51話 迷宮の底を目指すよ
覚悟を決めて、50階へと進む。
階段からして既にこれまでと雰囲気が異なっていた。
とっくに次の階層に到着していておかしくないくらい階段を下っているはずなのに、未だ終着点が見えず、ただひたすら階段が続いているのだ。
罠を警戒しながらも、さらに階段を10分ほど下り続け、ようやく終着点が見えた。
50階の入り口らしき場所からは明かりが漏れており、入って見れば目が眩むほどに眩しい。
部屋に入って目を慣らすと、そこに見えてきた物は直径200m程ドーム状の空間と、その中央の祭壇だけだった。
「これは……どうしたもんかねぇ?」
「旦那? 様? よ。罠の気配はないのかえ?」
「まったくわからん。
という事は俺が行くしかないな。」
みんなを待機させ俺だけで中央の祭壇へと向かう。
石の棺のような台座があるだけだが、そこに『供物を捧げよ』と、文字が彫り込んであった。
台座を見回しても罠は見当たらないようなので全員を手招きして呼び寄せる。
「どう思う? 流石にここまで来てこのお墓っぽいの参って終わりってわけじゃないと思うんだけど。」
「ん~~? 我は降参じゃ。なんもわからん。供物とだけ言われてものう……なんでも供えておけば良いのかのう?」
「まったく意図がわかりませんね。
これまでに採取してきた物も何かしら意味があるのかもしれませんし、とりあえずそれを置いてみるのはいかがでしょう?」
「これまで採取した物って何があるんだっけ?」
イモートがリュックの中を確認する。
「粟、黍、豆、麦、米……木苺、無花果、柘榴、光桃……最後に林檎。後はレアドロップの何かの肉とかでガス。」
五穀と、果物と肉。
お供え物としては良さそうな気がする。
「うん。わからないからとりあえずレアドロップ以外の40階から採れたヤツを全部置いてみようか。」
みんなで手分けし10種類を並べるが、特段の反応が無い。
その時、頬に優しく風が触れるのを感じた。
「…………迷宮内で……風?」
疑問に思った瞬間、粟と黍がその風に吹かれ動き出したかと思えば、米や麦も動き始めた。
台座の上で何かが起こり始めている予感がし全員を俺の後ろに下がらせて様子を見守る。
祭壇の上では暴風が吹いているのか、供物として捧げた穀物と果物が空中に浮き上がりぶつかりあうように絡まり始めた。
やがてそれらの供物が原型が分からないような粉々に崩れ始め、そして一つとなり、何かのを形を作り始めた。
俺にはそれが、一瞬だけ女神のような姿が見えた気がした。
だがすぐに小さく収縮し始め、ソレはゆっくりと祭壇の上に鎮座した。。
それはよく知った物だった。
祭壇に近づき、安全を確認しみんなを呼び、鎮座しているソレを目で指しながら尋ねる。
「バナナだよね?」
「バナナじゃな。」
「バナナですね。」
「バナナでガス。」
「バナナでゴザル。」
バナナが1本だけそこにあった。
鑑定をかけてみる。
--------
種:神バナナ
神の生みだししバナナ。
昇天する程に美味。
--------
「調べてみたんだけど……なんか昇天する程美味いらしい。だけど……なんかリアルに昇天しそうでヤバイ気がする。」
俺の言葉にニンニンの目が光った気がした。
「ちょ、ニンニンさん!? もしかしなくても食べてみたいとか思ってないよね?」
「え? ……食べてはダメなのでゴザルか?」
これぞ『しゅーん』と言わんばかり雰囲気で落胆をあらわにするニンニン。
「いや……ニンニンが食べたいならいいけどさ……色んな意味で昇天するかもしれないよ?」
「それならもうヤベエ様のバナナで慣れているでゴザル!」
無駄にサムズアップをしながらニンニンが元気に答えた。
ニンニンはバナナが絡むと様付けで呼ぶ。これは多分バナナを食べさせた時にした会話の影響だと思う。
「それにバナナを見ていると……色々と思い出してしまうでゴザルから我慢が……」
顔を赤らめながら、ニンニンが呟いたく。
俺も魔バナナを食べた時の、あの快感の波を思い出す。
確かにあれは何度でも経験はしたい。
だが、なnというか掃除がたいへ――って俺は今、女になってるんだった!
これはこれで掃除が大変そうな気もするけど、カピカピな蛋白汚れで困る事は無いだろう。きっと。
もしかすると、これなら食べてみても良いかもしれない。
「……って! それはあくまでも魔バナナの時でしょ!? これ『神バナナ』らしいよ?」
あやうく魔バナナのノリでニンニンに食べさせて食べてしまう所だった。
「ご主人様。とりあえず進言ですが、このバナナに関しては一旦忘れて、そのバナナが出来上がると同時に出来たっぽい、奥の転移装置を調べるのはいかがですか?」
アンネの言葉で祭壇の奥を見ると、さっきまでなかった転移装置があった。
ゲームで言えば目的達成で脱出ルート出現のような感じだろうか?
「うーん? アレに乗ってみるべきだと思う?」
「とりあえずは、もうここより先が無いようじゃしの。まぁなるようになるじゃろて。行こうぞ。旦那? 様?」
「ってゆーか。みんなレベル上げは?」
「我なら既に昨日の時点でマックスになっておるぞ?」
「実は私も42階ですでに。」
「なんか途中から一気に入ってくる経験値が増えたので私もでガス。」
「マジで!?」
みんなの視線が眷属ではないニンニンに注がれる。
「……実は拙者も45階くらいで既に、99になっていたでゴザル。」
眷属でなくとも、あれだけのモンスターハウスの経験値が一人に注がれていたのであれば、納得は納得だ。当初の目的がとうに達成されていたのであれば、もうこの迷宮に用はない。
「じゃあ、とりあえずアレ使ってみようか。」
出現した転移装置に乗ると、一瞬で迷宮の外に飛ばされた。
見回してみれば入口の前。
全員の顔を見回してみるが特に異常はなく、無事に帰れた事に安堵の息を付きながら景色を眺める。
既に日は沈み始めていて、夕方だった。
無事に迷宮を攻略できたらしい。
「迷宮全階層踏破じゃーーっ!!」
ロウリィが力いっぱいの声で夕日に向かって叫んだ。
ロウリィ自身の挑戦は39階までで止まっていたようだし嬉しさを隠そうとしていない。
そんなロウリィを見ていると、なんとなく微笑ましくなる。
「あなたは後半は何もしていないでしょうに。」
「何とも無粋なヤツじゃ!」
アンネが微笑みながらもツッコミを入れ、ロウリィがと笑った。
「よし。帰るか。」




