54話 神バナナのせいで幻覚をみたよ
「お久しぶりです。」
色々思い出した俺は頭を下げる。
「うんうん。久しぶりー。
てゆーか、まさか自力で会いに来るとは思ってなかったよ。」
「いや、まさか私もここに来るとは思ってなかったので驚いてます。」
極力失礼な振る舞いをしないように言葉を選びながら会話をする。
彼は……といっても性別があるのかすらも怪しいが、前にあった時よりも柔和な雰囲気に感じられる。
というのも、多分俺が今、女の姿になっているから、きっとそれを好ましいと思っているのだろう。彼の性別は、きっと男だ。
彼は以前、自分の事を『管理人』と言っていた。
そして俺は彼の事は神様のような存在だと思っている。
この若者ヤベエの中身が日本人のオッサンであるという事は何度も言っているが『ではなぜそうなったか』という事については彼抜きでは語れない。
というよりも俺自身この空間に辿りついてようやく自分の過去にあったやり取りを思い出したのだ。
諸々省略して話をすると、この「ヤベエ」という当時少年であった子は、魔王を倒すべき器としてこの世界に創造されたのだ――
そもそも魔王という存在は、このヤベエの世界の文化を早急に育む必要があったらしく文化が育つためには戦争が必要になる。だから人類共通の敵の役割が必要と考えて、生み出されたのが魔王だ。
魔王もまた彼から不眠不休で働くように命じられ、魔王はがんばっていたというわけだが、この場にいる『彼』が何かをうっかりしたせいで、魔王を休ませる事ができるヤベエが命の危機に陥ってしまい、魔王との約束が果たされない可能性が強くなってしまった。
その時、魂の灯が消える寸前で絶望していた日本にいた俺を、これ幸いにと代替の魂として彼の肉体に入れ込んだという事らしい。
ちなみに、彼にとって私は羽虫のような存在でしかない。
なぜならいわゆる転生にあたっての説明の際に彼が言った例えはこうだ。
『モルモットが死にそうで、あ~マズイなぁ。実験できなくなるなぁ。って思った時に丁度ネズミ捕りにネズミがかかってたら……そりゃ利用するでしょ?』
彼にとって、私やヤベエという少年の命は、モルモットやネズミと一緒。
ある意味で真に全ての命の価値が等しいという主義かもしれないが、あまりに軽い。
このアクシデントは、魔王やヤベエの父マジデにも神託として連絡が行ったのだろう。
マジデには『お前が魔王を倒すのです……まぁ、できるもんならな』的な、そして魔王には『ごめん。これこれこんな感じだから、もうちょっと頑張って。んで、どうにもならなかったら自分で宜しく♪』という感じに違いない。
「うん。だいたいあってる。」
彼が俺が思い出したことや考えている事を、まるで見ているかのように『彼』は話しだす。
「一応想像の通り、マジデに神託出したわけだ。
一応ヤベエの親だし強い方の勇者だったからな。でも実際に魔王とぶつけたら、やっぱり役に立たなかったから、結局魔王に直接お前を殺せる器はコイツだから、コイツはここにいるよって情報渡して無事お前に始末されました。ってね……ただ、予定外があったけどな。」
「予定外? と、言いますと?」
「予備の予備で置いておいた『ソウルイーター』を使って殺すと思ってなかった。」
「ソウルイーター?」
「あの日本刀だよ。あの刀の特殊能力は魂食い……能力食いと言っていい。
お前の現状のおかしな能力の数々は魔王の能力を食っちまって自分のモノにしたからだよ。」
「あ~。そうだったんですね。」
「いや~予定外も予定外。まいったよ。お前はその手に入れた能力で、文化ぶっ壊すレベルの物を作っちまうから、ほら見ろよ。」
靄に一人の女が誰かに指示を出している映像が浮かびあがった。
「この方はどちら様で?」
「アリエナイの宰相だよ。今アリエヘンへの戦争準備に入ってる真っ最中だわ。折角人間同士が戦争しないように育てたのにさ。」
「えっ!? なんでまた!?」
「トイレだよ。お前の作ったト・イ・レ。
アレに価値を見出して、お前のいう事聞かせるには家族押さえたらいいんじゃね? って考えに至って、お前の母親の奪取するつもりなのさ。」
「…………」
「まぁ小さい火種だけどさ、これが結局戦争につながるから、やってらんないよね。戦争はもうちょっと後から始める予定なのにさ。
はぁ…………お前が可愛くなってなかったら、流石にお前をピチュンしてたよ。はっはは。」
「……すみません。」
「いや、いいよ。おっぱいもませてくれたら。」
「どうぞ。」
「どうも」
胸が勝手に動いている感じがする。
「うん。なかなか。」
「どうも。」
「で、だ。もうお前はもう向こうの世界だと魔王並みで、多分最強なわけよ。弱点も無いし。」
「はぁ……」
「だから弱点つけるわ。
て、言ってもあんまり干渉しすぎてもなんだからな……てゆーか、魔王から継承してるから面倒なんだよな……どうすっかな。
ん~~……『あの迷宮を踏破したヤツはお前を殺せる』って事にしよう。うん。
あとどんな雑魚でもソウルイーター使えばお前を殺せる。うん。これくらいなら余裕だな。
よし。じゃあ、そういう事で。」
「え? ちょ!?」
「あ、あとお前、あの宰相止めなかったらピチュンな。」
「は!? え? ……あのピチュンってなんなんですか?」
「聞きたい?」
「いえ……なんとなく想像つくのでやめておきます。」
「ん。一応マイナスばかりだとよくないから、お前にもちゃんと称号をやるから。安心しろ。
あと、今回は少しだけここに来たやつらに記憶を残してやることにするわ。
おっぱい揉ませてくれたからな。うん。」
「はぁ。」
「じゃ、そういう事で~。しっかりやれよー。」
また意識が飛んでいくのを感じる。
--*--*--
「んっはあああっぁぁあっっっっんんんああああっ!!!!」
快感の濁流に飲み込まれながらその衝撃で目が覚め、自分の状態を確認する。
体中からは汗が噴き出していた。
上半身にはそれ以外の異常は見当たらず、ほうっと息を吐くと、どうやら食べた順で起きていたらしく、俺が一番最後だったようだ。
全員と顔を見合わせて部屋の様子を確認する。
朝日がさしていて、どうやらバナナを食べたことで、夜を明かす程の時間失神していたようだ。
朝日に照らされた部屋と、自分の下半身が目に入る。
うわぁ……
全員に2度清浄魔法をかけ、部屋にも3度清浄魔法をかけて、風呂に向かう事にした。
記憶を探ると、ぼんやりと誰かにあって何かを話した。
そして戦争を止めろと言われた事だけ覚えていたので風呂に向かいながら、みんなと情報の擦り合わせをしようと話を振ってみる。
「あのさ……俺バナナを食べてから、誰かに会ってなんかどっかで戦争を止めろっていわれたんだけど、みんなはどう?」
俺の言葉にアンネ達は少し悩むような素振りを見せたが、アンネが頬に手を当てたまま話してくれた。
「ご主人様が調子に乗ったら殺せって言われたような気がします。」
思わず防御姿勢を取る。
ロウリィやイモート、ニンニンを見ると、同じような感じだった。
「いえ、何を驚いているのですか?
『殺せ』と言われて、どうやってこのご主人様を殺せと言うのでしょうね。どれだけ全力で蹴っても効かないというのに。」
とアンネが、軽く俺のスネを蹴った。
「いったーーーーーいぃっ!!!」
「「「「 え? 」」」」
スネを抑えて転げまわる俺。
そして、信じられないような物を見るような視線を送る4人がいた。




