第50話 事情聴取中(1)
全話の、罵詈雑言の嵐の回よりも、執筆の速度が遅く、私の普段のストレス値はどうなっているのだろうと、本気で不安になってきました(笑)。
気を失っているおっさんを、嫌な顔をしながらギルド職員が運び出し、床も綺麗になったあと、聡はベルクフリートのギルドマスターに呼び出され、その応接室で縮こまっていた。
どうやら、騒ぎの最中、その渦中に居た聡が、とんでもない量の魔力を放出したため、慌てて呼び出しをかけたようだ。
だが、仕事が忙しいらしく、ギルドマスターは聡が応接室に着いてから、約10分ほど後に遅れてやってきた。
「待たせてすまんな。少し仕事が立て込んでてな。…ギルドマスターのルドガーだ。」
ルドルフに似た顔付きで、背丈や体格も同程度だが、短めに切りそろえられた濃い茶髪に、同じ色の口髭を蓄えた男が入ってくる。40代くらいだろうか。他の人には無い、覇気のようなものが感じられる。
「いえ、こちらこそ、お忙しい時に騒ぎを起こしてしまい、申し訳ありませんでした。私は、聡と申します。」
ソファから立ち上がり、丁寧に謝罪する。
「サトシだな。話を聞く限りだと、君は被害者だ。だから、そんなに平謝りする必要は無い。…流石にあの量の魔力を放出されると、こうして問題になっちまうんだが。」
そう言いながら、ルドガーは机を挟んで反対側のソファに着く。それに倣い、聡も着席し、事情聴取が始まった。
この世界において、生物と魔力は切っても切れない関係にある。ステータス上では『MP』と表示されるが、その正体は、『魔法を使うのに必要』位にしか判明していないものだ。
また、魔力は生命活動にも必要であると考えられており、実際に、MPが枯渇すると、生命維持が難しくなるそうだ。
この魔力は、感情の昂りにより、生物の体内から放出される事が確認されており、その際はもちろんMPの値は普通に減るのだが、今回、聡が放出した魔力量は、普通の人間の数値の、数百倍にも及んだ。
ちなみに、普通の人のステータスはこんな感じである。
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名前:ぼんじんのぼんちゃん
年齢:21歳
種族:人間
Lv:13
HP:15
MP:24
STR:25
VIT:19
AGI:15
INT:11
MND:14
LUK:4
スキル:凡人 Lv:10
称号:平凡の極み
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MPを5消費で、各属性 Lv:1の魔法が放てるのだが、それを数百から数千回放てる量の魔力放出など、通常の人間なら枯渇し、生命活動に危険が及ぶどころか、軽く数十回は死んでる量である。
しかし、そんな量の魔力を放出して尚、ピンピンしている聡は、一体何者なのかという事になる。
「さて、では質問だ。君が書いてくれた登録用紙には、そこそこ魔法が使えるとあるが、どこかの貴族に仕えてた事があるのか?」
「いえ、ありません。」
「ふむ。嘘は吐いてないようだな。」
「分かるんですか?」
「あぁ。俺には、スキル『看破』があるからな。」
「あぁ、なるほど。」
スキル『看破』とは、隠蔽されている罠を発見したり、嘘を見破ったりするなど、かなり有能なスキルである。
「だから、虚偽の申告等は、止めてくれると助かる。」
迫力のある顔を向けられる聡。幼子ならギャン泣き待ったなしだろう。
「まぁ私には、言いたくない事はありますが、やましい事はありませんので、大抵の事にはお答え出来ると思います。」
しかし聡は平然とした顔で言う。
「…真実だな。じゃあ次は、この書いてある地名だが、ここが出身地で間違い無いか?」
「間違いありません。」
「この地名の都市は、どこにある?」
「…言いたくありません。」
ここまで毅然と答えていたが、流石にこの質問には答えられない為、仕方無くその旨伝える。
「…そうか。何故言いたくないんだ?」
「騒ぎになって、面倒事に巻き込まれる事、間違い無しだからです。」
「なるほど。出身地に関するこれ以上の質問は無意味だな。じゃあ次は、年齢だが、ここに書いてある通りで間違い無いか?」
聡の心情を読み取ってくれたのか、ルドガーは質問を変えてくれる。
しかし、この質問も、聡にとっては鬼門であった。が、覚悟を決めて答える。
「(肉体年齢は)21歳です。」
「ふむ。若干強ばっていたようだが、真実だな。」
どうやら無事にこの質問には答えられたらしい。内心で、ほっと一息つくが、表情には出さないよう努める。
「サトシは、犯罪行為に及んだ事はあるか?」
「ありません。」
もちろん元の世界で、犯罪行為をした事は無いし、こちらでも、魔王を討伐するのは犯罪では無く、アノマリー達に対しても、正当防衛だと思ってるので、キッパリ答える。
「この街に危害を加えるつもりはあるか?」
「基本的にはありません。しかし、正当防衛という形で、街に対して何らかの危害を加える可能性も否定出来ません。」
「我々が何かサトシに危害を加えようとしたら、抵抗する際に被害が出る可能性があるという事か。」
「その通りです。」
聡は聖人でも何でも無いので、殴られて、それを喜んで許すなど、絶対にする気は無い。その為、正直に言うが、ルドガーの表情は曇る。
こうして、まだまだ事情聴取は続いていくのだった。
ぼんじんのぼんちゃんに、今後の出番はございません。
さようなら、ぼんちゃん…。