45話 迷宮を進むよ
この世界はゲームのような作りだ。
レベルという概念があり、魔物を倒したり難度の高い依頼達成等で経験値が加算される。
パーティを組んでいれば手に入れた経験値はそのパーティメンバー全員に均等割りで付与され、全員平等の経験値が加算される。
つまりソロプレイで進行した方がレベルの上がりは確実に早い。
だが俺はレベルをカンストしている。カンスト、カウンターストップだ。
最高まで上がってしまっている為、均等割りしようにももう経験値が入る余地がない。
だから均等割りの頭数に入らない。
つまり、今イモートがこのダンジョンに入ってザコを倒した事で、そのザコの経験値が4分割でそれぞれに割り振られたことになるのだ。
一人だけ低レベルのニンニンだけのレベルアップであれば、力量の求められるダンジョンの魔物を倒した事でレベルが上がっても不思議ではない。
だけれど、イモートとアンネが上がるのは、どう考えてもおかしい。
ただ俺は分かっていた。
スキル【超越者之眷属】で俺の従者となっている者には成長促進の力が働くから、それが影響したのだろう。アンネとイモート、そしてロウリィは俺の眷属であるとステータス上みなされているから、その恩恵だ。
気になるのは、ただパーティを組んでいるだけのニンニンには、スキルの影響がどの程度あるのかという事だ。
場合によってはニンニンの意思次第ではあるが、眷属とした方が効率はいい。
ニンニン側からの眷属となったデメリットは『俺の命令に服従』という制約が付いてしまうことで、かなり重要な問題ではあるけれど。
あまりに差があれば、天秤が動く可能性もあるだろう。
ロウリィが眷属なのにレベルが上がらなかったのは、すでに高レベル故に違いない。
そんなことを考えているとロウリィの視線を感じ、顔を向けると視線が合う。
「ほう……旦那様は真面目な顔をしておると、なかなか男前じゃのう。良い面構えじゃ。」
「え!? ほんと!?」
褒められ慣れていない人間は、唐突にこういった事を言われるとつい真に受けてしまう。
ロウリィはニッコリ微笑みながら言葉を続ける。
「うむ。そういう顔をしなければ素敵じゃったぞ。」
「oh……」
「ふむ。そう言った顔は可愛いらしいぞ?」
「まじで!?」
「二人で遊んでないで、ご主人様は何か気が付いたのであれば教えてくださいな。さっさと。」
「かしこまりました。」
ロウリィの言葉に一喜一憂していると、冷めたアンネの声が聞こえたので、しっかり働く。
なんだか主従が逆のような気がしないでもないけど、これはもう今に始まったことじゃないので気にしない。もういいんだ別に。うん。
パーティのブレインであるアンネに俺が考えていた原因を伝えると、5階まで踏破した時点でのレベルの上がり具合の差を見てニンニン自身に改めて意見を聞けばいいとひと段落。ひとまずダンジョンを進める事にした。
このダンジョンはロウリィ曰く浅い階層では弱い魔物が多いらしい。
というのも、このダンジョンでは深く潜れば潜るほど美味しい食材が取れるようになるとのことで、その食材につられて深い階層になるほどにその食料を巡っての争いが苛烈になるのだとか。
つまり美味しい物を食べたいと争う事で、必然的に美味しい物のとれる地下程レベルの高い魔物が多くなるのだと。
地下5階程度までは、それらの争いに参加できない出来そこないの魔物が多く罠などの心配もない。その為ダンジョンというよりは闘う事だけを考えて動けば良いのだそうだ。
5階くらいから武器や罠などを使用する知恵を身に着けた魔物も多くなり、ある程度慎重に進まなければ命に関わるようなケガをすることもあるらしい。
また5の倍数の階には転移装置があり、進行した事がある人間がパーティメンバーに居れば、その階層に転移する事が可能になり、10の倍数の階にはボスが控えている……なんというお手軽機能付きダンジョン。
採取できる食材については、10階ごとに取れる種類が切り替わるらしく、つまり一の位に9の付く階にはその階層における最強クラスが集っているという事になる。
転移装置の部屋とボス階は魔物が近寄れないらしく休むにはもってこいな環境が整っているとの事。
コレはもう至れり尽くせりのダンジョンと言わざるをえない。
ヤーマノサッチの民の強さの秘密と縄張り意識の強さの秘密はこのダンジョンの存在も一角を担っている可能性があるのだろう。
そしてようやくひしひしと感じられるゲーム感。
この世界にやってきてから初めて実感として感じるゲーム感。正しくゲーム。
もう自分の中の好奇心を止められない。
俺達は気持ちを新たにダンジョンの奥へと歩みを進めた――
――が、正直拍子抜けした。
アンネ達が元々強いせいか、それをさらに強化しているせいか魔物は遭遇即消滅という感じ。味気ない。
それに俺のスキルが勝手に動いていて何となくの食材の在り処や魔物の居場所が分かってしまって、ダンジョンマッピングとか必要なく、アンネ達の後ろから『あ~、あんかあっちに居そう』『こっちに居そう』『あっちにあれがありそう』と指示を出すだけで済むのだ。
そんな感じで魔物倒し兼食材狩りのような雰囲気で5階までをあっという間に踏破した。
食材についてはウドとかタラノメとか、食すのに手間のかかりそうな食材が多かったので、基本的に無視する事にした。山の幸って……なんか苦いし。
レベルについては、ダンジョンに入ってから五階までで、アンネが3、イモートが4、ニンニンが3上がった。
今の三人のレベルは、アンネが23、イモートが19、ニンニンは12だ。
ニンニンが一番レベルが低く上がりやすいはずなのに、そんなに上がっていないように感じるのは、やはり【超越者之眷属】の影響が大きい。というか大きすぎるだろう。
どうしたものかと思っていると、ニンニンが少し暗い顔で口を開いた。
「ヤベエ殿。
拙者色々考えたでゴザルが、ここは眷属にはならずに努力をしてみようと思うでゴザル……命令に絶対服従が嫌というのでは無いのでゴザルが、許して欲しいでゴザル!」
俺はニンニンに笑顔を返す。
「うん。もちろん構わないよ。」
「本当にいいんですか?
うちのご主人様は凄くヘタレですから、間違っても変な命令をされる事はない……少ないと思いますし、そのデメリットと比較しても見返りは大きいですよ?」
「アンネ殿……ご進言有難く頂戴するでゴザル。
ただ、なんというか拙者この状態も好きなのでゴザルよ」
「ならば良いのですが……」
ニンニンは気持のいい笑顔を作って気を使ってくれたことへの礼を言い、アンネもその様子に少ししぶしぶ納得したような顔になる。
「まぁ、私もニンニンさんが自分だけ効率が悪い可能性がある事を気にされるかと思って伺っただけで、他意はございませんので。」
と一言言った。
そして何かが引っかかったような表情になり、すぐにハっとした顔をし、ニンニンに向き直る。
「ニンニンさん……だけ?」
そう呟いた。
その漏れ出た言葉を聞いたロウリィとイモートも、何故か引っかかったような表情になり、そしてすぐにハっとした顔になり、3人が顔を見合わせた。
その様子に俺とニンニンは不思議そうに首をひねる。
顔を合わせて『何かおかしかったのか?』とアイコンタクトを取って見るが、俺とニンニンに思い当たる事は無い。
だが、そんな俺とニンニンの様子を見たアンネ達は、何やらボソボソと耳打ちをしあっている。
「これはもしや、この中において希少価値を高める事に繋がるのでは?」
「うむ……強者の中に弱者がおれば庇護の対象になるじゃろう。守ってあげなきゃ的な。
あやつ、どこぞポヤっとしとるくせに存外切れ者なのかもしれんぞ。」
「それに、命令無視ができる自由奔放さも持つでガス。これは契約のある私達には絶対に真似できない事になるでガス。」
「全てを無意識で選択して行動しているとしたら……恐ろしい子。」
3人から畏怖を込めた視線を向けられたニンニンは『はて?』と、どこか困ったような顔で首を捻るのだった。




