違和感を覚えた。

 昨日の相手も《魔法の矢》を放ってきたことは違いない。だが、魔力で構成された矢の質や威力が少し異なる――シエラに当たるように調整したつもりだろうか。


(……昨日の段階で当たらないことは理解できたはずなのに。それとも――)

「えっと、確か昨日の相手も同じ感じで狙撃してきたのよね?」


 考え込むシエラに、ばつの悪そうな表情でコウが話しかけてくる。

 何か悩んだような仕草を見せて、髪をかき上げていた。


「うん。同じか分からないけど」

「あのレベルの狙撃ができる人間なんてそうそういないでしょうに。少なくとも、あたしの知ってる人間だと、一人くらいしかいないんだよね」

「コウの知ってる人?」

「そ、傭兵時代の相棒がね。ああいう魔法の矢で狙撃するのが得意だったんだけどさ――」


 コウがそう切り出した時、トンッとシエラとコウの間に《一本の矢》が飛んでくる。

 今度は魔法ではなく、魔法で強化された木製の矢だった。

 そこに、一枚の紙が巻き付けてあることに気付く。


「……こうやって戦場の端から端に連絡するのが好きな奴で、よく連絡してきたんだよね」


 コウが懐かしむように矢に結びつけられた紙を開く――そして、その内容を見て目を細めた。

 その言葉から、おそらく敵はコウのかつての友人であったことは容易に想像できる。


「『施設にいた者達は人質にさせてもらった。リーゼ・クロイレン並びにフィリス・ネイジーの身柄を要求する』……だってさ」

「それってやっぱり、他のクラスの子達が捕まっているってことですか……!?」

「そうなるわね。まあ、そんなことじゃないかとは思ってたけど」


 コウはアルナの言葉に答えると、くしゃりと紙を握り締めて、小さくため息をつく。

 シエラは《赤い剣》を作り出して、森の奥を見据える。――敵は学園の生徒達を交換条件にしてきたのだった。

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タイトル変更となりまして、書籍版1巻が7月に発売です! 宜しくお願い致します!
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