46話 マツタケを採ったよ
ロウリィが深部に潜った事があるので5階の転送装置を利用して35階までは行けるのだが、アンネの「まずはダンジョンという物に慣れるべき」という意見で、そのまま普通に進む事になった。
5階以降は罠が出てくる為、俺を先頭にした隊列を組む。
俺のしばらく後ろをみんながついてくるという一風変わった配置。
この配置になったのは、
「さて、ここからは罠にも注意が必要そうなので、ご主人様は私達の安全を守る為の道標になってくださいね。」
と言ったアンネの言葉があったからだ。
つまるところ……俺の扱いを分かりやすくするならば
良く言って『罠発見器』
悪く言えば『肉の盾』だ。
まぁ実際のところ、罠といっても物理的な物が多く、たまに火の魔法が発動する程度の物。
それらが発動して俺に当たったとところで防御がマックスの遥か向こう側の為なんのダメージひとつ無い。
さらに言えば俺にはスキルもあるので何となく罠の場所もわかるのだ。
だから罠を避けるのは簡単なのだが、敢えて踏む。
なぜかといえば、誤って誰かが踏むことが無いようにする為だ。
解除したり気をつけたりと全員が罠を通り抜けるまで用心深く注意したりするのは手間がかかって面倒。罠なんていうのは連射できない作りが多いからこそ、見つけ次第率先して罠に一度かかってしまえば、後が楽。
だが自ら罠に飛び込んで無効化するようにしている。
流石に液体系っぽい罠は、糞尿ひっかけられたりとか溶ける系とかだと精神的になんとなく怖いので、魔法を当ててぶち壊すという形を取っているが、それ以外であればとりあえずかかってみるようにしている。
「あ~、なんかまた見えにくい紐がある様な気がするわ。」
俺が見つけた物を呟くと、後ろの方でみんなが軽く伏せたり防御の警戒を固める。
それを見て確認し、その紐を日本刀で少し触れるとスっと切れた。
するとすぐさま矢が飛んで来て俺の肩に当たり、矢が壊れた。
一事が万事、こんな感じだ。
正直つまらん。
敵には、動物や虫を大きくしたような魔物も出てきて、驚いた事に連携を取る様な知性を見せたりするが、俺の前に出てこられても敵にはならないので、申し訳なく日本刀で排除する。
何となくだが、日本刀のオーラも『つまらんものを切らせおって』と言ってる感じがして少し申し訳ない。
採れる食料品も山菜が多く、手間の割にそんなに好んで食べたいとは思わない系の物しかなかったので、結局無視した。
そんな感じで進むとあっという間に9階層まで踏破してしまった。
「旦那様は大概おかしいのう。」
「ええ。そこは同意しますね。」
「でも楽でいいでガス。」
「ただついていくだけで拙者でもレベル上がってるくらいでゴザルからな。」
みんなに褒められてるのか貶されてるのかわからない言葉を貰いながら、そのままの勢いで10階のボスに挑む事にした。
10階のボスは何と言うかデカイ蜂がいっぱいだったので、とりあえず広範囲で風魔法を使ってみたらその瞬間に終わった。
「なんというかご主人様はヒドイですね。」
「そうじゃのう、これはあんまりじゃな。」
「でも楽でいいでガス。」
「拙者でもまたレベル上がってるくらいでゴザルからな。」
結局の所、俺が前に出るとどうやってもダメなようだ。
ただレベルは上がっているので問題ない。
10階のボスを倒したことで、ボス部屋全体がセーフティーゾーンと化した。
セーフティゾーンとなると、ふと空腹感を感じたので、みんなにも聞いてみると、みんなもお腹が減っているようだった。
ロウリィが得意げな顔をつくりながら階層で採れる食材の説明を始めた。
10階層までは山菜が多いが次の階層からは野菜、20階層はキノコ、30階層は果物が多いらしい。
「旦那様の言っておったマツタケも20階層にあるぞ?」
「よし! 20階層にいこう! 今すぐ行こう!」
「……ちなみにこの迷宮は十の位が上がる度に敵も一気に強くなるからの、今の我が単独で行ける最高が39階までじゃ。」
「うん! 大丈夫! どうせ俺先頭に立つし!」
珍しい俺の即断即決にアンネ達は感嘆の息をついている……と思ったら溜息だった。
「ご主人様はアホですね。」
「流石の食い意地でガス。」
「拙者はまた何もしなくてもレベル上がるでゴザルな。」
俺の要望はアンネの諦め半分の溜息で了承され、その階の転送装置で30階へと飛んだ。
これはマツタケは29階でよく目撃されるからで、25階から4階下るより、30階から1階上がった方が早いからだ。
ついでなので、30階のボスの大きなクマ3頭を日本刀で切ってから29階へ向かい、マツタケ狩りを始めた。
俺のマッピングで示されるお宝の位置へと向かう途中ロウリィの声が聞こえる。
「旦那様! おったぞ! マツタケじゃ!」
「ん?」
おった?
居る?
……あったじゃないの?
と言うか近くにお宝の印はでてないよ? そう思いつつもロウリィの指す先を見ると、そこには何か変な生き物が居た。
目を凝らしてみると、蛇のようなマツタケのような生き物だ。俺はこの生き物を知っている。
「…………ツチノコじゃねぇか。」
俺は両手で顔を覆って静かに泣いた。
「ええい! 旦那様何しとるか。」
ロウリィが飛び出し、ツチノコを仕留め戻ってきた。
そして手にはマツタケを持っている。
「え?」
「あれを仕留めるとマツタケになるのじゃよ!」
うん。流石に納得が行かない。
いかない……が、そういう物なら仕方ない!
俺は罠を解除しつつマツタケを探す事にした。
このマツタケ、敵として表示はされず探すのがほぼ手探りという難敵だった。
結局気が付けば空腹を押してマツタケ探しをしたおかげで、洞窟内が薄暗くなって夜が訪れた事を感じる頃には、9本ほどの立派なマツタケを手に入れる事ができた。
流石に練乳の効果も切れ、みな空腹も限界に来ていたので30階に戻ると、ボス部屋が閉じていた。
再度、開けて入ってみると大きな熊達が復活していたので一刀両断する。
するとその場になぜか『熊肉』が落ちた。
「おおおおお! 流石旦那様じゃ! レアドロップの熊肉とは!今日は熊肉とマツタケとは、何とも豪勢じゃのう!」
歓喜している。
どうやらボス系はレアドロップで食材を落とす事があるらしい。
再びセーフティゾーンとなった30階のボス部屋で、イモートが担いでいたリュックサックをおろし、その中から鍋や味噌なんかをだしてきたので、俺の火魔法を利用して焼き石を作り、焼き石を熱源とした焼肉と焼きマツタケ、焼き石を鍋に入れて沸かした熊鍋を夕飯にする事にした。
イモートの仕込みナイフを借りて、肉を細かく切り、マツタケは手で割いてそれぞれ食べやすい大きさにする。
空腹は最高の調味料と言うが、準備の段階でみんなお腹が減りすぎて無言になっていた。
準備が出来るに従って自然と全員が笑顔になってゆく。
「「「「「 いただきまーす! 」」」」」
「うめぇっ! 熊うめぇ! すげぇ!」
「これは……こんなに甘いと思いませんでした。……美味しい。」
「ほぉ~~。頬が落ちそうじゃあ~~。」
「魚以外でこんなにおいしい物があると思わなかったでガス。」
「これはモグ、なんともング、たまらないでゴザルング。」
「ニンニンはちょっと落ち着け。」
お腹が減りすぎるとどうにも最初の箸の進みは早くなる。
少し落ち着いた頃になって焼き石で熊肉を焼きながら、つまみ続ける。
「はぁ~~……酒が欲しくなるよねぇ~。」
なんて呟くと、ロウリィが悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「にっひっひ。旦那様よ。」
「ん?」
「ほれ」
ロウリィは小さな水筒を俺に進めてきたので、受け取り一口飲む。
「これ酒だ!」
「にっひっひ。仲間に飲もうぞ。」
この味は白酒……いや、そんな上品なイメージの物というよりも酸味の強い田舎のどぶろくだ。
だが、アルコール。これはこれでいい!
思わずロウリィと二人で笑い合いながら、熊肉とマツタケをつまむ。
そうしていると、一緒に焼肉を食べていると、ロウリィの笑顔がより一層可愛く感じられてきていた。
一度『あれ? ロウリィって、こんなに可愛かったっけ?』と思ってしまうと、酒の香りもあって、自分の中で、何かが暴れはじめるのを感じるのだった。




