44話 マツタケの迷宮に入るよ
急く気持ち。
なにせ松茸。
日本の心、松茸。
イエス松茸。
バナナよりも松茸。
松茸食べたい。
松茸食べさせたい。
そんな気持ちから、自力で飛べるロウリィに迷宮の入り口への案内として先導してもらい、ロウリィ以外の皆には俺が浮遊魔法をかけて移動している。
なにせ昨晩にもらった朴葉味噌と日本酒を我慢したのだ。
和のフルコースを頂くつもりで我慢したので、俺は今、ヤル気に満ち満ちている。
こういったちょっとの我慢というのは、その後の至福を何倍にもしてくれるという事を俺は知っているのだ。クレバーなのであって別にMなわけではない。
しかし……飛ぶと言ってもロウリィの服はけしからん。
飛んでいる時の体勢は地上を走っている時と同じような前傾姿勢になるのだが、なんというか地上と違って風の影響が大きい為、風でなびく髪や衣服の隙間から『あんよ』がよく見える。けしからん。
『生足』という響きはなんとも艶めかしくてイカン。
そんなあんよを薄目で見ていると頬が緩むのを感じる。
そしてふと思い出す『でも65才なんだよな』
ロウリィの生足をガン見しながらも、小さくため息を付く。
見た目若いからそれでいいようにも思えるけど……でもやっぱりなぁ……
1人、悶々としながらロウリィの後に続く。
やはり65歳と分かっていても、生足を見てしまう。
65歳なのに幼女なのだ。うーん。
ここでふと自分の思考の大半を性欲が占めている事に気がついた。
中身はオッサンでも肉体は青年。そして勇者(超越)という健康体だから、どうしても肉体的な欲求はガンガン溜まってゆく。そんな肉体的な欲求を適切に発散させていなければ、それは思考や行動にまで影響を与えても仕方ないことだろう。だって人間だもの。
俺はその考えに至り、溢れる性欲から、いかに紳士らしくこの性衝動を抑える方法を考え始める。
正直すぐに発散したいが、現状、誘惑が多い。ロウリィはもちろんのこと、アンネだって発散に付き合ってくれる的な事を言っていたし、イモートだって主従契約だから命令すれば逆らえない。
いや、なんというか、そんな風に相手をしてもらわなくとも、なんというかオカズを提供してもらうことだってできてしまうだろう。もしかすると能力を使えば、もっとバレない形でナニかしらが出来る可能性もある……
尚の事モンモンとし、終着点が見いだせない気持ちに頭を掻いていると、停止していたロウリィに気づかずぶつかりそうになった。
もちろんぶつかることなく止まったが、至近距離で急停止している。
「なんじゃ旦那様? ビックリするほど近いのう?」
至近距離の気配を感じて振り返ったロウリィの髪から、女性独特のいい香りがし、思わず目を閉じて深呼吸する。
「どしたのじゃ? 旦那様よ?」
目を開くと至近距離にロウリィのきょとんと不思議そうな表情がある。
はい。これはいけませんね。
中身がオッサンじゃなかったら確実にその可愛さのせいで、この場で暴挙に及んでいる可能性がありましたね。俺の中身がオッサンで良かったな。うん。
一人うんうんと首肯している俺の様子に、どこか腑に落ちない顔をしながらもロウリィは山の中腹にぽっかりと空いた穴を指さした。
「あそこじゃよ。ヤーマノサッチの秘密特訓場所。『万痛多気の迷宮』は。」
「ご主人様の勢いで連れてこられたので、何も特別な装備は持ってきてませんが問題ないですか? 食料もありませんが?」
アンネがロウリィに質問を投げた。
「なぁに問題は無い。この回答の意味も入ればすぐにわかるじゃろて。ホレ、では行くぞ。」
ロウリィに先導され、そのまま洞窟に入る。
そして入ってすぐに違和感を感じた。
洞窟と言えば暗いはずだが、この洞窟は間接照明が設置されているのかと感じるほどに明るい。
「ふふん、この迷宮はな、外の明るさに応じて中の明るさも変化すると言う不思議な特徴があるのじゃよ。
しかもな場所によっては泉が沸いておったり、食用できる植物も育っておったりする。
じゃから食うに困らんのじゃ。」
得意げな顔で説明をしだすロウリィ。
「ただし、そういう環境だからこそ魔物もピンからキリで、そこそこに強いヤツも出てくるでの。
入るに当たっては一定の強さが求められるのじゃから気をつけるのじゃ。」
指を立てて得意気な顔で説明するロウリィ。
性欲を自覚していた俺は、なんだかどんどんロウリィが可愛く見えて仕方なくなってきているような気がしてくる。65歳でも可愛いは正義だから関係ない的な。
だが、それは性欲のせいだと頭の片隅に頑張って追いやる。
「それでは進行に当たっては隊列を組みましょう。
あとヤーマノサッチの人間の強さは、他の国の人間と比較になりませんから、底上げも必要でしょうね。」
俺の煩悩をよそにアンネが着々とロウリィに洞窟の事を確認しては指示を出し始める。
俺はその指示に従いロウリィ以外に魔練乳を用意し、飲むと同時に回復魔法を使ってステータス向上と敏感のみが追加された状態にする。
全員の準備が終えたので、レベル上げや探索の訓練にもなる為、徒歩での進行を開始した。
「それではここから地下5階までは私を先頭にして、ニンニンさんとイモートを中心の戦闘を行っていきます。ご主人様とロウリィさんは後方支援をお願いします。」
「うん。わかった。」
「それじゃあ、我と旦那様はペアじゃのう。ふっふっふ」
笑いながら俺の腕にロウリィが腕を絡ませて来た。
俺は思わずビクンと反応する。
体が喜んでいるのだ。
ロウリィは少しだけ不思議そうな顔をしたが、すぐさま俺の様子から何かを感じ取ったように『にやぁ』っと笑った。
そして、腕に身体も押し付けてくる。
俺は天を仰ぎながら、意識をしっかりと持つ。
微妙な膨らみが押し当てられている気がするが、これは断じて気のせいだ。
でもなんだか幸せを有難う。幸せは幸せだから離したりしません。有難う。
「後方支援ですから遊んでていいワケではありませんからね? ご主人様?」
「はい。すみません。」
視線と言葉を冷たく微笑むアンネからぶつけられて正気に戻る。
「ふっふっふー。
なぁに5階程度までであれば今のおぬしらであればな~んの心配もいらんじゃろて。
じゃから我と旦那様はそこまではデートじゃよデート。」
アンネとロウリィの間に火花が見える気がする。
俺はその中でさらに押し当てられている微妙な膨らみに幸せを感じるだけなのだった。
その時、2人の火花を一切気にしてない様子で洞窟の奥を探っていたイモートが仕込みナイフを投げ、魔物を絶命させていた。
「「「 え? 」」」
ナイフが魔物に当たったのと同時に、イモートとアンネ、そしてニンニンが少し驚いたように声を上げた。
「どうしたのじゃ?」
声を上げた3人が顔を合わせて何か察する。
「……みんなレベルが上がったみたいです。」
「嘘じゃろう?」
どうやら、レベルが3人同時に上がった事に驚いたようだ。
俺はこの偶然に心当たりがあった。
ようやく俺のスキル【超越者之眷属】が活躍する機会が巡ってきたようだ。




