40話 マツタケコに練乳を飲ませるよ
「やぁやぁマツさんや。今日はどちらにお越しで。へっへっへ。」
俺は練乳を飲ませるという下心を見ぬかれる事がないよう、清潔な雰囲気を心掛けた顔で挨拶をする。
「うわっ……仕事も終わったし家に帰るのよ。」
一歩後ずさりをした後、妙に嫌そうな顔をしながら答えたマツタケコ。
なんて失礼なヤツだと思いつつも、練乳を飲ませた前後での変化を確認する為にこっそり鑑定をかける。
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名前:マツ タケコ
種族:ヤーマンッバ人(ボーイッシュ)
職業:戦闘要員 兼 採掘人員
レベル:53
HP:321/343
MP:168/285
物攻:102
物防:92(+2、+2)
魔攻:142
魔防:121
速度:76
幸運:89
装備:綿の服 皮の長靴
スキル:鬼頭流格闘術 松竹拳2~10倍
超ヤーマンッバ人 超ヤーマンッバ人2 超ヤーマンッバ人3
敏感(大)
ステータス:疲労(軽)
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うん。お疲れ様。
仕事したって感じがステータスからも見て取れたわ。うん。
「そうそう、今日も國主様が来てらしたわよ。あのメイドさん達と。」
「えっ? ロウリィとアンネ達が?」
「あんた何も聞いてないの? なんか鉱石にご執心って噂になってるわよ。山の。」
「山の?」
「……アンタはオウム返ししかできないワケ?」
「いやいやいやいや……そうじゃなくて、俺はマツさんがいったいどこのどちらで、どんな仕事をしている人かとか知らないですからね。俺。」
訝しげな顔をするマツ。
「私に聞いてなくても名前はわかるくせに? 特殊能力だっけそれ?」
「うっ……いや、その。ね。ま、マツさんは一体、山で何をしてる人なのかなぁ?」
鑑定で『採掘人員』と出ているのだから山で何かを採る仕事だろう事はわかる。が、何かはわからない。
「まぁいいわ。コレよ。」
マツが何やら白い結晶を見せて来た。
普通ならそこで「コレなんですか?」と話を広げるのだろうが、俺にはそんなことはどうでもいい。
なぜどうでもいいかといえば、理由は簡単だ。『敏感(大)』の人が魔練乳を飲んだら、一体どうなってしまうかの方が知りたいからだ。イヤ、敏感(大)は関係ない。魔練乳を飲んだらどうなるか知りたいのだ。
魔バナナは快感とスキル関連に変化をもたらすのが分かっているが、魔練乳は初だ。
……あれ?
そういえばニンニンとかアンネとかイモート、それにロウリィには、何本も魔バナナ食べさせてたし、もしかしてスキルって、すごく変わってる可能性とかあるのかな?
でもアンネが2本目食べた後は特に変わってなかったような…………まぁ帰ってきたら鑑定してみればいいか。
みよう。それよりもなにより今は魔練乳だ。
さぁ、マツタケコに、どうやって飲ませる?
思考が高速で巡り始めた。
『イイモノ手に入ったんですよ。コレデス』
飲むわけない。
『苺には練乳ですよね。』
苺が無い。
『甘いもの好きですか? そうですか。これドウゾ』
しばかれるわ。
「……ねぇ………ねぇちょっと! 聞いてる?」
真剣に考えすぎていて、マツの事を忘れていた。
「あ、すみません。」
「まったく魔晶石が珍しいからって、そんなに真剣にならなくてもいいでしょうが。」
魔晶石? 知らんなぁ。そんなことより練乳だ。
もういいめんどうだ。ぶっつけ本番だ。【詐欺的説得術】があるかんだから、なるようになれ。
「いやぁ~立派な白色ですねその石。それだけ白ければ、さぞかし価値のある事でしょうね。
あっ、そうそう白い色と言えばこちら。コレ練乳なんですよ。見てくださいよ。この白さ。信じられます?」
マツタケコはさらに一歩引いた。
「……アンタ……それ……またバナナみたいな変な食べ物でしょう?」
「ヤだなぁ! マツさん心外だよー!」
がんばれ! 俺の【詐欺的説得術】!
「あ、そう言えばお仕事帰りでしたよね。」
「そうよ。」
「マツさんは美味しい物は好きですか?」
「……そりゃあ好きだけど。」
「ですよね。嫌いな人なんていませんよね。
ちなみにお酒は嗜みます? 働いた後のお酒って格別に美味しいですよね」
「まぁ、この国だと酒を嫌いな人は少ないでしょう。」
「うんうん。さっき朴葉味噌もらったんですけど、味噌の塩味が酒を進めるんですよね~――
……
この後も『休みって嬉しいですよね』という感じに、とにかくマツの返事が「YES」となるよう世間話や質問をし続ける。
というか口が勝手に喋り続けている。
「……で、そういった経緯で、この超希少価値の練乳が手に入ったってワケなんですよ。
でもね、一人で味わおうと思ったんですけど、それも寂しいですからね。誰かと超希少な練乳の味を共有したくて動き回ってて、偶然マツさんと巡り会えたんですよ。いやぁ、俺この国で知り合い少ないからラッキーでした。というわけで折角なんでマツさん味見してみません。」
「へ~……まぁ、ちょっとだけ頂こうかしら。」
よしっ!
だが本人の意思と言葉で味見をすると言った!
言質を取った。
なんか『YES』と言い続けると『NO』と言えなくなる詐欺術とか聞いた事あった気がするし、まさにソレとか、希少価値を匂わせるとか、色々詐欺っぽい雰囲気をひしひしと感じたけれど、OK! 俺、悪くない! きっと。
「でも味見しようにも小皿も無いわよ?」
「大丈夫ですよ! ほんのちょろっとの味見だけですから、マツさんが少しだけ屈んで上向いてくれれば、瓶から垂らしますから。さぁさぁさぁ! 屈んで屈んで。」
好機を逃がすまいとマツの背中に触れ催促する。
「いやはぁん!」
マツが声を上げた。
驚いて触れた手を離す。
マツの表情はどこかゾワゾワとしたような、それでもイヤじゃない。と言わんばかりの顔だ。
そうだった。話に夢中になって、マツの敏感(大)を忘れていた。
突然街中で発せられた嬌声に、つい周りを見回して確認してしまう。
幸いな事に大きな道から一本外れているからか人の姿はなかった。
「ちょ、ちょっと触らないでっ! 自分で屈むから!」
「すみませんっ!」
マツタケコは膝を少し折り、その膝に両手を乗せるような姿勢を取った。
そして口を開けて少し上を向く。
俺はマツの気が変わらない内にと、急いで瓶のふたを取り、マツの口、舌の上に落ちるようドロリと白く輝く練乳を垂らす。
だが、俺から垂らされた練乳は、大分粘度が増しているようで、垂れてはいるが、中々マツの口の中に入らない。舌の上にも乗らない。
瓶と口の距離があるせいか、その中途で、振り子のようにプラプラと揺れ始めた。
マツは頬についてベタついてはたまらないばかりに、揺れる白濁液の塊を自然と舌で追い始め、ようやくマツの舌の上に白濁液の固まりが降り立った。
途端、マツはビクンと一瞬体を反応させる。
瓶から糸引く練乳に震えが伝わり、その震えで舌と瓶を繋げていた練乳の線が切れてしまい、切れた線がマツの口のまわりを汚す。
マツは目を閉じ、鼻息を荒くしながら、口のまわりに垂れてしまった白濁液である練乳を手の平で拭い、そしてその手を無心に舐めている。
練乳を味見しているだけのマツだが、俺はなぜか興奮を覚えるのだった。
ひとしきり練乳を舐め、マツがぼんやりとその目を開いた。
「……ふへ……ふへへへ。」
「へ?」
様子がおかしい。
慌ててマツに鑑定をかける。
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名前:マツ タケコ
種族:ヤーマンッバ人(ボーイッシュ)(短時間強化)
職業:戦闘要員 兼 採掘人員
レベル:53
HP:321/343
MP:168/285
物攻:102(+100)
物防:92(+100)(+2、+2)
魔攻:142(+100)
魔防:121(+100)
速度:76(+100)
幸運:89
装備:綿の服 皮の長靴
スキル:鬼頭流格闘術 松竹拳2~10倍
超ヤーマンッバ人 超ヤーマンッバ人2 超ヤーマンッバ人3
敏感(大)(+敏感(中))
ステータス:酩酊初期
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……おおう。
魔練乳はステータスの即席強化効果があるのね。
あと『敏感』と『酩酊初期』のステータスが増えている。
ん?
敏感になって、酔う?
……ナニコレ。俺が童貞じゃなかったら犯罪のニオイしかなしないよ!?
「ふへへ~。あら~? なんか楽しくなってきちゃった。ふへへへぇ~。」
「大丈夫ですか?」
同様からマツの手を触る俺。
「あぁあぁん……いやぁん。なぁにぃ~これぇ~ゾクゾクするぅ~……」
手に触れるだけで敏感を通り越してしまっている。
これはイカン!
なにがイカンって俺の理性がイカンだろう!
どう考えてもチョロインドーピング剤な感じになっている!
これは、このままマツタケコを放置したらダメな気がする。
誰にとってもマツタケコがチョロイン状態だ!
「えぇっと、すみません。触らないのでお家まで送らせてくださいね~。」
罪悪感から、早々に『なかったことにしよう』を発動する。
きっと家に帰して眠らせてしまえば、綺麗さっぱり忘れるはずだ。
よし、送り届けて退散だ。
「えぇ~~……触ってよぉ~~ねぇ~~」
「……え?」
「だってぇ~~気持ちいいんだもん~~」
「いやいやいやいや……いやいやいや……え?」
「なぁによぉ~? 私に触れないっていうの~~?」
えっ? いや、そりゃ、色々触りたいのは触りたいですが?
お? いや、 ん? ……本人が触れって言ってるんだし……触っていいのかな?
まぁ? 下心が無ければ……いいよね。下心が無ければ。うん。
ほら? 『敏感(大)(+敏感(中))』って状態がどんな感じか知っておくって大事かもしれないし?
知的な探究心だから大丈夫だよね。
「……じゃあ……ここはおひとつ。肩でもお揉みしましょうか? マツさん。」
「かたぁ~? え~? 本当は違うところを揉みたいんじゃないのぉ~? うふふふ……まぁそれでもいいか~おねがい~」
とりあえず色々幸せになりつつ、マツの肩に触れる。
「んんっ!! ふぁぁっ!」
嬌声だ。
余りの音量に、マツの声に思わず肩から手を離そうとするが、マツが俺の手を既に掴んでいる。
「離しちゃだぁ~めぇ~。気持ちいいからちゃんと揉んで~~」
「は、はい!」
これは離せないわ~。肩から手が離せないわ~。仕方ないわ~。
首の付け根当たりに親指を添える
「んん……」
手のひら全体に力を入れるようにしながらゆっくりと力を加えて揉む。
親指はツボに押し込むように、じっくり刺激する。
「んんんぁんぁあ~~~! 上手ぅ~~。なにこれぇ~とぉっても気持ちいいわぁ~」
喜んでいる。
マッサージをして喜んでもらえるなんて、こんな幸せな事は無い。
なので、じっくりと繰り返す。
「あぁ~~……こんなに気持ちイイのはじめてぇ~~。あぁぁあん。声がでちゃう! 上手ぅ!」
俺はもうたまらなくなった。
正直色々限界。絶対誘ってるやんか。
なので、ここはひとつ勇気を出して頑張ってみる事にした。
「ま、ま、マ、マツさん。
お、お、お、俺、ここ、こう見えて、全身マッサージとかも得意なんですよ! もし良かったらマッサージしましょうか? ぜ、全身に。ほ、ほら、どこかの宿とか横になれるところで……な、なんならマツさんのお家とか!」
マツタケコは気持ちよさそうな、快感を貪ろうという貪欲な表情。
「そうなのぉ? うん。わかったぁ~~もっと気持ちよくしてぇ。あぁ……ん。楽しみだわぁ……早く私の家に行きましょう……アソコに見えるのが私の家よぉ……」
もっと気持ちよくして欲しいと言うのが伝わってくる。これは断らない。そして断れない。
「はいっ! よろこんで!っ」
俺は元気よく応えた。
もしかするともしかする!
いや、むしろ確定コースに入っている。
男女2人で密室でマッサージだなんて、絶対、いけないマッサージコースだ!
こんなん絶対テンション上がるわ!
「へへへ! 俺、めっちゃ気持ちよくしますからね! マツさんを! お家で!! うへへへへ!」
だが、この時俺は『今いる場所』が、大通りから一本外れているとはいえ、天下の往来であるという事を忘れてしまっていた。
「……誰の家で。
……何をどうするつもりですって?
ご主人様?」
「そうじゃのう。
そこはじっくり聞きたいのう。
ええ? 旦那様よ。」
俺は突如背後から聞こえた、聞き覚えのある声に震えた。
まるで体の芯が冷え込むような声だった。
そして恐怖から後ろを振り返る事が出来ない。
さっきまで夢を見ていたような心地だったが、どうやらこれは、悪夢だったようだ。




