29話 戦闘民族(捕虜)と話をするよ
「そろそろ起きてくれませんか~?」
女は『ハァハア』と、熱っぽい息を繰り返しながら、ずっとモゾモゾモゾモゾと動いている。
手の動きとか、なんかも手の動きになってて、こすったりつまんだり、色々こすったりしてる。アカン。
流石に30分も何もせずに待ち続けた俺は、自分で自分を褒めてあげたい。褒めるべきだ。
ただ、もうそろそろ情報収集したいんです。
マツタケとかの。
……違うっ! 米とかダイヤとかの! 情報だった! 欲しい情報は!
ただ、未だモゾモゾとして目覚めない捕虜の女を見ていると、俺自身バナナを食べた時の快感をうっすら思い返してしまう。まぁ、こうなっても無理もない。そう思う。
……だが、いかんせんこの状態で何時間も待ちたくないぞ?
じーっと見ていると、呼吸で上下するささやかとは言え膨らみのある胸が目につく。
…………
そうだ。
とりあえず心拍数を計ろう。
うん。
人が倒れてたら、計った方がいいよね?
そうだ。計ろう。
横になっている人は動かしちゃいけないって言うし……う~ん…ドウシヨウカナ。
うんうん。そうだ。
耳を直接、胸に当てて心音を聞けばいいんだよね。
別にいやらしい意味じゃない。
そんなことしたいんじゃなくて、そう。救命行為?
いや、別に、この人は、ただ悶えてるだけだし、全然普通の状態ではあるけど、なんていうの? 念の為だよね。そう。転ばぬ先の杖。
大事。
そういう心構え。大事。
いざという時に備える心構え。うん。
よし。胸に耳をあてて心臓の音を聞いて、心拍数を計ろう。
「し、失礼しま~す。」
俺は上下する女の胸に右耳を当てようと恐る恐る近づけていく。
ただ、いけない事をしているような気もしてきて、中々当てられない。
緊張から俺の息使いも荒くなりはじめたので、一度深呼吸をする。
そして女の左胸に俺の右耳を…ゆっくりと……ゆぅっくりと近づける。
女の胸が上下している。
俺はゆっくり近づける。
ふと、俺の右耳に『固くなった物』がツンと触れた。
俺は耳に物が当たった事に違和感を覚えた。俺はつい、その違和感を無くそうと細かく首を振った。
「はあっ!……あぁあああぁあ…あぁぁ…ぁあぁんん…んっ!!」
俺は女の上げた声に驚き、思わず距離を取る。
どうやら首を振ったせいで俺の耳が、女の胸の固い部分をツンツツンと刺激していたようだ。
女はなにやら一層激しく痙攣しながら顔を紅潮させている。
「あ。なんかスマン。」
自分の耳に当たった物が何かは、もちろん分かっている。
だが、改めて何だったのか確信したせいで、少し罪悪感が生まれ謝る。
女は自身に起こった異常事態で目が覚めたのか薄く目を開けている。だが動かない。
その様子を見て、そういえば自分も2回でスッキリと目が覚めたなと思いだし考える。
イかぬなら……イくまで待つか。
イかぬなら……イかせてみせるか。
どうしよう。
目を閉じ真理を探求する。
そして一句浮かんだ。
イかぬなら 一緒にイきたい ホトバシル
……自分が思った以上に悶々としているのを理解した。
これ以上なんか俺が悶々としてもアレなので、この際、もう一度さっさと心拍数を計る事にした。きっと、もう一度医療行為として心拍数を計れば、きっとこの女は目を覚ます事だろう。
右耳を近づけると、固い物に右耳が何度も当たった。
やっぱり気になったので首を振ると、ツンツツンと当たった
「ああっ! ……あ……ぁ…ぁんんっ!」
女はビクンビクンと痙攣し、そしてグッタリした。
「えっ!?」
ぐったり!?
しばし待ったが中々起きない。
てっきり目が覚めると思っていたので【回復魔法】をかけて女を軽く揺さぶる。
すると、女は目を開き、覚醒した。
そして自分の股を確認し、涙目で俺を睨んだ。
「ちょっ! 俺なんもしてないし!」
女は涙目のまま下唇を噛み、顔を赤くしながら、その他の現状を確認し始めた。そして自分ではどうしようもない事態である事を理解したのか、ただ恥ずかしそうに悶えていた。
あまりに可哀想になったので【清浄魔法】をかけてあげる。
なんせあの状態は恥ずかしい。最近そうなったから、よく分かる。
綺麗になって落ち着いたのか、それとも切り替えたのか、女も持ち直したので情報収集するべく、とりあえず鑑定をかけてみる。
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名前:マツ タケコ
種族:ヤーマンッバ人(ボーイッシュ)
職業:戦闘要員 兼 採掘人員
レベル:53
HP:343/343
MP:72/285
物攻:102
物防:92(+2、+2)
魔攻:142
魔防:121
速度:76
幸運:89
装備:綿の服 皮の長靴
スキル:鬼頭流格闘術 松竹拳2~10倍
超ヤーマンッバ人 超ヤーマンッバ人2 超ヤーマンッバ人3
敏感(大)
ステータス:困惑
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マツ……タケコさんか。
……マツ・タケコさんか。
マツ タケコさんだな……
というか、種族からして違う。ナンダソレ。
しかもなんとなく和っぽい名前だ。そんな事を思いながらも鑑定を続ける。するとマツさんも自分のステータスを確認し始めたようだ。
そして困惑した声を上げた。
「ちょっと! HPとMPが回復してんだけどっ!
って、それよりなによ!! 敏感(大)ってなってるんだけどっ!! 私に何したのよアンタっ!!」
「え? 元々……そうだったわけじゃないの?」
「も、元は……敏感(軽)よ!」
顔を赤くてそっぽ向いた。
しかし、すぐに騒ぎ始めたので、興味が出た俺は超スピードでマツタケコの後ろに回り込んで、マツタケコの首筋をそぅっと指で撫でてみた。
「ん…………ふぅ……」
悪寒が走ったように震えた。なのに顔がほんのりと赤らんでいる。
そして怒ってたのに、即鎮火した。
ナニコレ楽しい。
「もうっ!」
調子に乗って首筋から耳まで指で つつつ と撫でる。
「や…めぇ……ぇん……」
フルリと身体を震わせるマツタケコ。
うん。ゾワゾワする。
快感を感じていた顔から、再度キッとした顔つきに変わり、俺に向き直った。
「ちょっと! 何が目的なのよアンタ!
ハッ! まさか私が目的なの!?」
俺はマツさんの言葉に、ようやくここまで来た目的を思い出す。
そうだった。マツタケコさんではなくて、マツタケとか米とかダイヤが目的だったんだ。うっかり忘れる所だった。
「オーケーすまなかった。もう何もしない。
俺はヤーマノサッチの国で採れる物に興味があって、とりあえず観光がてら、どういう国か見に来ただけなんだ。敵対する意思はない。」
「え? ……でも戦ってたじゃない?」
「いや。いきなり絡まれたんだよ。 実際俺攻撃してないでしょ?」
マツさんは少し思案する。
「……なんとなくわかったわ。
ひょっとしなくても虚空くんがまた暴走したのね。ごめんなさい。」
「虚空くん?」
聞き慣れない人名に首を傾げる。
「怒罠無死って技が得意な子よ。」
記憶を漁ってみると、一番初めに絡んできた熱血野郎がそんな技を使っていた。
「ちなみに虚空くんの苗字は、椿よ。」
「OKわかった。それ以上は何も言うな。」
「魔痛多気剛刃を使った、ペニーダくんと仲がいいのよ。
なんだか朝から晩まで『オッス! 今日もオラと特訓だ!』って、ずっとバタバタ二人でやってるのよ。夜中までずっとよ? 元気すぎるわ。」
「だから何も言うなって!!」
「ひんっ!」
俺は全力でマツタケコがそれ以上何も言わないように止めた。
つい強引に止めた為に、変な恰好でマツタケコを刺激していた。
具体的には、左手を肩に回し、右手で口を塞いでいる。
傍目には抱きしめて顎を上げさせているような恰好、キスをしようとしているようにも見えなくもない。
その恰好に気づき俺は固まる。
マツも固まる。
二人でしばし固まり、少しだけ慌てながら解放した。
「ご、ごめん。た、ただ、それ以上は、なんだか喋らない方がいいと思って、つい乱暴な恰好になった。ごめん!」
「う、ううん。
なんだか別に。
その。ううん。」
お互いちょっと赤くなりながらもじもじする。
ふとマツタケコが何かに気が付いて焦り始めた。
「この気は! 國主様の気っ! 國酒様が出てくるわ! このヤー・マノサッチの国、最強のお方!」
「え? なんで? ていうか誰それ?」
「私達は、これでもこの国の中で、かなりの使い手として知られていたから……きっと今頃、私達四人でも歯が立たない相手が来たって話が広まっているはず。それこそ国中でお祭り騒ぎになってはずだわ!
なにせ、この国、バトルマニアばっかりだからっ!
……そんな国だから、国を総べる國主には、力が求められるの。最強の力がね! もっとも凶悪なバトルジャンキー! それこそが國主様!」
「へぇ……まぁ、国のトップと話が出来るってんなら願ったり叶ったりだわな。目的的には。」
ダイヤ採取の許可やマツタケ、米の交易なんかの話もできるかもしれない。
ぼんやりそんな事を考えていると、虚空くんの何倍もの速さで近づいてくる気配を捉えた。




