第45話 夢の冒険者ギルドです(3)
普段より少し長いです。
「はい、書けました。」
「ありがとうございます。では、最後に、こちらの水晶に、サトシ様の魔力を注いで下さい。」
「これは何でしょうか?」
「これは、ギルドカードに魔力の波形を登録するための物です。」
「なるほど。」
ー指紋認証みたいなものか?しかし魔力を流す、か…。これ、割れたりしないよな?ー
聡の脳裏に過ぎるのは、魔法の実力を測るために、魔力測定の水晶に魔力を全力でぶち込み、粉々に粉砕する数々の主人公達の姿である。
創作物ならば、それで良いかもしれないが、現実でそれをやると、とんでもない事になりかねない。だから聡は、おっかなびっくり手を水晶に翳して、神経をすり減らしながら魔力を放出しようとする。
が、聡の手が水晶まで残り10センチになった地点で、水晶が軽く光を放ち始める。
「え?」
まだ何もしていないのに、魔力が水晶に吸い込まれてるっぽい光景に、聡は驚いてしまうが、エーリカもルドルフも、全然驚いた様子は無い。
「はい、終わりました。登録完了です。今、カードをお持ちしますので、少々お待ちください。」
聡がポカーンとしてる間に、エーリカは席を立って、カウンターの奥にあるドアから、事務所のような部屋に入って行く。
「おう、良かったなサトシ。すんなり登録出来てよ。…?サトシ?」
「え?あ、今、何て言いましたか?」
「だから、すんなり登録出来て良かったなって言ったんだが。大丈夫か?サトシ?」
「だ、大丈夫です。」
「そうか?なら良いんだが。」
ー何もしていないのに、俺の魔力が水晶に吸い込まれた?この世界の全ての生物は、生きている限り、自動的に魔力が体から漏れ出てたはずだ。つまり、俺の場合は、無限にあるMPが俺のコントロール下を離れて、勝手に大量に放出されてるって事か?…こいつは、要検証だな。ー
周囲に大量の魔力を撒き散らす事により、何かしらの弊害が発生する可能性もあるため、今後の最優先事項として、魔力のコントロールをする事に決めた聡。
ーそういえば、俺のスキルに、『魔力遮断 Lv:1』があったな。確かあのスキルは、体から漏れ出る魔力を、抑えることが出来たはずだ。まずは、あれを鍛えるか。ー
魔力の扱いが上手くなる前に、取り敢えずの応急措置として、魔力が外に出ないように、抑えつける事にしたようだ。
「おい、サトシ。さっきからぼーっとして、どうしたんだ?」
「え、あ、すみません。大丈夫です。」
再びルドルフから声をかけられて、はっと我に返る。
「サトシ、まさかお前…。」
そんな聡を見て、愕然とした表情を浮かべるルドルフ。
急に表情を変えたルドルフに、聡はびっくりしてしまう。自分は何か、ミスをしてしまったのかと。
「え?な、なんでしょう?」
恐る恐るルドルフに問う聡。
するとルドルフは、そのままの表情で、とんでもない事を言ってくる。
「…サトシ、エーリカに惚れたな?」
「…は?今なんて?」
驚きのあまり、それまでの敬語を忘れ、思わず素の言葉遣いで聞き返してしまう聡。
そんな聡に対して、ルドルフは『ウンウン』と頷きながら、ニヤリとした笑みを浮かべる。
「いや、別に恥ずかしがる事は無いんだぞ?なんてったって、俺が冒険者始めた時も、エーリカが登録担当だったんだが、正直に言えば、惚れかけたもんだ。」
「いや、別に俺は、エーリカさんに惚れてませんが?ただ綺麗な方だな〜ぐらいにしか。」
「まぁまぁ、無理すんなって。お前ぐらいの歳なら、ちょっと綺麗な女に、少しのきっかけで惚れるもんだ。」
ー俺、321なんすけど?俺ぐらいの歳だと、殆どの人は枯れてると思うんだけど?ー
絶対に外部には漏らせないツッコミを入れる聡。
反論もせずに黙り込んだ聡を見て、惚れてるのは間違い無いと考えたルドルフは、更に追い討ち的に、言葉を重ねる。
「だがサトシ。エーリカはエルフだぜ?つまり、見かけ通りの歳じゃねぇって訳だ。」
「そう…ですか。」
女性の年齢を、こそこそ話すのは、気が引けるなぁと思い、微妙な表情を浮かべる聡。
その表情をどう捉えたのか、ルドルフはサムズアップしながら、ニカッと凶悪な笑みを浮かべて言う。
「あ、別に結婚はしてないし、彼氏が居たって話も聞かないから、安心しろよ?」
「はぁ。」
何をどう安心すれば良いのか分からないので、気の抜けた返事をする。
そしてルドルフは、そのまま禁断の話題の、核心的部分について、語ろうとする。
「で、アイツの年齢なんだがな。何と、ひゃ「私がどうかしましたか?」うわぁ!?え、エーリカ!?いつから居たんだ!?」
「『正直に言えば、惚れかけたもんだ。』の辺りからですね?」
綺麗な顎に、人差し指を当てながら、無表情でルドルフの声真似をして言うエーリカ。
「ほぼほぼ最初からじゃねぇか!?」
今までの話を、全て聞かれていたと理解したルドルフは、思わず全力でツッコミを入れる。その表情は引き攣っている。
「で、私の歳がどうかしましたか?」
ここまでの無表情が一転、見た者全てを魅了してしまいそうな程、綺麗な笑顔を浮かべて、ルドルフに問う。
だが、そんな笑顔を向けられたルドルフは、顔を青ざめさせて、震えるだけだった。
「…(がたがたがた)。」
そんなルドルフに、哀れみの視線を向けてから、聡は2メートルほど距離をとって、静観することに決める。
「で、私がどうかしましたか?」
今度も、先程と同じような笑顔だが、離れている聡ですらも、身震いしそうになるような、そんなプレッシャーを放ちながら、エーリカは問う。
「…す、すみませんでした〜!!!俺は、先程、自分が何を話そうとしていたのか、忘れてしまいました!!!」
必死に謝るルドルフ。だが、ルドルフは知らなかった。
「…言いたい事は、それだけですか?」
女性にとって、年齢の話とは、絶対の禁忌であるという事を。そして、それに軽々しく触れた者は、どうなるのかという事を。
「え?」
冷たく突き放すような言葉を聞き、思わず顔を上げようとしたルドルフが最後に見たものは、自身の腹筋を破り、腹に突き刺さる、綺麗な白い拳であった。
聡は後に語る。あれは、世界を狙える、右ストレートであったと。
盛大にネタに走りました(笑)。
しかし、エーリカさんは、一体何歳何でしょうか?さっきルドルフは、ひゃ…あれ?インターホンが鳴りました。ちょっと玄関を見てきますので、話の続きはその後d…
この後、血迷ったトモの姿を見た者は、居なかったという…。