48話 混乱はおさまったよ
おうふ……胸はそうではないけど、ケツがパンパンだぜ。
もちろん履いているパンツがキツイという意味でのパンパンなだけだが意外と苦しい。一刻も早く脱いでしまいたい。
あと、ウエストまわりなんかは逆にブカブカな感じがして、全体的にサイズが合ってない感がしたので【武具防具創作:序】のスキルを使って、サイズを調整すると全体的にピチっとした感じの軍服へと変化した。
下を向いた時に何となく視線の邪魔になる双丘を揉んでみる。
うん……柔らかい。
とても良い。
これは良い。
Cカップくらいはありそうだ。というか、手も小さくなっている気がするので、よく分からない。
それにしても自分で揉んでもあまり気持ちよくは無いんだな。ちょっと痛いわ。
というか、なによりこの本来なら股にあって然るべきものが無いという違和感。
凄い。なんというかただただ不安になる。なんで棒も玉も無いの?
玉を包み込むように握ると落ち着く事があるのに、もうそれも出来ない。
いつもの感じで手を伸ばしても、そこには何もないのだ。
ぴっちり足を閉じた時のぐにゃり感も無い。これは怖い。
「な…………な……な、何しとるんじゃ! 旦那様ーーっ!」
「アホだアホだとは思ってましたが……流石に、こうも斜め上を行かれると逆に天才なのかと思ってしまいますね。」
「おお………ご主人様がカワイイでガス。」
「熊肉おいしいもん。」
俺は両手を腰に当てて『大威張り』のポーズを取り勝ち誇る。
「ふっふっふー! これで争う理由が無くなっただろー!」
って、声たけぇ。
うわぁ。違和感が凄い。
でも不思議と面白いな。
「はぁ……流石にもうやる気でんわ。」
俺の様子を見たロウリィがまるで毒気とヤル気を抜かれたたように脱力した。
前傾姿勢で両手をだらんと下げてゾンビのようだ。
「ご主人様がそれで良いなら良いのですが、もっと別の解決方法もあったでしょうに。
なんなら全員まとめて奉仕しろとか命令してしまえば、それはそれで丸く収まった可能性もあるのでは?」
アンネも呆れ顔をしながらロウリィに続いた。
「それはそうじゃのう。
なし崩しでも皆が一様に大事にされておるのは分かっておったし、実際やってしまえば色んな欲求も満たされたじゃろうし、一番平和裏に収まったじゃろうのう。」
アンネとロウリィがさっきまでの一触即発の気配もどこ吹く風で、別の策を取らなかった俺を二人まとめて凶弾し始めた。
俺は『そんな方法があったのか!』と驚愕しながらも、そんなエベレストよりも高いハードルを童貞に求めるコイツラはおかしいとコッソリ感じていた。
イモートはなぜか俺の横にきて寄り添っていた。
「ご主人様……可愛い……いや、お嬢様と呼ぶべき?」
と呟きながら、ただ無心に俺の頭を撫でている。
微妙に恥ずかしいが、そこそこ気持ちいいので放っておく。
ニンニンは熊肉を本当に全員分食べるつもりで貪っているので、そろそろ止めようと思う。
「ニンニン。それ俺も食べたいから残しといて。」
「実はもう、正直なところお腹いっぱいだったのでゴザルが、言い出した手前、止め時がなくて困っていたのでゴザル…………ってどちら様にゴザル?」
「ヤベエちゃんです♪」
……自分で言ってみて分かった。
ぶりっ子とかを狙ってできるヤツはすげぇ根性と胆力、そして精神力がある。
これだけは間違いない。尊敬した。
なんせ自分自身で『痛い事してる』と分かっていながら、それを分かっていないふりをし続けるんだ。
さらに周りからも痛い視線が向けられている事も分かっていながら、それを無視するんだ。
あまりに肝が据わっている。ぶりっ子ができるヤツは、もう男の中の男だ。
俺は「ガハァっ!」と何かを吐き出すようにして膝から崩れ落ちた。
アンネとロウリィは何となく「痛い女」の真似をしたことが精神的に効いた事を察したようだが、イモートとニンニン。こいつらはダメだ。
「わぁ。可愛い。」
と頭を撫でにきやがった。
こういうバカがぶりっ子を助長させるに違いない。
……でも褒められると気持ちいいのはちょっとわかった。
「はぁ~……これはもうダメじゃ。今日はもう休もう。」
「そうですね。ロウリィさんに賛成です……なんだかスミマセンでした。色々熱くなってしまったようで。」
「あぁ、我もすまなかったな。こちらこそ熱くなってしまったわ。」
アンネとロウリィが少し笑顔を交わした。
「年甲斐もなくな。」
「ふふ、意地が悪いですね。流石にもう言いませんよ。」
「細やかな仕返しじゃよ。その詫びにほれ、お前にも一口やろう。」
ロウリィがアンネに酒を進め、アンネは少し笑った後それを受け取って一口飲んだ。
うん。OK!
結果オーライだ!
俺はイモートとニンニンに撫でられながら、その様子を眺め全員が仲良くなった事に満足していた。
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この後、全員で眠る事になったのだが一つだけ問題が残っている。
それは何か?
俺の『性欲』だ。
『女は性欲が薄いが年を取るほど増す』とか昔読んだエロ本に書いてあったので、ムラムラきてた性欲が若い女になったら治まるかと思っていたが実際の所そうでもない!
というか性欲なんか結局個人によるんじゃねぇか!
エロ本に書いてあったことも、単に年取ったら隠さなくなるだけで元々強いんじゃねぇか!? と内心キレていた。
つまり女になったところで、ムラムラがまったく鎮まらないのだ。
とはいえ、もうみんな寝始めているしどうしようもないので、とりあえず横になって股が寂しかったので、鞘に収まった日本刀を股で挟み込んでみた。
意外としっくりきたので、日本刀を抱きしめるようにして眠った。
こうしてダンジョン攻略初日は地下30階で就寝し過ぎて行った。
翌朝起きてからトイレに戸惑いはしたが存外すぐに慣れた。
自分のモノが無いというのも、寝て起きてすぐは女になったことを忘れていてビックリしたが『あぁ、そういえばそうだった』位で納得できたし、人間の適応力ってスゴイなとしみじみ思うのだった。
とりあえず女の体になったことでダンジョン攻略に何か問題が無いかの確認と、もしボスのレアドロpップで熊肉が出たら朝と昼飯が豪華になるので、一旦29階に戻った後30階に入って復活していた熊3匹を一刀両断してみた。
残念ながら熊肉は取れなかったが身体的な性能は変わりなく、ダンジョンの進行に問題がない事がわかった。
ただ、アンネとロウリィはまだ俺の女の姿に違和感があるようで、時々思い出したように首をひねっている。
そのシンクロがシンパシーを生んだのかアンネとロウリィは何となくお互いに一言二言交わしては話をしている。
傍目から見ていると、なんとなく仲良くなっっているように見える。
ちなみにイモートとニンニンは何故か俺に対して庇護欲が出来たような振る舞いをしているが気にしない。
こんな感じの一行になってしまってはいるが、当初の目的はレベル上げだし、それに対する問題は見受けられないので、練乳をロウリィ以外が飲んでは俺が回復魔法をかけ酩酊をブッ飛ばして31階へと進んだ。
ロウリィのレベルでも単独だと39階が限界と言っていたから、かなり用心する必要があるだろう。
そして國主であり、この国最強のロウリィですら行っていない40階以降には一体何があるのだろうか。
うごめく魔物の気配に俺は、冒険心と好奇心で顔がニヤつくのを感じるのだった。
「さぁ、いこうかっ!」
俺の甲高い声が31階に響いた。




