57話 嫁を選ばなきゃいけないよ
「子作りって…………一人でできますか?」
「混乱するのはやめましょうね。ご主人様
そろそろハッキリしないと、ぶち殺しますよ?」
「へぅ……」
「ボクのヤベエに下品な言葉を吐かないで欲しいんだけれども。」
ソルがあぐらをかいている俺の上に座りながら、アンネに挑発的な視線を投げている。
青い髪が鼻に触れてくすぐったい。
アンネもそんなやり取りには、もう慣れたようで軽く笑う。
「あらあら、人になったばかりの物にはこういう『親しいからこそできる会話』という物。人間的な機微はまだ難しいようですね。」
「ふふふ『親しい』と言うのならば、この中ではボクがヤベエと一緒に過ごした時間が一番長いんだけどけれども?」
余裕のある表情をアンネに向けるソル。
「人になってから触れ合った時間は全然じゃろうが。人間同士だと我らの方がもっと長かろう。」
後ろから俺に抱き着きながら、ロウリィがソルに対して言葉をかける。
「だからさぁ……ボクのヤベエに気軽に触れないでもらいたいんだけれども?
それとも何? もしかしてまた痛めつけられたいのかな?」
「ふん! お主も充分痛い目を見たじゃろうが。お主には我の覚醒は有効なのじゃぞ?」
言葉と同時に覚醒体に変化したロウリィの豊満な感触を背中に、ソルの引き締まっていながらも柔らかさを感じさせる感触をあぐらで受け止め、極楽の感触を感じつつ、ケンカが始まりそうな雰囲気に『またか』と思っていると、急に左手に痛みが走った。
「いたいっ!」
ソルが俺の手を取って噛みついていた。
そして歯形のついた跡からじんわりと滲む俺の血を舌で舐めとる。
途端にソルの髪の色が青から赤へと根元から変色した。
「てめぇも懲りネェよなぁ! クソババァがぁ。」
ソルは半笑いになりながらロウリィに向かってパンチを放つが、ロウリィが片手で受け止め、それを握る。
ロウリィが受け止めているが、ソルもロウリィも力を入れているせいで、ガクガクとその手が揺れ動く。
その手が俺の顔面の横にあるせいで二人の手が時々ゴチゴチと当たる。
「痛い痛いっ! 遊ぶなら外で遊んでよ。」
「オレのヤベエがそう言うなら仕方ネェ……また揉んでやろうじゃねぇか。行くぞクソババァ」
「ふん。獣には躾が必要じゃな。相手をしてやろう。」
ソルとロウリィがそのまま窓から外に出て戦いが始まった。
少し溜息をつくと、カナちゃんがポケットからハンカチを出して俺の右手を拭き始める。
「大丈夫ですか? 国王様。」
ちなみにカナちゃんが着ているのはセーラー服だ。
もちろん俺が贈った。
だって15歳だって言うんだもん……仕方ないじゃない。
こういった服着せてると『あ、NOタッチだ』って思えるし。
「あぁ、うん。ぜーんぜん大丈夫だよ。すぐ回復できるし。ありがとうカナちゃん。」
回復魔法で傷を治し、治った手をカナちゃんに見せる。
「いつ見てもスゴイです! 国王様のお力!」
顔を紅潮させて、はしゃぎ始めるカナちゃん。
それがなんともカワイイので思わずほっこりしてしまう。
つい頭を撫でそうになるが、服装で『あ、NOタッチだ』を思い出して手を止める。
『あ、NOタッチだ』の為に、このセーラ服は大事なのだ。うん。
決して趣味ではないのだ。
「で、小娘にニヤつくご主人様は、現状をどうなさるおつもりですか?」
何となく背筋に寒気を感じながら、冷たい視線でニッコリと笑っているアンネに視線を戻す。
「げ、現状と……言いますと?」
「子作りをするには妻が必要でしょう? まぁ、側室でも構いませんし、それに町に行って好き勝手町娘に手を出してもいいですけれども…………もし町娘に手を出す場合は『出来る物なら』っていう条件が付きますけどね。」
手を出そうとした瞬間に、ロウリィとソル、アンネにぶん殴られている図が脳内に浮かんだ。
「町には行きません。」
何故か姿勢を正して返答する。
アンネが俺の正された姿勢を見て続ける。
「であれば、ご主人様はこの中から妻を選んだら良いでしょうね。
ロウリィ、イモート、ニンニン、ソル、サーイ、カナ、マツ、そして私。」
マツタケコが、後ろの方で『なんで私が頭数に入ってるの!?』という顔で驚いている。
「いやいやいや! 言うても、妻って相手の同意もいるでしょう? アンネもイモートもニンニンもそれでいいの?」
「いいですけど?」
「いいでガスよ?」
「いいでゴザルよ? ……時々ヤベエちゃんになってくれると嬉しいでゴザル。」
「あ、それいいでガスね。」
みんな、さも当然のような顔。
逆にきょとんとしてしまう。
「か、カナちゃんなんて、まだ若すぎるでしょ?」
カナに視線を送ると、ニッコリ微笑んだ。
「私の国だと13歳で結婚なんてこともありますし、むしろもう適齢期ですよ?」
「あぅ……」
「さ、サーイは? 政治で忙しいと奥さんなんて無理でしょう?」
「私は御身の望まれる事には全力でお応えして見せましょう。政治であれ、伽であれ、御心のままに」
「あぅ……」
マツタケコが『いや、だからなんで私が頭数に入ってるの?』というジェスチャーをしているので、とりあえず無視する。
「あのねぇ。ヤベエ。さっさと決めちゃいなさいな……じゃないと弟が先に出来ちゃうかもしれないわよ?」
ジジにしなだれながら、ため息をつくオカン。
『身内の下ネタは勘弁してくださいよ……』と思っていると、ロマンスグレーのジジが口を開いた。
「のう、ヤベエ殿よ。
傍から見ておる限り、全員立派に妻になる覚悟はできているように思うぞ。」
「って事は、後はおまえさん次第だな。男としては羨ましい状態だぞ? ハッハッハ!」
苦労人のオッサンが豪快に笑った。
その時、部屋の後方にソルが窓や床を壊しながらエキサイティング入室してきた。
ロウリィもゆっくりと後に続いて入ってきたので、きっとロウリィがソルをぶん投げたんだろう。
ソルが笑いながら瓦礫を吹き飛ばして立ち上がる。
ソルが飛ばした瓦礫が飛んでくるので弾いてカナちゃんを守る。
オカンはジジが庇っていて、さらにアンネがカバーしている。
サーイと苦労人のオッサンはそれぞれイモートとニンニンがカバー。
マツタケコは、わたわた避けている。
ソルがロウリィに向かって飛び出そうとするタイミングでアンネが声を発した。
「お二人とも、そろそろ話しも良い頃合いですよ。こっち来たらどうです?
ご主人様は、壊れた部屋を直してください。」
アンネの指示に従って、とりあえず建物創作スキルで壊れた箇所を元に戻す。
「獣の躾が中途半端じゃが……なにやら、それどころじゃなさそうじゃのう・」
「へぇ。なんだよ? ヤベエがオレの物になるって宣言か?じゃあ、こんなババァの相手してる場合じゃネぇな。」
とりあえず、ボロボロになっているロウリィとソルに回復魔法をかける。
口が悪いソルには清浄魔法をついでにかけると青色の髪に戻った。
「ふふふ。ヤベエはやっぱりボクが大切で、好きみたいなんだけれども。」
マツタケコが『だから聞いてよ! なんで私が頭数に入ってるの!?』という顔をしている中、全員の注目が俺に集まった。
童貞の俺は、とうとう決断することになった。




