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第70話 甘々です

もう今年も、折り返し地点ですね。なんだかあっという間だった気がします。

エーリカに手を引かれる事、約10分後。漸く目的地へと到着した2人は、手を繋いだまま、喫茶店之前で立ち止まる。


「こ、ここよ!」


「マジか。」


なんて事はない、オープンテラス付きの、普通の喫茶店だったが、そのテーブルに着いている方々は、大半がラブラブな雰囲気を醸し出す、カップル達であった。


こんな所に1人で来るなど、正気の沙汰では無いし、ましてやエーリカが誰かと共に来たのならば、ルドルフ達の耳に入ってない訳が無い。よってここも、ミートパイと同じく又聞きである事が確定した瞬間であった。


「いらっしゃいませ〜。2名様でしょうか〜?」


ウェイトレスの女性が、店の前で立ち止まっている聡達に声をかけて来る。


「はい、2人です。」


「畏まりました〜。お席は、こちらと店内がございますが、如何しますか〜?」


間延びした口調で聞いてくる。


「て、店内で。」


流石にエーリカも、公開処刑みたいな、オープンテラスでの飲み食いは恥ずかしかったようで、食い気味に答える。

それに聡も異論は無いどころか、全力で賛成なので、無言のまま頷いておく。


「畏まりました〜。では、ご案内しま〜す。」


「お願いします。」


店内に入ると、若干薄暗いが、雰囲気のある内装となっていた。そして、外と同じくカップルがイチャイチャしていた。


「おぉ…。喫茶店は、初めて入ったな。こんな感じなのか。」


小さく呟く聡。思った以上に、1人では入りにくいほど、良い雰囲気である。


「こちらにどうぞ〜。」


壁際の、他のカップルから少し離れた位置に案内された。2人がけの、少し小さめなテーブルだ。


-あれ?この人に、何か気を遣われてる?若しかして、結構出来る人だったりするのか?-


カップル達の雰囲気に、居心地が悪そうにしている聡達を気遣ったのか、態々離れた位置に案内してくれたのかと、聡がウェイトレスに視線を向けると、気が抜けるような笑顔を少し浮かべるも、直ぐに普通の顔に戻る。


「ありがとうございます。」


「いえ、どういたしまして〜。」


「?」


謎のやり取りに、エーリカは首を傾げる。


「メニューはこちらですので、お決まりになりましたら、お呼びくださ〜い。」


ぽわぽわとした物言いでメニューを指し示し、一礼してから下がるウェイトレス。


「中々面白いウェイトレスさんだね。」


エーリカの椅子を出してやってから、聡は店の入口側に腰掛ける。


「ありがとう。何だか、不思議な雰囲気の人だったわね。」


お礼を言いながら、聡が引いてくれた椅子に座るエーリカ。彼女も、ウェイトレスの不思議な雰囲気に、何かを感じたようだった。


「まぁ、取り敢えず何か頼もうか。」


確かに変なウェイトレスだったが、そこまで気にするほどでは無いので、メニューを開きながら言う。


「あ、2人で頼みたい物があるんだけど、それでも良い?」


すると、エーリカは、少し顔を赤くしながら、そんな提案をしてくる。


「2人組じゃないと、頼めない商品があるのか?」


「そんなところ。」


「良いよ。面白そうだし。」


一瞬、聡の脳裏に、カップル限定の甘いスイーツや、1つのグラスに二又のストローが刺さったジュースの姿が過ぎるが、まさか異世界でそんな物があるとは思えないので、直ぐに振り払う。


エーリカが、何をどう血迷ったら、そんな物を、自身と飲み食いしたいと思うだろうか。


「ありがとう!すみません、これをお願いします。」


話が纏まった瞬間、タイミングを見計らったかのように、先程のウェイトレスが聡達の席の近くに現れたので、エーリカが呼び止めて注文する。


「はい、畏まりました〜。」


すると、意味深な視線を聡に向けながら、ウェイトレスは店の奥へと引っ込んで行く。


「何を頼んだんだ?」


「…来てからのお楽しみって事で。」


「気になるなぁ。」


商品が来るまでの間、しばし談笑する2人。


5分後、ウェイトレスが大きな銀のトレーを手に、柔和な笑みを浮かべながら、こちらにやって来た。


「お待たせ致しました〜。こちら、『カップル限定、特製パフェ』になりま〜す。」


「…。」


料理の名前に、聡の頬は引き攣る。カップルの為にだけあるような、そんな雰囲気の店で、その名前を態々使うという事は、とんでもない代物に違いない。


「ありがとうございます。」


テーブルの中央に置かれる大きなパフェ。フルーツだけでなく、生クリームがふんだんに使用されていて、見てるだけで、胸焼けがしそうである。

聡がドン引きしてると、ウェイトレスは更にもう1品、テーブルに置く。


「こちら、お飲み物の、『カップル限定、特製ミックスジュース』になりま〜す。ごゆっくりどうぞ〜。」


「こんなモノまであるのか…。」


どっからどう見ても、リア充御用達の、ラブラブイチャイチャな飲み物が置かれ、聡は頭を抱える。少なくとも、トイフェルからは、そのような文化があるとは聞いてないので、彼がドンパチ繰り広げた、例の勇者が広めたものだろう。


-勇者は、マジでシバく。なんつーものを、世に送り出してんだよ!非リアが可哀想だとは思わんのか!-


非リアを代表して、全力の拳を、まだ見ぬ勇者に叩き込む事を決定事項にした聡は、気を取り直して、まだマシそうなパフェに手を伸ばす。


「ん?スプーンが1つしか無いぞ?用意し忘れたのか?」


「違うわよ。これが普通なの。だって、カップル限定だもの。あと、スプーンを頼んだら、カップルじゃないってバレて、大変な事になるわ。」


「おいおい…。なら、どうやって食べるんだ?」


謎システムに、聡は苦笑いを浮かべるしかない。


「1つのスプーンを交互に使うか、一方が食べさせてあげるかの、どちらかね。」


「交互で。」


即答である。こうして、聡達の甘々な時間(味覚)が始まるのであった。

勇者、赦すまじ…。

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