4話 ニンニン女体化。バナナをごちそうするよ
地の果てまでついてきそうな勢いを感じさせるニンニンに少しうんざりする。
しかして旅の道連れとなりそうな事は嬉しくもあり、ウザイ感じだけをなんとかする方法が無いかを考え、移動しながら自分のステータスを確認する事にした。
ステータス欄を開くと、使える魔法なんかが一覧として並んでいるのだが、使える魔法の量が『まぁ~辞書か』と感じるくらい大量にありすぎて、すぐには全てを理解できない。項目の分量に辟易としながら流し読みしていると、ふと目を引く物があった。
足を止めてしまうほどには目を引く魔法だ。
「どうなさったヤベエ殿?」
「いや…………その、なんだ。結構移動したし、そろそろ休憩がいるかな? と思って。」
「ふぅ……助かったでゴザル……
実は正直なところ、そう言って頂けるのを待っていたでござるよ。」
ニンニンは汗を滲ませ大きく息をしながら汗をぬぐい、火照った身体をクールダウンさせる為だろう木陰へと足を向けはじめた。
俺は別に休憩が必要だったわけではない。
足を止め、真剣にそれだけについて考えたい程、見つけた魔法が気になったのだ。
『女体化魔法』
……これは……もしや?
色々な考えが頭を過る。
ただいくら考えても『いやいやまさか』『いやいやそんな』と堂々巡りしてしまう。
ならば百聞は一見にしかず、ひとつ実験をしてみる事にした。
なぜなら…………すごそこに良い被検体がいるからだ。
ニッコリと笑顔を作って被検体に声をかける。
「やぁやぁニンニンさん。ニンニンさんはアレですよね? 確か使命とかそんな感じで何があっても俺と一緒にいるんですよね?」
ニンニンは長時間のジョギングで、やはり火照っているのだろう、上半身裸になって全身の汗を手ぬぐいで拭っている。
「ふぅ……そうでござるな。
拙者ニンジャでござるからな! 忍者として命を受けたからには、やはり命を懸けているでござる! 故に何があってもついてゆくでござる!」
「ほうほう、なにがあっても……ですか。」
「そ、そうでござる……なにか様子がおかしいでござるよ? ヤベエ殿?」
「いえいえ、失礼しちゃうなぁ。これが普通ですよ。俺。ええ。普通ですとも。
あ……そうだ! 俺、魔法が使えるようになったみたいなんで、ニンニンさんにかけてみてもいいですか? 多分この魔法をかければ元気になると思うんで。」
元気になりますとも。
ええ元気になります。
まぁ、その元気になるのはニンニンではなく、主に俺ですが。
「おおっ、もしや回復魔法でござるか?
それは願ったり叶ったりでござるよ! ヨロシクお願いするでござる。」
言質はとった。
魔法をかけていいか? と、ちゃんと俺は聞いたぞ。
思わず口角が上がる。
「えぇ分かりました。ではいきますよ。……ふひっ。」
ニンニンの胸の前に手を持ってきて目を閉じて念じる。
「女体化魔法~」
ポワっと手から輝きが放たれ、その輝きはニンニンへと向かってゆく。
「へっ!? えっ!? ええええーーーーっ!!??」
一瞬だけ呆けていたニンニンが、なんの魔法なのかを理解したのか慌てはじめる。だが、かけた魔法は止まらない。
耳に入る『えー』というニンニンの声がどんどんと高音に変わってゆく、そして完全に高音に変わった時、ニンニンの胸の前に出していた手に柔らかな物が触れた。
その感触に思わず目を開くと、なんとそこにはクノイチがいた。
「うへっ……うへへへ。ニンニンは……何があっても俺について来るんですよね?」
「そ……そうでゴザルが…………流石にこんな状況は考えてなかったでゴザルっ!」
瞬時に何かを感じ取ったのか胸を手で隠し後ずさるニンニン。
俺はその様子に大仰に両手を上に向けて頭を振る。
「いや、俺はちゃんと聞きましたよね? 魔法が使えるようになったからかけていいか? って。」
「そんなの回復魔法だと思うでござろう!」
「はぁ? 俺、そんな事言ってないでしょう? 勝手に勘違いしたんじゃないですか。」
「くうっ! ……これが勇者のやり方でゴザルか!」
歯噛みするニンニン。
何となく悪役な気分になって面白くないので何かフォローを考えてみる。もちろん男に戻すなんてのはもっての外だ。しばし悩み、そして気が付いた。
「あぁ、そうだ。俺、体力回復に良い美味しい物を持ってきてたんですよ。
消化吸収もいいし今なら甘い練乳もありますから、それを食べさせてあげますよ。」
「い、いや! お気持は有難いが、え、遠慮するでゴザル」
「そんな事を言わずにぃ! さぁさぁっ!」
リュックサックを地面に下ろし、動きやすいように上着を脱ぎ捨てる。
そしてリュックに詰めたバナナと練乳を取り出してバナナの皮を剥く。
ニンニンは上半身裸だった為、胸を隠しながらなんとか逃げようと機を伺っているようだが、本気の俺の前では逃げられるだけの隙は見当たらない。だからじりじりと後ずさりしかできていない。
やがてニンニンが諦めたような声を出した。
「こ……怖いのはイヤでござる。
食べるから……優しくお願いするでゴザル。」
「任せてくださいよ。クフフフ
さぁ、口をあけて……」
「あ、あ~んでござる。」
半裸の女体化したニンニンが無防備に口をあける。
目を閉じて口を開けている姿は、どこか妙に興奮してしまうものがあった。
色々想像してしまったせいで焦る。なんせ元、木こり。こんな経験等したことがない。つい足がもつれ転びそうになる。
というか転んだ。
その結果ニンニンの口に、勢いよく剥いたバナナを突っ込んでしまった。
「ウグぅっ!
……ぐぅ……おぇっ…」
「あ、ご、ゴメン!
ちょっと滑っちゃった!
わざとじゃないんだ!」
バナナを慌てて口から引き抜き謝罪する。
「く、苦しいのもイヤでゴザルっ!」
ニンニンが咳込みながら非難の声を上げた。
「ゴメンって。今度こそちゃんと食べさせるから。ね。
あっ、そうだ! 俺が座って持ってるからさ、ニンニンさんが食べにくれば安心じゃん! ね。ほら。俺、動かずに持ってるからさ。」
「わ、わかったでゴザル!」
ニンニンは俺に急かされ促されるまま、座った俺が持ったバナナに四つんばいになって口を近づけてくる。
大きな胸が揺れながら近づいて来る。それだけでも眼福。辛抱たまらん。
やがて俺のバナナにニンニンが恐る恐る口を当て、そしてゆっくりと口を動かした。
「ん……ん。」
oh、いえー
「……お、おいしいでゴザル。」
「そっか……良かった。」
また口をバナナに近づけながらニンニンが、ふと何かに気がついたのかように俺の顔を見た。
「……コレ……拙者が受け取って自分で食べれば良かったのではござらぬか?」
「…………それもそうですね。」
俺はバナナの残りをニンニンに手渡した。
少しさみしかった。