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勇者とバナナと練乳と  作者: フェフオウフコポォ
旅の始まりとバナナ
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7話 アリエナイの国で働いてみるよ

「なぁニンニン……ぶっちゃけ俺って、これから何をしたらいいんだと思う?」

「いや、それを拙者に聞かれても……んぐ。おおおコレ超美味しいでゴザルぅ。」


 公園で豪華なサンドイッチを片手に考える。

 ニンニンは、なにやらとても幸せそうな顔でハムスターの如くサンドイッチを頬張っている。


 ニンニンに問い掛けたように正直なところ、これからどうしたらいいかが分からない。


 この世界で『勇者』といえば、力に任せ傍若無人な振る舞いをする厄介者の事。

 そして俺はもう勇者と呼ばれるような存在になってしまったのだから、ある種そう振る舞って然るべきかもしれない。


 こちらの世界に来る前の世界でも、戦国時代や中世ヨーロッパの史実を見れば、力のある者は好き放題していて、それが正義とされていたのだから、この世界で勇者=傍若無人と認識されているのであれば、それに沿うように好き放題しても何の問題もない。当然のこと。

 まして生まれ故郷たるアリエヘンの国からはアリエナイの国でそう振る舞うよう推奨されているし、うまくやれば給料だって出る。


 だからヒャッハー宜しくこの国で世紀末世界を作り出そうとしても良い。

 ……だが、俺の中身は何度も言うが『日本人のオッサン』だ。


 『他人を苦しめるような真似してもいいですよ~。もう仕方ないんで』とか言われても、そうそう簡単にそんな風に動く事など出来はしない。


 ボーっと考えながら辺りを見回す。


 公園には親子連れや仕事中の一休みのような人達がチラホラと目に入り、そういう人達の、今、この場を生きているという風景を感じると、改めてメチャメチャになんてできないよなぁと思う。


 ベンチの背もたれを鳴らしながら、サンドイッチを齧り、中空を見つめる。

 まとまらない頭の中に飽き、空気を変える為に、違う話をしてみる事にした。


「ニンニンはさぁ……追跡だけなの? 受けてる指令って。」

「ほえっ? そうでゴザルよ。ング。ヤベェ殿を追跡しては……モグ。その様子を手紙で送るのが仕事でゴザル……あむ。」


 こっちを見ながらも、休むことなく美味しそうにモグモグと口を動かしながら喋っている。

 女なら『かぁーわいい♪』で許せる仕草だが、男で同じような振る舞いをしていたらただのバカにしか見えない。

 コイツは本当に女になって正解だと思う。


「そういえば、さっき日当とか旅費みたいな事も言ってたけど給料も出てるの?」

「そうでゴザルな。ちゃんと手紙を送り続ける限りは拙者の両親にお金が行くようになっているでゴザル。」


 ニンニンの処遇が俺と似たようなものと思いつつ、少し気になったので話を掘り下げて聞いてみる事にした。


「ん? 両親の所にお金が行くって事はニンニンの必要経費は?」


 しゅん、と落ち込んだような雰囲気に変わるニンニン。


「出るでゴザル……が、戻らなければもらえないでゴザル……」

「交代要員が来るってことか?」

「その予定はないでゴザル……」

「ん?」


 色々と疑問が生まれ、掘り下げて話を聞いてみると、どうやらこのニンニン。使えないと思われて放逐されたんじゃないかとも思えてきた。

 さらに悪い事に、ベラベラと喋るニンニンから給料が振り込まれる予定の両親についても色々と情報が漏れてくる。


 なにやら


 『何をやっても褒めてくれない両親だけど、お金を持っていくと興味を持ってくれる』

 『両親の許可を取らないと服も買ってはならない』

 『両親がすぐにお金を使い切る』

 『弟と妹の為にも稼がなければならない』


 なんてことが聞き取れた。

 聞き取れたが……ちょっと苦しくなった。


 ニンニンは日本でいう『搾取用子供』という扱いだったのだ。

 『とりあえずニンニンには優しくしてあげよう。』

 そう心に誓う。そして

 『国に帰す時はちゃんと男に戻さないと何させられるかわからんな』

 と背筋がうすら寒くなるのを感じたのだった。


 個人的に重いと感じる話を聞いてしまったので、話を変えるべく勇者についても聞いてみることにした。


「目を合わせちゃいけない人でゴザル。」


 と、こっちをバッチリ見ながら言った。

 そしてその後、ハっとして目をらす。


「いや。俺勇者だけど今さら目を逸らしてもオカシイだろ。」

「……それもそうでゴザルな。てへへ。」


 バツが悪そうに笑いながらも少しだけ小さくなるニンニン。


 なにこれカワイイ。

 守ってあげたい。


 思わずときめいてしまった。

 正直生い立ちとか職場の扱いとかが不憫過ぎて、幸薄な可愛い娘に思えて仕方がないのだ。

 庇護欲がマックスなのだ。


 しかしニンニンを楽しく過ごさせようにも、アリエナイの国は物価がまぁー高い。

 50万エン゛ッあると言っても調子乗って使えば一週間も持たないようだろう。


「……働くしかねぇかな。」


 自分の欲望に従う事にして、俺は職業あっせん所を探す事にした。

 前を通りがかった休憩中っぽいオッサンに聞いてみると、職業あっせん所は居住区に近い所にあるという。

 さっさと移動し、あっせん所の中に入ると結構賑わっていた。


 あっせん所の入り口には人材募集の貼り紙が所狭ところせましと貼り付けられ、それを見ている人間もまた多い。


 チラっと貼り出されている貼り紙を見たが、観光土産などの荷物運びといった仕事が多く、剣と魔法の世界のくせに魔物退治のような物はほぼ出ていない。

 まぁ、どうせ初期フィールドから毛が生えた程度の地域なのだろうから、強いモンスターがいなければ当然だ。

 安全故にリゾートとして発展しているのだろう。だからそういう仕事が多い。


 仕事は基本的には日雇いの物が多かった。


 ふとニンニンに目を向けると、今現在も仕事の真っ最中で働いているはずなのに日給の高い仕事を探して目を皿にしている。

 無一文になって、お金をもらいに帰ったとしても、ニンニンが両親からお金を貰えるか怪しいのだろう。もしかすると職場からももらえないかもしれない。

 だから夜なべでもして日銭を稼ごうというつもりなのだろう。

 涙が出そうになった。


 俺はちょっと天を仰いで涙をこらえながら『大丈夫ちゃんと俺が稼いで良いもん食わせてやるからな』と、またも誓う。


 ……とはいえ、どう働いていいものか分からなかったので中に入りカウンターで問合せをしてみることにした。

 なにせ食べさせてやらなければならないのだ。ニンニンを。


 カウンターはそこそこ混んでいたが受付の人員も多く、人を捌くのに十分な数が配置されていたので、そんなに待つ事は無かった。

 自分の番になり、少し疲れた感じだが、ちゃんと笑顔を作った若い女が俺の対応を始めた。


「どんなご用件で?」

「え~っと、アリエヘンから来た者なんですが働いても問題ないですか?」

「ええ問題ありませんよ。犯罪者・・・とかでなければ。」


 そう言って、こっちをじっと見て反応を伺っている。

 労働にあたって最低限の条件だけは決まっているらしい。


「ははは。大丈夫ですよ。犯罪なんてしたことないです。」


 愛想笑いを返すと若い女は営業スマイルに戻った。


「そうですか。それなら安心ですね。

 では何か職に役立ちそうな特技や、やってみたい事なんかはありますか?」

「あ~……やってみたい事とかは特にないんですけど……特技は、あの、俺一応魔王を倒した勇者なんで大抵の事はできると思います。」


 『勇者になった』という事は犯罪者になったという事ではない。

 だけれど、一応前もって言っておいた方がいい事には違いないと思い伝えてみる。


「…………」

「…………」


 どうやら決断を間違ったらしい。

 若い女の笑顔が凍りつき、俺をじっと見ている。


「……少々お待ちください。」


 慌てて後ろに引っ込んでしまった。


 『うわぁ、やっちまったかな?』と思いつつも、なるようになれの精神で待っていると、いかついオッサンと一緒に戻ってきたよ受付の人。


 なにやら厳ついオッサンはあっせん所の所長さんで、プロ意識全開のお世辞と超営業スマイルを聞かされながら流れるように別室に案内されたので従う。

 そして上等な椅子に腰かけると改めてオッサンが口を開いた。


「いやぁ、勇者様はタイミングがいいですな! 今、勇者様にもってこいの仕事がありますよ。」


 オッサンは地図を広げながら説明を開始する。


 アリエナイの国は観光王国。

 観光が売りなだけに食事も売りの一つで食材の取引は国策にもなっているらしい。その一環で隣の海に面した『サカナウ・マーイ国』とは良好な交易関係を築いていると言う。


 だが最近そのルートに賊が現れるようになり食糧を強奪されているらしく、その賊を退治して欲しい。という依頼だった。


 オッサンが地図でアリエナイとサカナウ・マーイのちょうど中間地点を指さしながら言う。


「ココが襲撃ポイントと睨んでいるんですよ。」


 指された位置は俺ならすぐ行って帰ってこれる距離だ。

 金になるし、なにより人助けにもなるのであれば悪い依頼ではないと思える。


「いいですよ。ちなみに報酬とかは出ますかね?」

「もちろんですよ。そうですね……これまでの被害をかんがみて……250万エン゛ッ程でいかがでしょうか。」

「ヤりますっっ!!」


 思わぬ高額報酬に二つ返事でOKを出してしまった。

 もちろん『ヤります』の『ヤ』は『殺』の意思だ。金は人の命よりも重いのだ。


「ちなみにですが、賊の規模とかに当たりはついているんでしょうか?」


 オッサンは営業スマイルを少し崩し……出し渋るように答えた。


「……どうやら……勇者のようなんです」


 同業かー!


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