37話 見せつけバナナ失敗だよ
ニンニンは足をもつれさせながらやってきて、目の前に立つと、脱力したようにしなだれかかってきた。
しなだれかかったニンニンを受け止めるが、ニンニンは、俺の目の前で膝をつき、四つん這いのような姿になっている。右手は俺の肩に、左手は俺の腿にあり、熱い吐息を何度も吐く。
俺はその姿を見て『今のニンニンの姿を真後ろから見たい。超見たい! ミニスカ浴衣だろ!? うわぁい!』という欲望が沸き立ち『頭がフットーしちゃうよう!』状態になりつつあった。
だが、精一杯欲望を封じ込め、クールに……いや、なんかもう…………ちょっとくらいいいよね。
若干、欲望と劣情に負けはじめる自分を感じていた。
俺はまたも、自分の腿を叩き、ニンニンに自分の胡坐の上に座る様に促すと、イモートを見ていたニンニンは分かっていたように座った。
左手でニンニンを抱き寄せて、右手に持った魔バナナをニンニンの前で揺らす。
揺れるバナナをニンニンは目で追い、それ合わせて顔も揺れた。ニンニンのポニーテールが振られ、その髪から女性独特の香りが漂って俺の鼻腔をくすぐる。
「オウフ……なんて……イイニオイ。」
思わず口に出てしまった。
だが、そんな俺の言葉に対して、ニンニンのビクーンといういつもの嫌そうな反応は無かった。むしろ熱を帯びたような視線が返ってきている。
やだ、この子かわいい。
一瞬にして脳内の全てがソレに置き換わっていた。
イカンっ! いや、これアレだし! ロウリィとアンネのお仕置きだし!
バナナを二人に見せつけるのが優先だしっ!
必死に脳内で目的と手段が変わらないように目的、目標を繰り返して意識をまとめる。
一度鼻から息を大きく吐きだして、ニンニンにバナナをゆっくり与え始めた。
ンチュ。
ムチュ。
はぁ……
ニンニンがバナナをゆっくりとその口内で堪能している音が響く。その味わう音に混じって、時々淡い吐息も聞こえる。
俺は『ナニコレもっと変な気分になるぅ』と、色々と自分の中を巡る血が集まるところを選び始めている事に危険を感じ始め、ニンニンの魔性から逃れる為にお預けを食らっている二人に目を向ける。
するとアンネはどことなく悔しそうな雰囲気を残しながらも物欲しそうな顔でコッチの様子を伺っていた。
ロウリィは……
「待て待て待て待てぇーーっ!! ロウリィ待て―っ!!」
俺はロウリィの様子があんまりにあんまりだった為、叫ぶ。
声に合わせて、つい手に力が籠り、ニンニンにゆっくり与えていたバナナをグっとその口内に押し込んでしまった。
「んぉあぁ! ぉおんあ! 一気にぃ……あぁん……」
ニンニンがモゴモゴと言っている。
えづく程に深く入らなくて良かったと胸をなで下ろす。
それよりなによりロウリィだ。
すっかり忘れていたが、ロウリィの性癖は微Mになっていたんだった。
ロウリィは、この『お預け』されている状況を喜んでしまい、しかも興奮し始めたせいか、自分で何というか自分をなんというかなんていかーアカン事をして楽しんでしまっているのだ。
だが、今はさっきまで動きに動いてた動きが止まっている。
どうやら俺の発した『待て』という言葉は、ご主人様命令になってたようだ。
故にロウリィの動きはピッタリと止まってるけれど、なんというかピッタリ過ぎる状態で止まってしまっているので、アレな感じすぎる絵面だ。
俺の言葉でロウリィを確認したアンネの顔が真っ赤になった。
ちなみにニンニンはロウリィどころじゃないらしい。まったく関係ないといった感じで俺のバナナに夢中だ。
「あぁんっ! 動こうにも動けぬ! これはこれで……たまらんっ!」
頬をさらに紅潮させ息を荒げながら叫び悦んだロウリィ。
もうどうしたらいいんだろう……コイツには何をやっても結局ご褒美になるんじゃないないだろうか。
俺が呆然と肩の力をおとした頃、口に突っ込まれたバナナを堪能してゴックンと飲みこんだニンニンもイモートと同じようにビクンと痙攣して意識を手放した。
ニンニンの脱力を感じ、イモートの横に寝かせ。
頭を掻きながらアンネとロウリィの二人の元に向かう。
俺は二人の様子を見比べて溜息をつく。
アンネもロウリィの様子に、困ったような顔だ。
俺はため息が漏れた。
「アンネ……助けて……助けてくだしゃい……俺、二人を仲よくさせるのに、バナナを羨ましくさせてお仕置きしようと思ったんだけど……もうコイツにどうやったらお仕置きできるのかわかんないです。」
俺は全てを諦め、、薄く笑いながらアンネに独白のように語りかける。いや、一人ごちたのかもしれない。
そんな俺が予想外だったのか、アンネはどこか熱っぽい表情をしながらも、冷静にすぐに頭を巡らせ始めて、いつもの話し方で提案を始めた。
「今のご主人様のお仕置きは『きっとこの後自分もバナナを食べさせてもらえるだろう』という事が容易に推測できますからね……焦らされる過程がたまらなくなってしまったのでしょうロウリィは。」
アンネは蔑みを含めたような視線と顎をロウリィに投げた。
だがロウリィは息を荒げたまま、アンネの口撃などまったく効いている気配はない。
「ご主人様が私の意見を聞いて、今バナナを与えなかったとしても、いずれ食べられる時が来るでしょうから、その時までずっと楽しむでしょうし……それに、ご主人様の性格を考えてもヘタレですから、長くお預けを続ける事も、ロウリィにバナナを与えないということを選択する事は無いと思います。
ロウリィも、それを理解し、考えての無遠慮なのでしょう。」
アンネの説明で、しなしなしなと俺の心がしぼむ。
よくよく理解されているのは嬉しいが、なんというか情けなくなる。
俺の様子を気にせず、アンネはそのまま言葉を続けた。
「ですからバナナはさっさと与えてしまって別のお仕置きにしたら良いのです。」
「……別の?」
「それは……」
アンネはロウリィを見る。
ロウリィはアンネの目を見て嫌な予感がしたのか、さっきまでのMプレイを喜んでいる雰囲気がサァっと消えていく。
「『アンネと仲良くならない限り、ご主人様と子作りできない』とかの御主人様命令が最適かと。」
「それは嫌じゃあぁぁぁぁあああああああっ!!!」
アンネの言葉に盛大に叫ぶロウリィ。
どうやら効果は抜群のようだ。
ロウリィの様子に、枯れていた俺の心に雨が降りそそぐ。
「よしっ! それでいこうっ!」
「旦那様っ!? 旦那様っ!! それは無体じゃっ! あんまりじゃっ!!」
ロウリィの様子を見て俺は感心する。
「流石アンネ頼りになる! この様子! めちゃくちゃお仕置きになってるよ!」
俺は思わずアンネの手を握ってブンブンと振る。
本当は抱き着いて喜びを表現したかったのだが、童貞に美女にいきなり抱き着けと言ってもそれは無理な話だ。そんなことができるのであれば、俺はここまで童貞力を磨いてはいない。
「ご主人様のお役にたてて良かったです。」
アンネは少し頬を染めたまま、にこやかに綺麗な微笑みを俺に向けてくれた。
まるで選挙カーから聞こえてくるような綺麗に作られた声。
俺にはアンネがまるで天使のように見えた。
そして言葉の後、ロウリィにも向き尚って笑顔を向けたアンネ。
俺からは見えなかったが、ロウリィはアンネの笑顔を見てハっとし慌てながら再度声を上げた。
「旦那様っ!! 旦那様よっ!! 聞いてくりゃ! コヤツは! コヤツはハナからわっちと仲良くする気などないのじゃっ! わっちがいくら仲良くしようとしても、このままではわっち……わっち! 一生子作りできんではないかっ!」
俺はその言葉でアンネを見る。
するとアンネはさも『心外です』と驚いた顔をしていた。
うん。ロウリィは気にし過ぎだ。
アンネは天使だから。うん。
「いやいや、ロウリィ。それは無いだろう。だってアンネが俺とロウリィが子作りしても困るような理由もないし。ねぇアンネ?」
「そうですよ。ロウリィさん。」
平然と答え、また微笑むアンネ。
「旦那様っ!? 旦那様っ!! 違うのじゃ! コヤツはもう心から女なのじゃ! 女としての独占欲から旦那様に女が増えるのを防ごうとしておるのじゃぞっ!」
え!? マジで!?
一瞬にして色んな感情が出てしまい、少しの喜色を孕んだ目でアンネに向き直る。
だが、アンネは驚いたような顔だ。そしてすぐに、さも『なにを言っているんだか』と、呆れたように首を横に振ってロウリィに優しく声をかけた。
「ロウリィさん……私は元男なんですよ?
まったく何を言っているんですか? ねぇご主人様。」
アンネの言葉に、俺は若干残念な気持ちになったが
「ですよね~……」
と続けることしかできなかった。
そしてロウリィが何とか命令をさせないように纏わりつきはじめ、面倒な感じになりそうだったので安心させる為に確認を進める。
「アンネは別にケンカする意思はないよね?」
「はい。いきなりケンカを売られたりしない限り特には。」
「うん。じゃあ大丈夫だ。そういう事で二人とも仲よくね。
それじゃ、ロウリィは『アンネと仲良くならない限り、ロウリィは俺と子作りできない』から。」
ご主人様命令が発動した。
「あぁぁああっ!! いやじゃあぁぁあああああああっ!!」
「かしこまりましたご主人様。宜しくお願いしますね。ロウリィさん」
そう言ってニッコリと微笑むアンネ。
仲良くなれる事が嬉しそうな、楽しそうな顔だった。
「いやじゃあぁぁぁぁぁあああああああっ!!」
ロウリィが特大の声を上げた。アンネはさらにニッコリと微笑む。
ロウリィはそんなアンネの表情を見て、確信したように声を荒げた。
「おぬしっ! やはり仲良くする気ないじゃろ!?」
「トンデモナイ アリマスヨ。」
「なんじゃその棒読み! ヤル気無いにも程があるじゃろがっ!」
「失礼な。言いがかりはやめてください。アリマスヨ。」
また二人が言い争いに夢中になり始め、ひとつ溜息をつきながら仕方なく二人を鎮める為に両手にバナナを持つ。
「バナナでお仕置きは意味なかったけれど……イモートとニンニンに食べさせてあげたんだから、二人にもバナナ食べさせてあげとかないとな。」
二本のバナナを剥き、言い争い始めた二人に向けて構える。
そして、二人の間をすり抜けるように動いた。
アンネもロウリィも何かが通った事は分かったはず。
二人に背を向けながら呟く。
「お前達はもうすでに……食っている。」
二人の口には俺の剥いたバナナが突っ込まれていたのだった。
「「 んほぉっ! おいしいぃのぉぉっ!! 」」
二人はビクンビクンと痙攣した後、同時にくたりと倒れた。
「争いは、いつも空しい……」
一人呟くのだった。




