41話 魔練乳の効果がわかったよ
「「 で? 」」
「魔練乳の効果を知りたかったんです。」
「「 で? 」」
「……魔練乳の効果を……知りたかった……んです。」
「「 で? 」」
「…………」
見下すメイド。
そして見下す幼女。
二人の表情は影に隠れて見えない。
だが、その目だけは発光していると思える程にギラギラと輝きを放っている。
何を言っても、単語でしか返してこない2人。
俺は色々と見られてはいけない現場を見られたような後ろめたさもあり、目が泳ぐ。
逃げ出したい気分だが、逃げればさらに恐怖が増大する気がして身体が動かない。
再度チラリとメイドを見る。
両手を腰にあてている所までは、すぐに確認する事が出来る。
勇気を持って目線を上げ、表情を確認しようとすると、シャフ度の首の角度を保っている。
一瞬だけ見れたが、完全に無表情だった。
「ほら。なんか言いなさいよ。ご主人様。」
「あ……う……」
「黙っておっては分からんぞ? 旦那様よ。」
まごついていると、隣からも声が聞こえた。
幼女が肩幅に足を開き、腕を組んでいる所までは確認できた。
また勇気をふりしぼってチラリと表情を確認すると、こちらも真正面をむいて無表情だった。
ただ、俺がチラリと顔をみたのに気付いた瞬間、覚醒変化した。
こわい。
逃げれると思うなよ? 的な圧力を感じた。
こわい。
「ほれ。旦那様よ。だんまりでは話も進まんぞ?」
「そうですよ? マツタケコの部屋に行って、何をしようとしていたのかを聞いてるだけです。」
「ま、ま、魔練乳の効果を……」
「それは、飲ませてすぐ分かったじゃろう?」
「えぇ。変化を見れば一目瞭然でしょう?」
「ま、ま、魔練乳を飲んだから……休ませようと。」
「ほう? 休ませる?」
「マッサージで気持ちよくするのが? へぇ?」
下心200%が見透かされていて、もうどうしようもない。
正直、もう泣きそうだ。
「二人とも……そろそろ、その辺にしておくでゴザルよ。」
「そうでガス。ご主人様が多分そろそろ本当に泣くでガス。」
イモートに『泣く』とか言われた。
なぜか他の人に『泣くぞ』とか言われると、その瞬間から本当に泣きそうになるのが不思議だ。
少し目元がじんわりと潤んできた気がする。
ニンニンとイモートは俺のフォローと、マツタケコの介抱をしてくれているが、ニンニン達がマツに触れる度に「あふん」とか声が漏れる。
その甘い声が響く度に、アンネとロウリィから発せられている怒気が増す気がして、ただただ怖い。
あれ? 従者だよね? この人たち。あれ? なんでこんなに怖いの。
ニンニンとイモートのフォローが全く効いていないような気がする。
「お二人とも分かっていてやっているのでござろう?
どう見てもヤベエ殿は、このオナゴの家で逢引をしようとしていたでゴザル。」
図星も図星。
図星過ぎて反論もできない。
あわよくば『マッサージ』を、繁華街で聞く怪しげな『マっサティ』にして、あわよくばと思ってました。
ロウリィが、ギリっと歯ぎしりをする。
「ひとつ、マツに痛い目を見せてやらんとイカンかのう?」
「あら? 奇遇ですね。なんならお手伝いしましょか?」
あんまりな提案にロウリィとアンネを見ると、二人が本気でやりかねなさそうな顔をしている。
俺が悪いのであって、マツタケコは悪くないのだ! 俺の思い付きと悪戯で、嫌な、痛い思いをする人がいていいワケがない。
二人の言葉に俺はその場で膝をつき頭を下げる。
「すみませんでしたっ!! 何に謝ってるのかもよく分からなくなってるけど! とにかくすみませんでしたっ!!」
俺は二人に向けて誠心誠意の謝辞を伝え、その体勢で硬直する。
本当に謝罪している時には、その頭は何か言葉をかけてもらえるまで上げないものだ。それが謝罪なのだ。
頭を下げている俺の前に近づいてくる気配を感じた。
これはアンネだ。
だって近づいてくるだけで気温が下がった感じがしたんだもん。うん。冷気を感じるのはアンネくらいだ。間違いない。
そして、俺の肩にアンネの手が触れた。体がいっそう硬直する。
一体どんな攻撃が繰り出されるのだろうか。
両肩を両手で固定して頭頂部に膝蹴りの嵐だろうか? 流石に痛そうだ。
そんな事を想像し、ビクビクしていると、予想に反してアンネの手は優しく俺の顔を撫で、顔を上げさせていた。
予想外の行動に、驚いてアンネの顔を見ると優しい顔をしている。
俺はわけが分からず呆ける事しかできない。
ただアンネの後ろでロウリィが怒りの矛先をアンネに向けたような顔をしているのは目に入った。
「ご主人様は紳士ですからね。普通であれば、こんなことをする訳がない事を私は知っていますよ。
きっと環境が変わってストレスやらが溜まって、つい発作的にしてしまったのですよね?」
「は、はい。」
この状況で言われると『はい』意外に応える選択肢は無い。とりあえず分からぬまま肯定する。
「そうでしょうとも。ご主人様に仕える身でありながら、主人の疲れに気づかずにすみませんでした。」
目を伏し頭を下げるアンネ。
すぐに顔を上げた。
「ですが、イタズラにこの国の人に迷惑をかけるのはいけません。
仕方ありませんから、今夜にでも私がご主人様の溜まったストレスの発散にお付き合いします。」
「はい?」
あまりの急展開で何を言っているのかよくわからない。
ストレス発散? いや、今めっちゃストレス溜まっていってるけれども??
「待たんかっ! そのストレス発散は妻たる我の役目じゃろうっ!?」
「あら? ご主人様に妻なんていませんけれど?」
「ははは。目が腐っておるのかのう。おんしの目の前におるじゃろうが?」
「あらあら、もしかして老化で痴呆が始まったのかしら? 可哀想に。」
アンネとロウリィが火花を散らし始めた。
雰囲気が完全に変わったが、もしかして許されたのだろか?
わけもわからずアワアワとしていると、チョイチョイと服を引っ張られる感じがして、振り向く。
するとニンニンが疲れた顔をしていた。
「ヤベエ殿……あのお方の酔いは回復できませぬか? かなり厄介でゴザル。」
ニンニンの指さした方向に目を向けると、イモートが疲れたような顔をしてマツタケコを抱えていた。
マツはイモートに抱えられているだけなのに「あふん」「あひん」だのの声を上げている。
確かに、どこを触ってもビクンビクンと反応し、しなだれかかってくるマツの対応は疲れそうだった。
とりあえず回復魔法をマツに向けて放つ。
するとマツの表情が次第に正常に戻っていった。
雰囲気から酩酊から状態回復されたのが伝わってきたが、念の為、鑑定をかけてみる。
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名前:マツ タケコ
種族:ヤーマンッバ人(ボーイッシュ)(短時間強化)
職業:戦闘要員 兼 採掘人員
レベル:53
HP:321/343
MP:168/285
物攻:102(+100)
物防:92(+100)(+2、+2)
魔攻:142(+100)
魔防:121(+100)
速度:76(+100)
幸運:89
装備:綿の服 皮の長靴
スキル:鬼頭流格闘術 松竹拳2~10倍
超ヤーマンッバ人 超ヤーマンッバ人2 超ヤーマンッバ人3
敏感(大)(+敏感(中))
ステータス:困惑
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鑑定の結果、強化の効果は残ったまま酩酊が回復されていることが分かった。
俺が魔練乳の効果を確認していると、争いの元である俺が、まったく違う方向に向いてしまっている事に気が付いたアンネとロウリィも、ケンカをやめた。
魔練乳は回復と抱き合わせにしたら、すんごく使える魔道具だ。
デメリットは、敏感が増える事……うん。面白い。
俺はようやくしっかりと把握できた魔練乳の効果をアンネ達に報告することにした。




