53話 神バナナを食べるよ
「キレイにされたのに……なんか汚された感じがするよ。主に精神的に」
恨みがましい顔の俺をよそに、イモートとニンニンはなぜかツヤっツヤした顔をしている気がする。
ロウリィとアンネはほっこりとした顔だ。
風呂を上がった後は、侍女が揃えてくれたのだろうか、これまでの装備とは別に浴衣が置いてあったので、それを全員で着て城内に入った。
すると、ロウリィが指示を出してくれていたのか、レアドロップ素材の肉を使った豪華な食事が用意されていた。
「迷宮の戦利品は、皆に振る舞うのが慣例での。スマンが拝借したぞ……勿論あのバナナ以外じゃが。」
「あぁ。バナナと練乳以外なら問題はないよ。
肉や野菜は足りなくなればまた取って来ればいいんだし。」
「流石は旦那? 様? じゃ。器がでかいのう……その器のでかさを早く我に実体験として実感させてほしいものじゃがな。」
またもロウリィの夜の催促だ。
年齢の事など腹に収めて早く男に戻って我を抱け。という事なのだろう。
正直な所、迷宮内でロウリィを可愛いと思ってから年齢はすでに気にしていない。
むしろ襲ってしまいそうな気がするから女になったのだから。
反応を返さずに無言になった俺を見つめてはニヤニヤとするロウリィ。だがすぐに表情を変えた。
「さてさて、何はともあれ食事じゃ!
今日は戦利品で豪華な食事になっておるからな! 酒も充分に出すから楽しもうぞ!」
ロウリィの声を皮切りに宴会が始まった。
出された肉じゃがっぽい食べ物で嬉し涙を流してみたり、いちいち琴線にふれる食事が素晴らしい。
一通り味わった後は、貰った朴葉味噌を酒のあてにしてみたりしながら楽しんだ。
基本的に俺の仲間は笑い上戸が多いらしく、まるで祭りのような賑やかしさのなか、あっという間に夜が更けていくのだった――
「で、ご主人様はあのバナナどうするんです?」
「いやぁ~、なんか昇天するほど美味いってゆー話しだけど、リアルに昇天するのが怖いからさぁ、戸惑ってるの。なんせ『神バナナ』だぜ『神バナナ』」
「か み の ば な な」
復唱してすぐに、ぷすすーとイモートが噴き出す。何かがツボに入ったらしい。
こういう状態で一人が笑い出すと、集団の場合、何故か伝染することがある。
イモートがニンニンに顔を向け
「か み ば な な」
と真面目な顔で言葉を噛みしめるように言う。
すると、ニンニンが噴き出し始め、それにつられてイモートがまた笑い始めた。
そして、二人はケタケタ笑いながらそのままアンネの所に向かい、真面目な表情を作る。
「か み ば な な」
2人が真面目な顔でアンネの両隣からステレオサウンドで呟くと、成り行きを見ていたアンネが壊れた。
アンネは酒を飲むと人一倍笑い上戸になるのだ。
その爆笑っぷりに調子に乗ったイモートとニンニンがロウリィに同じようにステレオサウンドをした。
だが、ロウリィには効かなかった。
逆にキリッとして
「か み ば な な」
と復唱しかえしたロウリィにしてやられ、二人がバフーと噴き出していた。
その様子を見たロウリィもケタケタと笑い、最後は俺が標的になって全員に囲まれた。
何故か笑ったら負け。と思い始めてしまい、すまし顔で迎え撃つ。
まさか一人ずつ時計回りで
「か」
「み」
「ば」
「な」
と言ってくるとは思ってなかった。なにこの連携技。
皆の期待の込められた視線に負けて
「な」
と言った瞬間に、みんなが笑いだした。
その笑い声に負けてしまう。
「か み ば な な」
と、皆が連呼し、変にテンションが上がったのと酔っているせいで、ニンニンが挙手しながら口を開いた。
「拙者食べてみまーす!」
「いいぞー! いけいけー」
皆で見守った。
ニンニンが神バナナを一口食べる。
その瞬間。
「ーーーーーーーーーーーーっ!!?」
白目をむいて倒れた。
さすがに全員ハっとして冷静になり、俺が駆け寄ってニンニンの胸に耳を当てると心臓は動いていた。
「…………セーフ」
手を横に広げるジェスチャーを交えながら生存報告をする。
皆胸をなでおろす。酔いも覚めてしまい、みなでニンニンの観察を始める。
アンネはニンニンを観察し、積極的に色々突いたりして反応をみて、おおよそ魔バナナのパワーアップ版のような感じで安全なのであろうと結論付けたようだ。
そして魔バナナの快感を思い出したのか、
「ちょっと私も食べてみようと思います。」
と強い意志の籠った声で言った。
少しの問答はあったが、アンネの意思を尊重し見守った結果。
「ーーーーーーーーーーーーっ!!」
アンネも白目をむいて倒れた。
その後、同じ流れでロウリィとイモートも食べて白目をむき。
俺と一口分だけ残されたバナナが残った。
流石に4連続で卒倒する姿を見ていると及び腰にもなる。
一人悩んでいると、すらりんがぷるんぷるんと寄ってきたので「あ、食われる。」と思った。
瞬間、反射的に一口分だけ残った神バナナを口に放り込んでしまっていた。
口の中で宇宙が広がり、その怒涛の勢いが様々な快感を伴って脳に達した瞬間。
俺の意識は飛んだ。
すらりんはぷるんぷるんと残されたバナナの皮にたどり着き、それを飲み込むとプルプルプルルルと激しい痙攣を起こした後、へにゃっと崩れたのだった。
--*--*--
気が付いた時、俺は光り輝く靄の中を歩いていた。
天も地もなく、前も後ろも、時の流れも無い。
自分という個体すら何もないように感じられる、そんな不思議な感覚の中で、誰かに声をかけられた。
「よう。久しぶり。元気してた?
てゆーか、ちょっと見ないうちにカワイクなっててヤバくなーい? まぁ、見てないって言ったけれども実は見てましたけどー。」
「…………あ。」
俺はこの声の主を知っていた。




