第15話 喉が痛いです(叫びすぎ)
計算ではなく心理戦というのは、描写が難しいですね。
「…私は、ただの旅人です。」
聡はなるべく穏やかに答える。内心を悟らせないためには、こうするしか無いと考えたからだ。
「ほう…。確かに兄ちゃんは、旅人風な格好をしているな。だが、少し甘いな。」
「何かおかしい点でも?」
ニヤリとしたリーダー格の男の言葉に、自分の格好を見る聡。
「まぁな。兄ちゃん、その靴、ここを歩く時にずっと使っていたんだよな?」
そう言われて、改めて自分の靴を確認する。すると、一見使い込まれているかのように見えたが、この荒野で露出している土が赤茶けたものであるのに対し、染み付いているのは茶色の汚れであった。
「む。中々良いところ突きますね。」
聡は困り顔で、己のミスを認める。
そんな聡に対して、更に追い討ちをかけるように、男は言葉を重ねる。
「それにだ。兄ちゃんの肌は、明らかに旅をしている奴の色や質じゃねぇ。長い事外に出てない奴のものだ。」
「確かにそれは誤魔化せませんね…。」
癖で捲ってしまい、外に露出している自分の腕を見る。確かに色白であり、特に荒れた様子も無いので、これでは『インドア派です!』と自己紹介して回っているのと、大差ないであろう。
「まぁそれに、ここまで怪しい点があると、ローブの下に着ている高そうな服も、怪しさを引き立たせているな。」
「おうふ。これもう、言い訳出来ないやつやん…。」
開始数分で完膚なきまでに論破された聡は、その場で頭を抱えて蹲る。
「まぁなんだ。怪しいとは言ったが、俺達の脅威になるとは言ってないぞ?だから、まだチャンスはある。」
落ち込む聡に対し、何故か助言的な事を言う男。
「…なるほど。つまり、私が貴方達に危害を加える心配が無いと、証明すれば良いと?」
「まぁな。兄ちゃん、俺達の村に入りたいんだろ?なら、そうしてもらう他無いな。」
「そこまで見抜いているとは…。」
こちらの目的まで、完全に見抜いている男に呆れる聡。
「どうした?村に入るのを諦めるか?」
「いえ、折角の機会です。貴方を納得させられるかどうか、試してみます。」
挑発してくる男に、聡はニヤリとした笑みを返し、思案を巡らせる。
-さて、どうしたものか?今の俺の信用度は、地を這うどころか、地の底だ。下手な言葉を重ねても、逆に怪しまれるだけ。…ならば!-
伏せていた顔を上げ、真っ直ぐに男を見る聡。
「お?考えが纏まったのか、兄ちゃん。」
「えぇ。これ以上、言葉を重ねても無駄だと結論が出ました。」
「ふむ。ならばどうする?説得を諦めて、力づくか?」
男の言葉に、周りの男達は警戒の目で聡を監視しつつ、臨戦態勢に入る。
「いえ、そんな真似はしません。そんな短絡思考をするような奴なら、最初からその手でいくでしょう。だから私は、」
聡は一旦そこで言葉を切り、肩に担いでいたバックを下ろし、ローブを脱ぐ。
「必殺、瞬間脱ぎ!」
そして次の瞬間、某極道ゲームのお家芸のように、服を一瞬で脱ぐ。
『は?』
そんな唐突な聡の行動に、男達の時は止まる。
「とうりゃあ〜!」
だが聡は、男達には目もくれず、勢い良く川に飛び込む。…勿論、ステータスの関係から、ある程度は気を使っているのだが。
「い、いきなり何を!?」
『ドボーン』と音を立てて飛び込んだ聡に、リーダー格の男は慌てて問う。
すると聡は、とんでもない事をのたまう。
「いやだってさ、言って信用してもらえないなら、行動で信用してもらうしかないじゃないですか?」
本気で呆れた様子で、男は聡の意図を推測する。
「で、あえて丸腰になって、あろう事か動きにくい水中に入ったと。」
「えぇまぁ。…思ったよか、冷たいですね。」
聡は男の推測が正しいと認める。そして呑気に、飛び込んだ感想まで言っている。
「はぁ〜。お前、だいぶ面白い奴だな。良し分かった、信用しよう。」
「おぉ!マジですか。ありがとうございます。あ、私は、聡といいます。」
何とか信用を得られた聡、そのまま自己紹介に移る。いつまでも兄ちゃん呼ばわりなのは、ステータス上では321歳であるので、流石に違和感があるからだ。
「サトシか。俺はこの近くにある村、エンデ村の村長の、マリウスだ。よろしくな。」
「そ、村長!?」
まだ30代前半に見えるマリウスが村長であると知り、聡は驚いてしまう。
「ははは!会ってから今までで、そこに1番感情を顕にするのか。そんなに貫禄無いか、俺?」
落ち込んだ風な口調だが、聡が驚いている事に寧ろ『してやったり』といった感情を懐いているのが出ている声音だった。
「い、いえ。確かにしっかりはしていると思うんですが、まだまだ若そうなのに、余程人望があるんだなと、驚いただけです。」
「若い?こう見えて、俺は今年で52歳だぜ?」
「はぁ〜!?」
衝撃の事実に、異世界に来てから1番の驚きの声が響き渡るのだった。
むさ苦しくてすみません(笑)。聡には、中々ご褒美が与えられませんね。