6話 アリエナイの国に入国したよ
「一泊二人だと5万エン゛ッだよ」
「「 たっか! 」」
隣国アリヘナイの国に入り街道を進み城下町に入ってすぐ、ニンニンと一緒に今日泊まる宿を探す事にしたのだが、一際目立っていた宿に入り価格を確認すると、えらい金額だった。
もちろん、そのままソコを出る。
「一人2万5千エン゛ッっておかしくない?」
「そうでゴザルよ! 拙者宿泊は4千エン゛ッまでしか認められておらぬでゴザル!」
二人で文句を言いつつも、とりあえずアリエナイの国を見て回るが、見てすぐにわかった。アリエヘンの国よりも賑わっていて、色々発展しているように思える。
「あ~……あのジジイが好き勝手して来いとか言うわけだ。国力なら明らかにコッチが上っぽいもんな。」
「そうでゴザルなぁ。なかなか住みやすそうな所にゴザル。おっ? ヤベエ殿。観光案内所まであるでゴザルよ!」
ニンニンに促されるまま観光案内所に入ってみる。
コンシェルジュのような人まで配置されていたので折角なので聞いてみる。
「すみませ~ん。今日着いたばかりの観光客なんですけど、安く滞在できるような所ってありますかね?」
コンシェルジュは営業スマイルをバッチリ決めながら、いくつか紹介してくれた。
長期滞在なら週単位で借りたりしたりする方が安いらしいが、特別ニッコリしながら短期のカップルのお客様ならこちらの区に向かわれても宜しいかもしれません。と案内を受けた。
ニンニンはその間にグルメ情報をチェックしている。
早速案内されたカップルのお客様向けとやらの区に向かう。
「や、ヤベエ殿……これは……」
「……案内されるまま来たけど……こ…コレはアレですな。」
ラブホ街だった。
「せ、拙者……まだ、そういうのは……」
「わかってます! 分かってます! 長期滞在の方に向かいましょう! スミマセン。」
慌てて踵を返し逆方向へ歩き始める。すると盛大に腹の虫が鳴った。
「あ。ヤベエ殿ヤベエ殿! 腹が減ってはなんとやらです!
さっきの案内所で見つけた、アリエナイ名物を出す店がこの近くですから食べに行きましょう!」
ニンニンの嬉々とした提案に乗ることにしてその店に入ってみる。
「……水だけでも700エン゛ッもするでゴザル……拙者のお昼は……500エン゛ッまででゴザルのに。」
「サラダも1500エン゛ッですよ……うわぁ……全体的にたっかいなぁ。」
メニューから視線を外し、ニンニンと顔を見合わせ、しばし沈黙する。
「……ヤベエ殿は勇者でゴザルから……なんとかできぬでござらんか?」
「いや、どうしろってんですか。この状況から。」
「ご注文はお決まりですか?」
にこやかにウエイターが声をかけてきた。
ニンニンが焦りながら必死な形相でこっちに向き直る。
「ややや、ヤベェ殿! 拙者ココはムリにゴザル! 勇者なのですからなんとかしてくだされ!」
そう言ったニンニンの言葉を聞いたウエイターは一度ピタリと止まる。
そして一切笑顔を崩さないまま俺に向き直り、再度ニコリと良い表情を作った。
「勇者の方でしたか、それはそれはお越し頂き有難うございます。少々お待ちくださいませ。」
そう一言だけ言って離れていった。
何もできないまま待ち、ニンニンとキョロキョロしていると、ウエイターが豪勢なサンドイッチが入ったバスケットを持って戻ってきた。
「当店では、勇者の方にはこちらをご提供させて頂いております。
本日は大変良い日よりでございますから、こちらのサンドイッチ等を太陽の下で食されると当店でお食事頂くよりもより一層お楽しみ頂けるのではないかと存じますが、いかがでしょうか。
もし当店のサンドイッチをご賞味頂けるようであれば、こちらの料金は無料で結構でございます。」
良い表情のまま提案してきた。
ニンニンはパァアっと顔を輝かせ、俺とウェイターを交互に見続けている。明らかに食欲が勝っている。
俺はウェイターの言葉の意味を考えた。
要は『勇者とかマジ勘弁。サンドイッチやるから帰れ』って事だろう。
だが願ったり叶ったりだ。
もちろんそのまま店を出る。
頭を下げるウェイターに見送られ、公園のベンチに移動してニンニンとサンドイッチを分けながら食べる。サンドウィッチは具だくさんで因縁のつけようがない完璧なサンドイッチ。めっちゃ美味かった。
勇者って……ヤベェな。
そうしみじみ感じるのだった。