表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/129

第42話 安らぎ亭

ケモ…

「じゃあ出発するよ。」


「うん!」


聡は、もう外からどう見えるかなど、気にしない事にして、女の子に指示された通りに歩く。


「お、ティアナちゃん!肩車してもらって、どうしたんだい?」


目的の八百屋(?)に着き、商品を見繕っていると、店主と思しき中年男性が、こちらに向かって声をかける。


ーこの子、ティアナっていうのか。そういえば、俺も名乗ってなかったな。ー


「さっき転んじゃったんだけど、このお兄ちゃんが助けてくれたの!」


「ほう。そうなのか。兄さん。ティアナちゃんを助けてくれてありがとうな。」


それまで、若干怪しい人を見る目で聡を見ていた店主が、急に態度を変えて、礼を言ってくる。


「まぁ成り行きですから。」


それに対し、フードの下で、苦笑いを返す聡。


「おじさん。ニンジンとタマネギを、それぞれ5個ずつ下さい。」


「あいよ!銅貨10枚…と言いたい所だが、いつも頑張ってるティアナちゃんの為に、大特価!銅貨6枚で良いぜ!」


「おじさん、ありがとう!」


ータマネギとニンジンがそれぞれ銅貨1枚か…。物価的には、300年前とほぼ変わってないのか。ー


聡は、さり気なく情報収集する。


この後、こんな感じに、4件店を回ったのだが、同じようなやり取りをし、漸く回りきった頃には、午後3時を回っていた。

聡がベルクフリートに到着したのが、午後2時くらいだったので、なんと、1時間も肩車していた事になる。


「お兄ちゃん、ありがとう!もうお使いは終わったから、後は帰るだけだよ!」


「うん、分かった。案内よろしくね。」


最初に会った頃には、傷の痛みで元気が無かったティアナだが、買い物している内に痛みがマシになったのか、今では元気良く話しかけてくる。

そんなティアナの指す方へ、ゆっくり歩いてく聡。

なるべく揺れたりしないよう、気を付けている為、ゆっくり歩いているのだが、そのかいあってか、1時間経った現在でも、ティアナは疲れた様子も無く、元気に話しかけてくる。


「そういえば、お兄ちゃんって、この街の人なの?」


「いや、旅人だよ。今日、この街に来たばっかりなんだ。あ、俺の名前は聡だよ。」


「サトシお兄ちゃんは旅人なんだ〜。」


「まぁね。」


ーまぁまだ、1つの村と、1つの街しか訪れた事がないけどね。ー


心の中でツッコミを入れていると、ティアナから声がかかる。


「あ、私の家、あそこだよ!」


「あそこか。…ベッドの絵が描いてある看板、ということは、『安らぎ亭』?」


「あれ?お兄ちゃん、私の家を知ってるの?」


「うん。さっき門の所で、オススメの宿屋は何処か聞いたら、安らぎ亭だって言われたんだ。」


「あ、じゃあサトシお兄ちゃん、家に泊まってくんだ!」


「そうだね。お世話になろうかと思ってるよ。」


「やったぁ!」


聡が答えると、嬉しそうな笑顔を浮かべるティアナ。


「このままだと、頭がぶつかっちゃうから、一旦下ろすね。」


「…うん。」


そう言うと、ちょっと元気が無くなるティアナ。聡の肩車が、よっぽど楽しかったのだろうか。


「それじゃあ次は、お姫様抱っこだ。」


「わわっ!」


目を点にしながら、聡に抱きかかえられるティアナ。

そのまま聡は、安らぎ亭のドアをノックしながら開ける。


「ごめんください。」


「は〜い、いらっしゃい!って、ティアナ?」


「あ、お母さん。ただいま。」


中に入ると、ティアナと同じ茶髪の獣人族の女性が出迎えてくれる。ティアナの母らしい。

聡に抱えられているティアナを見て、びっくりした様子だ。


「下ろすから、しっかり立ってね。」


「うん。…よいしょ。」


おっかなびっくり立つティアナ。


「ティアナ、どうしたの?」


その様子を見て、ティアナの母は、不思議そうに聞いてくる。


「お使いに行く途中、道で転んじゃって、怪我をしたんだけど、このお兄ちゃんが肩車してくれたの!」


「足を挫いてるようだったので。」


『決して怪しい者ではありませんよ?』と、苦笑いしながら理由を伝えておく。


「あらあら。えっと、あなた…。」


「あ、聡と申します。」


「サトシさん、娘がお世話になりました。ありがとうございます。」


頭を深々と下げられて、大した事はしてないと思っている聡は、気恥しくなってしまう。


「あ、いえいえ。成り行きですので、お気になさらないでください。」


聡が謙虚な態度をとっていると、先程までの敬語が崩れた女性が、自己紹介してくる。


「あ、私、ティアナの母の、アデリナだよ。」


「アデリナさんですね。私、旅人をしてまして、今日この街に着いたばかりなのですが、ここに泊めて頂く事って出来ますか?」


遠い回り道をしてしまったが、漸く話を切り出せた聡。


「はい、もちろん!朝食と夕食をつけるかい?」


そんな聡の問いかけに、笑顔で答えるアデリナ。


「はい、お願いしますの。じゃあ取り敢えず、5泊分をお支払いしておきます。お幾らですか?」


基本的に料金先払いが基本のこの世界の宿屋。

その代金を支払うため、聡は皮袋に手を突っ込んで、アイテムボックスから金貨と銀貨を適当に引っ張り出す。


「1泊銀貨3枚だから…。」


「金貨1枚と銀貨5枚ですね。はい。」


「ず、随分と計算が早いね。」


「まぁ旅人なんで、慣れてないと酷い目に遭いますからね。」


こんな事で褒められるとは思っていなかった聡は、それらしい言い訳をしてみる。

この世界、義務教育なんてものは無いため、平民は四則演算すらまともに出来ない者が多い。商人であれば、楽々こなすのだが。


「はい、じゃあこれが部屋の番号札だよ。201だから、2階だね。」


「ありがとうございます。」


「夕食まで、少し時間があるから、それまで部屋でゆっくり休んでね。出来たら呼びに行くよ。」


「はい、分かりました。」


アデリナから札を受け取った聡は、201号室へと向かうのだった。

こうして、平和的に街へと辿り着いた聡。

この先、一体何を成していくのでしょうか。

まだまだ続きますので、今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ