35話 戦闘民族の里に入ると戦闘をするらしいよ
「ハーッハッハッハー! くらえぃっ! 万痛打撃ぇっ!!」
「ぐぅっ! 避けきれない……ならば突っ切るだけぇぇええ!」
アンネがロウリィの百にも分裂したような拳の嵐に対して、自分の急所のみをガードする形で特攻する。そして攻撃に集中していたせいか守りの薄くなったロウリィの鳩尾に、アンネが突破した勢いのまま、その肘を打ちこんだ。
「ぐぅっ! ……はぁっ!っハッハ! まさか我の拳をかいくぐってくるとはのう。やりおる! 楽しいのう楽しいのう!」
「何が楽しいんですか……この野蛮人が!」
「ほぉれ! まだまだじゃ、まだまだいくぞい!」
闘いは既に苛烈を極めている。
俺はその戦いの行く末を黙って見つめる……というか右に左にとオロオロする事しかできない。
今はアンネが優勢な展開のように思えるがロウリィはまだ一つも変身していない段階だ。
変身するとステータスの基準値が上がるっぽいし、そうなれば、いくらアンネといえど勝負にならないように思える。
ヤーマンッバ人の変身はわかりやすい。
超ヤーマンッバ人になると金髪になる。
超ヤーマンッバ人2になると金髪の毛が逆立つ
超ヤーマンッバ人3になると金髪の毛が伸びる。
ロウリィは未だに銀髪幼女のままだから、ぶっちゃけ今は遊んでいるようなモノだ。
だが、対するアンネはかなり本気で頑張っているように見える。
足技主体で攻撃を組み立てていて凄い速さで繰り出し、めくれ上がるスカートからヒモパンが見えそうで、でも見えなくてハラハラしてしまうあまり、なかなか二人を止めるに止められない。今もギリギリ…見……えないっ!
「貴方のようなちんちくりんな年増はご主人様には相応しくないのよっ!」
「ほ、ほぉー…………ヌシ死にたいようじゃのう……いや、今決めた。殺す。」
アンネの言葉に珍しく反応したロウリィがピタリとアンネの足を受け止め、その足を掴んだまま変身した。それもいきなりボンキュボンに変わる最終変身である覚醒変化だ。
ロウリィの覚醒変化は体型が変わるからわかりやすい。
って、今なんかロウリィ不穏な事を言ったよねーーー! それはダメっ!!
「二人ともやめろ! 落ち着け!」
俺は『ご主人様命令』を出す。
ビクンと反応するアンネとロウリィ。
表情は互いにイラついたままだが、行動は止まった。
二人揃って舌打ちしながら、俺の所に歩み寄り始め、俺はとりあえず怪我や状態異常がないか確認する為に鑑定をかける。
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名前:アンネ ナンデス
種族:ヒト(クール?ビューティ)
職業:女勇者(主:ヤベエ)
レベル:20
HP:122/102(+200)
MP:164/99(+200)
物攻:68(+200)(+75)
物防:55(+200)(+25)
魔攻:63(+200)(+50)
魔防:52(+200)(+25)
速度:35(+200)(+30)
幸運:21(+200)(+25)
装備:誘惑のグリーヴ 戦闘メイド服
スキル:勇者(小) 勇者(超越)の従者 並列思考
ステータス:嫉妬(大)
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名前:ロウリィ バッバ
種族:ヤーマンッバ人(覚醒成熟体)
職業:ヤーマノサッチ国主(主:ヤベエ)
レベル:81
HP:434/645
MP:341/792
物攻:606
物防:738(+15)
魔攻:867
魔防:705(+30)
速度:819
幸運:594
装備:ハダジュヴァン
スキル:鬼頭流格闘術 松竹拳2~10倍
超ヤーマンッバ人 超ヤーマンッバ人2 超ヤーマンッバ人3
覚醒変化(成熟体) M気質(小) 勇者(超越)の従者
ステータス:怒り(大) 嫉妬(中)
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うっわ。
ロウリィの覚醒体つおい。
アンネが正面切って対等に戦う為には、レベルアップと装備を整える必要があるな……
俺がそんな事を考えていると、二人揃って、同時に口を開いた。
「ご主人様っ!」
「旦那様よっ!」
「「 このムカツク女はなんなんですか!(じゃ!) 」」
俺は勢いよく詰め寄られ、とりあえず困り果ててしまう。
「どうどうどうどう。」
両手で『be cool』『be cool』とジェスチャーする事しかできなかった。
まったく鎮まらないと言った二人を円満に収める為に、争い始めた原因を探ろうと経緯を思い出してみる――
俺たちはヤー・マノサッチに向かう事を決めてから夕食を終え、アンネを中心にしてヤー・マノサッチでどう動くかをじっくり検討した。
アンネの提案は、従者にした国主にダイヤ産出地を案内させて、もし採掘などが行われているのであれば、それを管理して、産出量を上げる。そして、ダイヤをブランディングをして市場に流通を開始。
そうすれば結果としてヤーマノサッチの国も富み、より良くなる。
俺は完璧プランに思えたので、諸手を挙げて賛同した。
やっぱりウチの参謀は賢いぜ!
翌朝、普通に起きてみんなでご飯を食べる。
そして3人に浮遊魔法をかけて浮かべて俺が引っ張るという新しい移動方法で移動し、あっという間にヤー・マノサッチの国に入った。
で、俺がヤー・マノサッチの国の中心に近づいていくと、待ち構えていたようにロウリィがすっ飛んでくる気配があったのだが、やっぱりロウリィだった。
「なんじゃ旦那様よ。随分と早かったのう。そんなに我と共に過ごしたかったのかえ? フフフ。まったく気が早いのぉ……じゃが旦那様がどうしてもと言うなら……今すぐここで子作りしても構わんえ。」
と言いながら、艶めかしく抱きついてきた。
おかしくなったのは、ここからだった。
アンネが今までにない位冷たい顔で笑ったと感じてからだった。
「だんなさま? ご主人様……このガキはなんですか?」
「えっ? これが國主だよ?」
「いえいえ、そうではなく……だんなさま?」
「えっ? えっ?」
「なんじゃ? 旦那様よ。この嫌~な笑みを浮かべる女は? 心底性根が悪そうじゃのう。」
「いやいやいや、俺の従者のアンネだけど、超賢くて頼りになるし!
今日もヤーマノサッチにとってすごくいい案を考えてくれたからそれを話に――」
「はぁ……この性悪そうな女がぁ? 我は別にそんなプランはいらんぞえ。旦那様さえおればそれで良い。」
そう言って、アンネを無視するように俺の左腕に絡みついてきた。
「私は別にアンタの為に計画を練っているんじゃないんですよ。全てはご主人様の為です。」
アンネが、俺の右腕を抱き着くようにして引っ張った。
瞬間、ロウリィとアンネが俺を挟んで睨み合いを始めた。
「なんじゃ……ヌシ、気に入らん。気に入らんのぉ。」
「奇遇ですね……私もです。」
……ケンカになった。
何が一体駄目だったんだ!?
相性が悪いってヤツなのか!?
これが相性ってヤツなのか!?
うん! わからん!
コレを解決する為には……もう二人まとめてバナナ食わすしかないか?
「はぁ、ご主人様はニブチンでガス。」
「ほえ? なんでゴザル?」
イモートは俺の様子をみてため息をつき、ニンニンはケンカにより意識が逃避したようにポケっとしていた。
よしっ、とりあえずバナナ食わせるしかないな。




