56話 国取りの結果報告するよ
「おめでとうございます。」
「…………」
「ご主人様?」
「どうしてこうなった?」
風呂場でアンネが不穏な国取りを口にしてから半年が過ぎた。
俺は今は男に戻っている。
そしてヤーマノサッチの城の超上座に鎮座し、前にはロウリィとアンネ、イモート、ニンニン。
そして、ソル、サーイ、マツタケコ、苦労人のオッサン、おかんにジジ、カナまで揃って頭を下げている。
「あ~。あのう……なんて言うか、みんないつも通りでいいんで。」
アンネが国取りを宣言し『じゃあやってみるか』となったのはただの悪ノリであって本気じゃなかった。戦争さえ止めれればそれで良かった。
だが、何というか参謀が優秀過ぎた結果。こうなった。
こうなった、の『こう』の部分を詳しく説明しよう。
まず肝心の国については、アリエヘンとアリエナイ、ヤーマノサッチ、サカナウマーイの4つの国が消滅。
すべての国をひっくるめた新しい国『ビショク』が誕生した。
消滅といっても、元々の国はそのまま『アリエヘン県』という形で県に分け、元の国の名前でもそのまま通じる。ある意味、名義上で一つになったと言えなくもない。
あの後、ロウリィを残してアリエナイの国に戻り、苦労人のオッサンと会った。
すると『性病(潜伏)』になっていたので治療し、その元凶だろうスキモノデスにも今後同じ事があったらオッサンが可哀想なので回復魔法のついでに清浄魔法をかけた。
そしたらなんかビッチじゃなくなった。
で、何か知らないけど苦労人のオッサンとスキモノデスがイチャイチャし始めたから、イラっとしながら宰相の女の事を聞くと、この女が俺を逆に探しているというので超速での面会になった。
そうしたら、何と言うかこの宰相の女。
名前は『サーイ・ショウ』というのだが、まぁ要約すると『食うに困らせないから私の下で働き続けろ』とか我儘ぬかすんですよ。
そしたらウチのアンネさんがキレまして。
しずかーにキレましてね。
「ご主人様。この馬鹿にバナナ食わせろ。」
とか言うんです。
「はい。わかりました」
って、二つ返事で食わせたんです。はい。
そりゃ宰相ですから? 護衛が止めようとはするんですけど、なんていうかただの護衛に俺が止められるわけないッスよね? なんせアンネさんの方が怖いんで。
で……ここからがひどいんです。
アンネさん。無理矢理サーイ・ショウを起こしてね、またね
「バナナ食わせろ。」
って言うんですよ。
まぁ、言われたからには仕方ないんで、食べさせるじゃないですか。
つまり、お察しの通り『食べさせる→起こす』のエンドレスですよ。
で、サーイは何というかエロ魔人になったというか、バナナ大好き宰相になったというか……ようやくお話しがしやすい状態になったんで、専用のトイレ付の家作ってあげるしバナナも時々食べさせてあげるよとかアンネが言ったら、まぁ~従順にこっちの言う事を聞くようになったんです。
なのでサーイの宰相力を利用してアリエナイの国をまずは手中に収めようって事になりましてん。
で、アリエナイの国って言うのはほぼサーイが仕切ってたので楽勝で国取りできそうだったんだけど、なんか王様っていうのがレベル54の『勇者(大)』だったんですよ。
で、宰相使って国を取ろうとしたら、流石に感づいたみたいなんです。自分が甘い汁吸えなくなりそうな事に。そしたらキレて勇者仲間数人連れて襲ってきたんですよ。
王様勇者の仲間、全員勇者(笑)
どうやら、この国王ね。
力ずくで国を奪った立場だったみたいで、実質の国を回しているのは宰相だったらしいんですわ。
で、ただの邪魔者のくせに暴力に誰も逆らえないから贅沢三昧を謳歌してたと。
で、その時同様に力で解決しようとしたんでしょうね。レベル54の勇者(大)の国王さん。
仲間の勇者も連れてるから、強気ですよ。強気。
なんかアンネとかニンニン、イモートを差し出せば命は助けてやるとか笑いながら言うんですよ。
もうアホかと。
俺も結構怒りかけたんだけど、勇者(大)言うてもアレじゃないですか。
補正大きいじゃないですか? アンネさんさんより補正大きいじゃないですか?
でもね、残念ながらうちのアンネさん達ってその能力を無効化できてしまうんですわ。
そりゃ気が付いたらみんなが蹴散らして勇者達全滅で終わってました。
俺、まったく出る隙無かったです。はい。みんなつおい。
国王のその後?
まぁ……なんて言ったらいいのかしら?
とりあえず『アンネ怖い』とだけ言っておこう。
んで、あれよあれよという間に無事アリエナイの国の新国王になれたんで、火種も消えたし戦争の心配もなくなったかな~? と思って、苦労人のオッサンとかと色々すり合わせしながら、今のたっかい税金をいくつか廃止する為に動き出す事にしたんです。
ちなみに苦労人のオッサンはサーイが私腹肥やしてると思ってたみたいだけど、実際は元勇者の国王達の豪遊の方が大きな原因だった。まぁ多少の私腹はあったけどさ。
一番大きな金食い虫の王様も消えたんで、ゆるーく減税できるかなとみんなで思ってたんですけど、なんかアンネがこそこそ動いているなぁと思ったら、このタイミングでアンネさんの野望『ヤーマノサッチのダイヤ』大活躍ですよ。
超敏感娘ことマツタケコ達がダイヤ採掘とカットまでを行い、それをアリエナイが購入。
センスの良さと暮らしの良さが売りのアリエナイで宝飾品に加工して販売。
これがまぁ~観光都市のいい土産になって『アリエナイダイヤ』として大人気に。
国外からのお金もいっぱい入ってくるようになったから、ダイヤに限定して色々税制を付けて他の税制を減らすことができた。
あと、有料トイレが凄い国としても知られるようになった。
そうこうしてるうちに『暮らしやすい国ベスト3』に数えられるような国になって人も集まり出したのね。
そしたらこのあたりで、とうとうアリエヘンの国が怒り出しましてん。
好きしていいって言うから好きにしたのにね。
豊かにしてどうする! って怒りだしたのよ。
でも面と向かって争うにも俺の素性を知ってるから戦う事は無理だろうって事で、俺のオカンを盾にとりながら微妙な嫌がらせをしてくるようになったんです。
あぁ、これはなんとかしなきゃなぁ。と思い始めたら、なんと意外や意外。
ニンニンが大活躍ですよ。
アレね。
ダメ忍者って思ってたけど、カンストしてると超優秀だけどちょっと駄目な人的な感じになるのね。
スキルの情報収集系をフル活用して、あっという間にアリエヘンの現状把握ですよ。
精査するとアリエヘンの王様が、まぁ~妬みがひどいのね。
しかもその理由がヒドイ。
『名前が似てるアリエナイが発展するのにアリエヘンが発展しないのはおかしい。
アリエヘンの国生まれのヤベエが新国王に就いたのなら、アリエヘンの下にアリエナイがある!
下の国なら、下の国らしく諸々献上しろ』
って、ことで国王が主導して『母親を人質に取れ』と強硬姿勢を取っている事がわかった。
俺と話した事のあるジジイはニンニンの依頼主でもあって『俺を敵にまわしちゃいけない』派の人間で、オカンを守るのに動いてくれてて協力的だった。
なので、ニンニンマジックでこっそりとオカンと一緒にアリエナイに亡命してもらった。
ちなみにオカンの青春相手達は、みんな王様の手の内の者だったからおかんには強制さようならしてもらった。
そしたら、まぁ~オカンが泣くわ泣くわ。超絶落ち込みですよ。
流石に可哀想になる。
でもね……ジジイが俺の魔力を込めたバナナをうっかり食ったら、なんというか…………若返りましてん。色々と。
オカンそれ見てまた恋の花咲くなんとやら。
ジジイは、今の俺の国で『ジジ』と名乗ってオカンとラブラブしながら、色々アドバイスくれてるワケです。
ちなみにニンニンの兄弟もこっそり一緒に亡命してきた。
搾取親は知らん。ニンニンもなんか見切ってたし知らんよ。
で、その後のアリエヘンの国についてはニンニンに頑張ってもらった。
そしたらまぁ~ニンニンの流す情報操作に踊らされて、物価が高騰するわするわ。
食料がも備蓄に回ったりして国民に届き難くなって、当然のことながら国民の国王への反発感が増すわな。で、一触即発の様相になってきた頃に、アリエナイの新国王の俺、アンネの策略とニンニンの力でアリエヘンの救世主として颯爽登場ですわ。
アリエヘン国民の力を借りて無血開城の後、国王排除っスわ。
そして二か国統合、アリエヘン国消滅。アリエヘン県誕生。
で、当初の予定通り、戦争阻止もできたし、ヤーマノサッチを統合して3ヶ国をまとめて『ビショク』の国が爆誕。
政治についてもアリエヘンが貧乏だったけど、アリエナイが富んでいたから問題なかった。
ただ、やっぱり差がある物を一緒にすると不満や軋轢が生まれるから、アリエヘンには、高所得者しか入れないカジノ、そこそこ余裕のある者向けのカジノ、この2種類を建設、それと労働者層と低所得者向けの一攫千金宝くじ制度を定着させた。
すると、金持ちと娯楽の集まる所は自然と整備されていって良い循環が生まれた。
なにより富むようになったから、アリエナイとアリエヘンの差はあっという間に解消されて、
『夢みる街アリエヘン』
『一生に一度はアリエヘン』
とか言われるくらい、ギャンブルメインの観光名所になった。
で、この頃から、なんでか分かんないけど俺の日本刀を盗もうとするヤツが多くなってきたんですよ。
そいつらを捕まえて吐かせたら
「お告げが」
「神が枕に」
とかワケのわからない事を言うんです。で、やっぱり色んな人が俺の日本刀を狙うんですよ。
日本刀を鑑定すると『ソウルイーター』って怖い名前がついてたけど、さすがに女の姿の時に抱きかかえて寝たりしていた事もあり愛着もあったし壊すのももったいないから、この現状に悩んでたんです。
で、ここでピーンと閃きましてん。
昔1エン゛ッ硬貨にかけた『擬人化魔法』
これをソウルイーターに試してみようかと。
で、魔法をかけたら、1エン゛ッ硬貨の時と違って、ちゃんと『人』になったんですよ。
擬人化じゃなくて人化。ヤベエ。
それもめっちゃ怖い赤髪の男に。
で、あんまりにも怖かったから、女体化魔法かけたら、まぁ~妙齢の肉感的なかわいい子になりまして。はい。
まぁ……やっぱりバナナ食わせますよね。
そしたらまぁ懐いてくれたのは良かったんですが、かなり情熱的にバナナ欲しがるようになりましてね。はい。
なぜかこの子に殴られると超絶痛いので、そういえば刀の時清浄魔法で青色になったなぁって思い出して、試しに清浄魔法かけたら、青い髪の清純派になってようやく落ち着きました。
が、やっぱり巧みにバナナ欲しがるので、いっつも俺の傍を離れないカワイイ子です。
で、元『ソウルイーター』なので『ソル』と名付けて、まったりする日々です。
ただこの子、俺の血が体に触れたりすると赤髪に戻って、やんちゃしたりする。
最近はバナナを食べた時の快感が別の方法でも得られるっていう事をマツタケコを見たことで覚えてしまったようで、目と行動が怖い。
そしてアンネとロウリィが、なんか仲良くなってきてるけど、その分2人してソルと仲が悪い。
ちなみにソルはレベル99の二人相手でもそこそこ戦える。
怖い怖い。
こんな波乱はあるけれど、国政に置いては、アンネ、サーイ、ジジと賢いヤツラが主導するから、ビショクの国は益々発展を続けて、とうとうとなりのサカナウマーイの国の王様が
「ねーねー、うちも仲間に入れてよ。娘あげるから。」
って言ってカナってお姫様を差し出してきたんですよ。
でもカナちゃんまだ年端もいかない感じだったし、
「いやいや入りたいならもういっそのこと国に入っちゃえば? 全然オッケーだよ? 支配しないし色々助けるよ? あと別にカナチャン要らないよ。」
って話をしたら、サカナウマーイの王様はなかなかさっぱりした人で、じゃあ編入するか。メリット多いしって話に落ち着いた。
でもここで『カナちゃん問題』発生。
「まぁまぁそう言わず」
「いやいや結構ですから」
「まぁまぁそう言わず」
「いやいや結構ですから」
の繰り返し。
で、結局カナちゃんの好きにしたらいいって事で落ち着いたはずなのに、使命に燃えるカナちゃんは、今日も甲斐甲斐しく俺の世話を焼こうとしてます。
お姫様だけど、色んな意味で異常者の多い俺の周りにおいて、まったく普通の子……といってもお姫様ってだけで異常か。
レベルや戦闘能力的に普通の子が傍にいるのが珍しく、レベルが異常なヤツラの中にいて大丈夫なのか、つい心配になる事も多くて気を使ってしまっては、その度にアンネ達に「ロリコンがっ!」ってキレられてます。
ロリータに手は出さないよ。失礼な。
YESロリータ Noタッチ 大事。
で、昨日の夜にサカナウマーイの国が正式にビショクに編入する調停が結ばれ、今日起きてからアンネに案内されての冒頭に至る。
というわけだ。
「さて、ご主人様。
国はまとまり、今も発展を続けています。」
「うん。いいことだよね。」
「ご主人様はその国の国王のわけです。」
「はい。」
「政治は私たちがやります。」
「宜しくお願いします。」
アンネとサーイ、苦労人のオッサン、ジジが軽く一礼したので俺も一礼を返す。
「となると、国王のやるべき仕事とは何でしょうか。」
「……なんでしょうか?」
俺が首をひねると、アンネが溜息をつきながら口を開いた。
「子作りです。」
「………………はい?」




