39話 ヤーマノサッチでお宝発見したよ
※話は微妙に区切れてないですが新章突入しました。
新章なので、ちょっと違うところのお話をば
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「あぁ、出た……出ちまった。」
申し訳なさそうに報告する男。
「はぁ、もう出たの!? 嘘でしょう!? ちょっと早過ぎじゃない?」
ヤベエ達の止まったペンションの受付のオッサンが困ったような顔をしている。
自分に、どうしようもない事で怒りの言葉を投げ付けられているせいだ。
言葉を発した女は、あっせん所の受付、スキモ ノデスだった。
スキモ ノデスは、あまりの早さに怒りとガッカリが混じったような表情をしている。
どちらかといえば怒りが強い。まさかこんなに早く出るとは思っておらず、あまりに早く出たが為に怒っているのだ。
怒りをぶつけられる受付のオッサンは、ただ渋い顔をする事しかできない。
……さて、ナニが早く出たのかといえば、ヤベエ達がペンションを出た事だ。
宿泊予約に余裕があり、本来であればまだペンションに滞在していたはずだが、何があったのか予定を繰り上げて早く出て、すでに誰も居なくなっていた。
スキモ ノデスは、あっせん所の所長からヤベエ達を連れてくるよう業務命令を受け、直接頼みに来たのだ。
あっせん所の所長も、現場監督に頼み込まれ込まれての事だが、いかんせん彼の仕事は多く、手が離せないからこそ、ヤベエの顔を見ているスキモ ノデスに頼み、間違いなく伝言をしようとしていたが、この時ヤベエ達は、既にヤーマノサッチへと向かってしまっていた。
「流石に移動してるんじゃ伝言も無理ね。」
スキモ ノデスは所長にその旨を報告する為、ボーイウォッチングをしながらあっせん所へと帰って行った。
その後、現場監督の強い意向であっせん所の依頼の一つとして、人探しの依頼『黒ずくめの奇抜な衣装を着た人間。ヤベエ。』の捜索が大々的に貼りだされる事になるのだった。
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ヤーマノサッチの国。
國主であるロウリィを市中引き摺りの刑に処したように入城してから、既に2日が経過し、ヤベエ達は忙しい日々を過ごしていた。
基本的に小難しい事を考えるのはアンネ任せだが、賢いアンネはそれぞれの人間のやれる作業量がどの程度かを把握しているから、中々にハードワークになっている。
もちろん当人であるアンネも忙しく過ごしており、今はイモートとニンニンを連れて、ロウリィの案内の元ダイヤの採れる山に行って詳細な情報収集に取り掛かっている。
そして、俺は城下町で力の誇示に勤しんでいる。
というのも『実は國主って弱かったんじゃ?』という噂が出始めた為だ。
力が全ての国という事もあり、不穏分子が騒ぎ始めるのは、あまり宜しくないということで『軽く揉んでやってきてください』というアンネ命令で力の誇示に励んでいる。
よくよく考えれば噂の原因を作ったのはアンネだけれども……まぁ……怖いから従う。
まぁ、揉んでやると言っても城下町をロウリィが『國主に勝った俺最強。かかってこい』と書いたのぼりを持って観光して回るだけなのだが、流石は戦闘民族というか、わらわらわらわら勝負を申し込んでくるので「ようし、好きに打ってこい!」と言って放置して観光している。
観光している内に、ちょっと邪魔だなと思ったらデコピンして失神させるだけの簡単なお仕事です。
デコピンに飽きつつも大分絡まれたし、今日はもうお仕事終了でいいだろうと思ってのぼりを片付けようかな? とか思い始めた頃。
今日一番の厄介そうな女の人が出来てた。
何が厄介って『槍』を持ってますわ。
打撃とかなら恐怖を感じる事はそうないけれど、さすがに刃物は防御マックスの向こう側で、例え当たっても怪我しないだろうことが分かっていても、流石に見た目が怖い。心理的な負担がでかい。
ちょっと槍とか怖すぎるので、俺も対抗して使ってないけどオーラの出る日本刀を抜いてみたら槍の人が走って逃げたので超ラッキーだった。
なんで速攻逃げたのかはわからんけども、あの刀のヤバさを直感で感じ取ったんだろう。
その後も引き続きぐるぐる回ってはデコピンしていると、初日にデコピンで負けた八百屋の青年……といってもヤーマンッバ人はみんな肉体が若いので、見た目が青年であってもオッサンだったりするのだけれど、まぁ、八百屋の青年が手招きしているのが目に入った。
「大将、大将! 今日もやってるね!」
「え? 俺って呼び名が『大将』なの?」
「おう! 昨日試してわかったよ。アンタはこの国で一番強いってな! だから大将だ!」
「まぁ、変なのじゃなければ気にしないから、別にそれでいいけどさ。どした?」
「おう大将。今日はな、ちょっと良いもんが手に入ったから、昨日絡んだ詫びに持って行ってもらおうと思ってよ。ホレ」
八百屋のオッサンが葉っぱにくるまれた物を渡してくるので、とりあえず受け取る。
「なにこれ?」
「朴葉味噌だよ。つっても知らねェかな。
まぁヤーマノサッチの国の酒のツマミだよ。試してみな。」
「なん……だと……」
俺は慌てて包みを開き味噌を見る。見た目、間違いなく味噌だ。
こらえきれず指を突っ込み、味噌の付いた指を舐める。
「神はここにおった!」
気が付いたら俺は両膝を付いてガッツポーズを取っていた。
そして八百屋のオッサンに土下座かまさんばかりのお礼を言いまくる。
すると、もう一つくれたので今日はもう城に引き上げる事にした。
なんせ俺は國主の主なので、城の酒をちょっと飲ませてもらうくらいの贅沢はできる。
それにこの国では主食として米もある! この朴葉味噌があれば、それだけでメシを3杯以上食える自信がある!
苦手な浮遊術もこの際関係なく駆使しして速攻城に帰った。
城の割り当てられた部屋に入り、すぐにリュックに一個隠した。
奥に隠そうとして、何かイヤな予感のする瓶が目に入る。
少しだけ変色した練乳だった。
「うわぁ……練乳が……」
思わず瓶を手に取る。
まだそんなに日も経っていないから食べても大丈夫かとは思うが、なんとなく変色した練乳という響きは心配になる。
「魔力を通せば大丈夫かな……」
火を通せばみたいな感覚で魔力付与を試みてみる事にした。
魔力を籠めてみると変色した練乳は白く輝く練乳へと変化し始めたので、とりあえず鑑定してみる。
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種:魔練乳(大)
その漲みなぎる魔力によって練乳を超えし練乳。
大変美味。選ばれし者のみが使う事が出来る甘味料。
食した者に対し、増強の効果をもたらす。
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ふむ。どうやら大丈夫そうだ。
でもやっぱり自分で食べる前に、誰かしらに味見してもらおう。その方が安心だ。
誰かしらがいないか気配を探ってみると敏感(大)の人こと、マツタケコが城下町にいる気配がした。
味噌はお楽しみにとっておき、俺はマツタケコに魔練乳を食わせに向かうのだった。




