第83話 説得
最近、筋トレにハマってるのですが、何か効率的な道具は無いんですかね?苦しいのが嫌いなので、嫌いな人や、ムカつく客を思い浮かべてしてますが、どうにもやる気の起きない日があります…。
「なるほど。ティファの森調査依頼で、そちらの少女を発見したと。」
聡の説明を聞き、一通りの状況を理解したルドガー。
聡は頷きながら、口を開く。
「はい、そうなります。で、ここからが本題です。」
その言葉に、フラウも少し体を緊張させる。
それはそうだろう。ここでの話が、フラウのこの街での立場が決定するのだ。
「本題とは?」
「フラウさんの正体について、ですね。何故私が、態々保護するような形で、この場に連れて来たのかという事です。」
「「…。」」
フラウは無言で聡の方を見る。エーリカも、同様に聡に視線を送る。性質の違う視線を、2人の女性から向けられて、聡は少し話しづらそうにするが、大事な事なので気を取り直す。
「森でフラウさんを発見した際、彼女は酷く錯乱しており、襲いかかって来ました。」
「襲いかかって来ただと?今は至って普通の精神状態に見えるが?」
「はい、今は完全に回復しています。フラウさんは、血に飢えていただけですから。」
聡は真剣な表情で告げる。
「…血に飢えていただと!?という事は、まさか彼女は…!」
ルドガーは、聡の言葉の意味を理解すると、驚愕の表情を浮かべながら、ソファから立ち上がり、少し距離をとる。
「はい、私は吸血鬼です。」
「え…。」
エーリカは呆然とフラウを見る。
「ちょいと移動しましょうか。」
呆然とするエーリカを、聡はお姫様抱っこのような形で抱き上げ、フラウから離す。
「え?え?え?」
戸惑うエーリカを、ソファの端に座らせてから、自身もその横、つまりフラウとの間に挟まる形で、聡は腰を落ち着ける。
「さ、サトシ!?吸血鬼を街に入れるとは、一体どういうつもりだ!?」
「街に入れても問題無いと、そう判断したんですよ。だけど、俺だけの判断では駄目だと考えたので、こうしてルドガーさんに許可を貰いに来ました。」
「お前、吸血鬼がどういう存在かを、知ってて言っているか!?魔王軍の将軍の1人である、『夜の女王』の異名を持つ、ヨハンナ・シュヴァイツァーのが率いた種族だぞ!?」
『夜の女王』ヨハンナ・シュヴァイツァーは、一時期人族の街を占拠し、そこに住む人々を飼育し、数々の実験やその他の非道な仕打ちを行うなどした。
その為、魔王軍の将軍の中でも、特に悪名が高く有名である。
「はい、良く知っています。彼女が人族達に、一体どのような被害を齎したのかも。いや、正確には、魔王トイフェルが封印される以前の、彼女が行った事を知っている、と言った方が良いですね。」
興奮するルドガーに対して、聡は落ち着いて答える。
「なら!」
「なら何でしょうか?彼女が行った事は、確かに非道であり、人族としては許せないものでしょう。しかし、その非道行為と、フラウさんは関係がありません。」
「…それは確かにそうだが。しかし、吸血鬼は一貫して、人族に対して敵対の意志を向け続けている種族だぞ?」
「全ての吸血鬼が、同じ考えだとは言い切れないでしょう。それに、フラウさんに関しては、全ての責任を私が負いましょう。私の戦闘力は、魔王ですら圧倒できますので、安心して下さい。」
あまり言いたくは無かったが、聡はとうとうとっておきの切り札を切る。
「は?魔王を圧倒する戦闘力、だと?お前は、魔王と戦った事があるのか?」
聡のカードの内容に、ルドガーは驚き過ぎて、開いた口が塞がらないようだ。
「…はい、戦った事があります。」
ここで聡は、正直に認める。
「だ、だが、今現在も存在する魔王であるトイフェルですら、300年前に封印されている。だから、魔王と戦った事があるサトシの年齢は…。」
「えぇ、少なくとも300を超えていますね。肉体年齢は、21で固定されてますが。」
聡は薄い笑みを浮かべながら言う。ルドガーなら、【看破】のスキルにより、真実である事を理解しているだろう。
「さ、サトシ。…今の話は本当なの?」
「本当だよ。エーリカよりも、遥かに歳をとってる。」
「…。」
エーリカの疑問に対して、聡が正直に認めると、彼女は目を見開き、口を抑えて驚愕する。
「ま、それは置いときまして、フラウさんに関しては、全て責任を負いますし、街に危害をもたらした際も、誰かに被害が及ぶ前に、全力で止めます。俺ならそれが可能です。」
聡は自信満々に言い切る。
「年齢の話は置いといて良い問題では無いと思うが、取り敢えずサトシの言いたい事は理解した。確かにサトシなら、抑える事が可能なんだろう。」
「はい、可能です。」
聡が頷くと、ルドガーはソファに座り直し、深くため息をつきながら、目を瞑る。
そして、暫くの間無言だったが、パッと目を開けたかと思うと、ついに口を開く。
「サトシがそこまで言うなら、大丈夫だろう。俺からコルネリウス様に進言しておこう。その代わり、そのフラウさんから目を離すなよ?」
ニヤリと笑いながら、ルドガーは言う。『吸血鬼』では無く、『フラウ』と呼びながら。
「はい、分かりました。ありがとうございます。」
「あ、ありがとうございます。」
聡とフラウは、頭を下げながら礼を言う。こうして、フラウは安住の地を得たのだった。
思ったよりも情報を開示してしまった聡。エーリカはショックを受けてるようですが…。