第23話 道徳的な人間(1)
話が全然前に進まない回ですね…。
正午を回る前、聡はマリウスに連れられて、マリウスの仕事部屋に居た。
「さて、そろそろ俺がサトシを村に入れた理由のうち、信頼出来る以外の理由を話しておこう。」
「え?何か理由があるんですか?」
『話があるから着いて来い』と唐突に連れられて来た聡は、いきなり妙な事を言われて首を傾げる。
それもその筈、初対面の人間に何か、実は悪党かもしれないという危険を犯してまで、村に入れる理由など、到底ある訳ないからだ。
「あぁ、ある。まぁ、ただの勘だがな。」
「勘かい!」
思わずツッコミを入れてしまう聡。
「何か問題があるか?サトシが信用出来るってのも、俺の直感なんだがな。」
「そう言われると、弱いですね〜…。」
『あはは』と頬を掻きながら、聡は観念した様子で下座のソファーに座る。
部屋の主人の許しなく、勝手に座るのは如何なものかと思ったが、自身とマリウスの関係性を鑑みるに、そこまで気を遣う必要無しと判断したのだろう。
「じゃあ本題だ。」
「はい。」
言いながら、マリウスは上座側のソファーに腰を下ろし、ちょっと緊張した面持ちになる。
そんなマリウスに釣られ、唾をゴクリと飲み込んで、何を言われるのかと緊張する聡。
「サトシ、お前実は、…。」
「はい。」
「実は、今朝会った時に居た連中と、俺を併せても、一瞬で殺すことが出来るくらいには強いだろ?」
「へ?」
何を言われるのかと身構えていた聡は、予想の斜め上を行くマリウスの言葉に、間抜けな声が漏れてしまう。
だがマリウスは、そんな聡には構わず根拠を話し出す。
「俺にはな、『直感』っていうスキルがあって、それが発動した時に感じた事は、間違いだった事が無いんだ。」
「なるほど…。で、村には危害は加えないが、滅茶苦茶に強いと感じた訳ですか?」
トイフェルから、スキル『直感』の事を聞いていた聡は、別段驚く様子も無く、冷静に予想を建てている。
「あ、あぁ、概ねその通りだ。」
一方でマリウスは、予想外の反応を示した聡に、困惑気味である。もっと戸惑ったり、驚くものであると考えていたのだ。
「しかし、その事を私に告げる理由が分かりませんね。話のタネにしたかった…なんて事は無いでしょうに。」
ちょっと目を細めて聞く聡。
「当然だ。ところで、イルマからこの村の成り立ちは聞いたな?」
聡からの視線に動じず、マリウスは至極余裕な様子だ。
「えぇ、聞きましたよ。何かやばい貴族が領主だってところまで。」
「そうか。なら話が早い。」
聡が領主という単語に触れた途端、眉を顰めるマリウス。その表情から、早くもこの村から出たくなってきた聡。
-あ〜、これは、絶対に|お約束(奉仕活動)で決定だな…。-
聡は思う。自分が日本に居た頃好きだった、ファンタジー小説の主人公達は、よっぽどのお人好しか、馬鹿であったのだろうと。
例え人助けとはいえ、自分に利があるとは限らない事を、平然と、息をするようにするのは、損得勘定が出来ないか、した上で助けているかの2択であると、聡は思っている。
因みに聡にとって、今回は利があるかと言えば、ほぼ無いと言っても過言では無い。何故なら、聡は金を余るほど持っているし、その他諸々の欲は、ここ300年でコントロール出来るようになった。
「…。」
無言で考えを巡らせる聡。そんな聡に、マリウスは静かに語りかける。
「なぁ、サトシ。」
「…はい。」
「お前の力、ちょっとばかし、貸しちゃくれないか?」
軽い口調だが、真っ直ぐに聡に向き合い、真剣な声音だ。
聡とて鬼では無い。人間として、道徳的に、彼の話を聞かないのは、悪い事のように感じたため、頭を押さえつつ質問する。
「具体的には、何に力を貸してほしいんですか?」
反応が芳しくないと感じていたマリウスは、一応は話を聞く気があると思ったのか、少し嬉しそうに、しかし深刻そうに話し出す。
「実はだな、これも俺の直感で感じたものなんだが、近いうちに、あのクソッタレ領主が、うちの村で、何かヤバい事をやらかす可能性がある。」
「なるほど、ヤバい事ですか。」
『ほら来た!』と、聡は心の中で溜息をつく。こちらの世界の内情に詳しくない聡には、そのような問題を解決するには、純粋に力で無理矢理抑えつけるしか方法は無い。しかしそれでは、暴力ではなく権力も兼ね備えている貴族相手には、いささか相性が良くない。
「あぁ、ヤバい事だ。曖昧な表現だが、その内容は概ね想像つく。金銭などの財物が略取されるのは目に見えている。後は、この村では人数は少ないが、奴の大好きな、年端もいかない少女が拐かされるだろう。恐らく、イルマも含めてな。」
無感情な口調だが、烈火の炎の如き怒りを感じているようだ。その手は握り拳を作り、血の気が失せるほど力が込められている。
そんなマリウスの様子を、聡は悩ましげな表情で眺めるのだった。
欲をコントロール出来るとか言ってますが、実はそれには理由があり…。