第95話 腕試し
微戦闘シーンありです。
「じゃあ、ルドガーさんに伝えてもらえるか?」
「えぇ、分かったわ。」
周囲から突き刺さる、冒険者たちの視線から、一刻も早く逃げたい聡は、口早にエーリカに頼む。
「じゃ、そういう事で、後はよろしく頼む…よ?」
笑顔を顔に貼り付けて、さっさと退散しようと、後ずさりを始めた聡だったが、エーリカに手を掴まれて、阻まれてしまった。
「そんなに急ぐ事無いじゃない。」
「誰のせいだと思ってるんだ、誰の。…それは兎も角、何か用があるのか?」
呑気な事を言っているエーリカに、ジト目を向ける聡だが、彼女が無駄に呼び止めるとも思えないので、理由を聞いてみる。
「えぇ、勿論よ。サトシに受けてもらいたい依頼があるのよ。」
「態々俺に?どんな依頼なんだ?」
聡に態々依頼をする物好きなど、この街ではヴィリーやルドガー、コルネリウスなどの地位が比較的高い人間が多いだろう。
その為、一体どんな面倒な依頼なんだと、少し身構えてしまう。
「…その依頼とは。」
「その依頼とは?」
聡に手招きしなが、小声で勿体ぶって溜めるエーリカ。人に聞かせられない話なのかと、聡は仕方無く耳を寄せる。
「…ニコラ様の護衛よ。」
「…は?何だって?」
エーリカの言葉に、聡は目を真ん丸にして、反射的に聞き返してしまうのだった。
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「きょ、今日は、よろしくお願いします!」
青々とした草花が生えた広い草原に、ニコラの元気な声が響く。
あの後、エーリカに依頼の詳細を聞かされた聡は、付近では危険度がかなり低い、この草原に来ていた。
エーリカによると、Eランクのゴブリンやスライムぐらいしか出現しないようで、出てもDランクのグレイウルフという、狼型の魔物ぐらいだそうだ。
「うん、こちらこそよろしく。」
この依頼は、先程コルネリウス邸を離れる前に、聡がニコラと冒険してやるという約束していた為、コルネリウスが速攻でギルドに遣いをやったそうで、彼の親バカ加減が良く分かる行動だった。
「と、言っても、危険が無いように、補助する程度だけどね。」
聡は冒険者としては、新米のひよっこである。だから、聡が保証出来るものといえば、その身の安全ぐらいである。
「サトシ様が補助してくれるなら、どんな魔物が相手でも怖くないよ!」
消極的な聡に対して、屋敷に居た時よりもテンションがより高いニコラは、ニコニコと笑顔で、純粋な期待の視線を向けて来る。
「…フラウさん。期待の視線が痛いんですけど。」
「仕方がありません。話を聞く限りだと、ニコラ様にとってサトシ様は、英雄そのものですから。」
泣き言を言う聡に、フラウは『諦めろ』とばかりに、視線を逸らしてしまう。
「プレッシャーが…っと、早速2匹来たみたいだ。俺が前衛やるから、その隙に魔法をよろしく。」
「う、うん!」
聡がプレッシャーを感じてる暇もなく、こちらに向かってくる気配を、聡が探知する。
「さて、軽くやるか。」
気配に向かって歩く聡。腰ぐらいの高さ茂みから、ゴブリン達が飛び出して来た。
「「ギギャア!」」
棍棒を手にしたゴブリンが襲いかかって来るので、聡は軽くそれを手で受け止める。
「ほいっと。」
「「さ、サトシ様!?」」
呑気な声で、真正面から棍棒を受け止めた聡を見て、女性陣から悲鳴があがる。普通の人間が、棍棒の一撃をまともにくらえば、当然に重症なのだから仕方が無いだろう。
「ん?…じゃあ今から、コイツらの体勢を崩すから、魔法をよろしく。」
「え、あ、うん!」
悲鳴を不思議に思い振り返るも、特に問題は起こって無さそうだったので、討伐の続きをしようと、ニコラに呼びかける。
その声に、ニコラは聡が大丈夫なのだと分かり、戸惑いながらも装備していた杖を構える。
「さて、と!」
「「ギィッ!?」」
今のいままで、掴まれた棍棒を離そうとしなかったゴブリン達に、聡は力づくで押し込むようにして、たたらを踏ませる。
「今!」
「うん!【水よ。敵を打ち倒せ。ウォーターアロー】!」
気合いの入った声で、ゴブリン達を見据えて叫ぶニコラ。
本来なら杖も詠唱も魔法行使には必要無いが、威力や命中精度の上昇、発動時間の短縮には役に立つのだ。
スキルがあれば魔法は使えるが、使いこなせるのとは、話が別である。杖は魔力の操作の補助に、詠唱は発動の為のイメージを補助してくれる。そういう訳で、この世界の人間が魔法を使う際は、一部の例外を除いて杖あり、詠唱ありの状態が多い。
聡が射線から外れたのを確認したニコラは、作り出した2本の水の矢を放ち、それはゴブリン達の首筋に深く突立つのだった。
「「グギャァァ!?」」
断末魔をあげて、倒れ伏すゴブリン達。
「ナイスショット。」
水で作られたとは思えない威力を発揮して、ゴブリン達の首筋に刺さった矢により、完全に息の根を止まった為、聡は感嘆の声をあげる。
こうして、取り敢えずは討伐を成功させることが出来たのだった。
ニコラは優秀です。