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勇者とバナナと練乳と  作者: フェフオウフコポォ
旅の始まりとバナナ

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26話 バナナを食べて後悔したよ

 俺の心は宇宙を彷徨い、精神は快楽という快楽に包み込まれていた。

 ふわふわと暗黒空間を漂う俺をバナナの形をしたピンクのオーラが飲みこんで包み、そのままありとあらゆる快楽を身体に刻み込んでゆく。オォ、ユニバース。


 快感。そして快楽。

 快楽に次ぐ悦楽。

 悦楽。からの享楽。

 延々と終わらない刺激。


 だが強大な刺激にも関わらず、体力や気力が失われていくことはなく、むしろ充実してゆくのを感じる。いや、気力と体力だけではない。その複合である精力までもが充実してゆく。ビンビン感じる。オォ、バナーナ! もう身体中の穴という穴から何もかもが溢れ出しそうだ。 


 だがバナナの形をしたピンクのオーラは、その手を緩める事は無い。

 まるで『もっとだ! もっと回復してやる!』と、俺の体を縦横無尽に這いまわり続けている。


 やめろ。やめてくれ。

 もう駄目だ。

 そもそも精力とか元々オーライ満タンだったのだ。

 そんな、やめ、やめ、


 た、た、た、たえられなぁい!


「ハァァァン゛っ!! ぅウッ!」


 俺は自分自身の声。

 そしてビクンビクンと激しく痙攣する体の衝撃で目を覚ました。


 時間の経過が虚ろだ。

 だが窓からは光が差し込んでいて、その光の指し加減は、どうにも朝の光のようにも思える。


 なんだろう。


 この何とも言えない……嫌な予感。

 とても嫌な予感。

 いや、嫌な違和感。


 自分の下半身から感じられる、とてつもない嫌な違和感。

 予感に思い当たる節があり、自身の目で見て確認するのが怖い。


 恐怖から目を逸らすように目に当たる光から目を背け、逆を向く。

 するとニンニンの顔があった。半分だけ。


 なぜか顔をベッドに隠すようにして、目だけだしてこちらを見ている。

 そしてその顔が真っ赤だ。

 ただその目だけは異様に爛々としていた。


 そして、イモートもいた。


 イモートもニンニンと同じように顔をベッドで隠し、そして目だけ出してこちらを見ている。

 もちろんその目はニンニン同様に爛々と輝いている。


 二人の目の輝きを見て思った。

 『面白い物を見て興奮している目だ』と。


 そして感じられる下半身の違和感から、自分の下半身がその対象なのだと悟る。


 ああ……俺。

 ……終わった。


 すぅっと魂が抜けるのが分かった。

 白く灰になる人の気持ちも理解した。


 そして、俺の溜まりに溜まっていた欲望が発散されたのも分かった。

 正直やり場も無く溜まりに溜まっていたし、すっきりとしている感もあった。


 だが、しかし、魔バナナは許してはくれなかった。

 諦めにより身体に漲る魔力に身をゆだねた瞬間『まだまだー! まだみなぎるぜー!』と主張しはじめ、さらに勢いを増したのだ。

 無抵抗になっていた俺を、もう一度快感の波となった魔力が襲いかかってきていた。


「っハァァアァァっァァァアッァアアンっ!」


 俺は再度痙攣する。

 ビクンビクンと痙攣し、つま先までピンと伸びた。

 なぜかニンニンとイモートはその様子を見てビクンビクンとしていた。



***



 全てを諦め、悟りの境地に至った後。ようやく動けるようになったので、二人には少しだけ部屋の外に出てもらい、その間に現状打破に使えるスキルが無いかを必死に探す。


 そして【清浄魔法】を見つけた。

 清浄な状態に戻してくれるお掃除魔法らしい。


 すぐに自分に4回かけ、固化し始めていた部分もあるガンコな汚れは何とか落としきる。

 部屋に対しても【清浄魔法】を念入りにかけ、ニオイが残らないように気をつけた。


 何度も深呼吸をして、確かめてから、二人を迎え入れる為にドアを開けた。


「お待たせ……

 そのゴメン…………もう……全部……綺麗になったから。」


 二人はドアが開いた途端にビクリビクリとしつつ、顔を真っ赤にしながら右手と右足を同時に、左手と左足を同時に動かしながら部屋に入ってきた。


「せ、拙者は何も見てないでゴザルし!

 ヤベエ殿もどこにもイってないでゴザル!」

「う、うん。

 ご主人様は起きてから2階とかにイってないです。」


 まるで腫物はれものに触るような態度で、わけのわからないフォローをしてくれた。

 俺は全てを諦めて受け入れ、そして静かに誓った。


 どんなに美味しかろうが2度と魔バナナを食わないと。



***



「そういえばアンネは?」

「お姉ちゃんはあっせん所に行ってるでガスよ。ご主人様。」


 アンネが居ない事にホっと胸をなで下ろす。

 もしここにアンネが居たとしたら、それはもうどんな視線を浴びる事になっただろうか。


 それはもう、きっと冷たく蔑むような視線で『チッ! どうしてコイツに仕えなきゃいけないのよ!』と言わんばかりの眼をしたに違いない。

 憤りと諦め、そして憂いをちょっと含んだような視線を容赦なく浴びせてきて、その上で無理矢理笑顔を作って処理をしようとしたに違いない。本当に居ない事が惜しい……じゃない。いなくて良かった。


「そんな時間だったのか……」

「ええ……ご主人様の朝食はサンドイッチにしてあるでガス。よかったらどうぞ。」

「ありがとうイモート。」


 イモートの顔が真っ赤だ。


 うん。なんかごめん。

 出来たメイドに対してこんなご主人様で。


 トントントントンと4回ドアをノックする音が鳴り、雰囲気からアンネのノックであることが分かり、イモートが返事をする。


「ただいま帰りました。」


 アンネが帰ってきた。

 俺は気まずさに負けて、アンネを見ることができずに視線を逸らす。

 イモートとニンニンも同じなのか、顔を真っ赤にして浮足立っている。


 その様子を聡いアンネが疑問に思い『何かあった』と推測するには十分だった。


「何を……したんですか? ……私をさしおいて。」


 アンネの氷点下の笑顔が冴えわたる。

 俺は震える。色々な気持ちで。

 イモートやニンニンも慌てはじめた。



「ち、ちが、何もしてないでゴザル! ヤベエ殿はイってないでゴザル!」

「……イってない?」


「お、お姉ちゃん! 誤解しないで! 何もしてないし……イってないでガス!」

「……イってない?」


 アンネが2人からの聴取に区切りをつけ、訝しげな視線を俺に向けた。

 俺はすぐに全てを諦め、目を伏しながら白状することしかできない。


「すみませんでした……2回イきました。」

「……2回?」


 アンネは復唱したあと、すぐにハっとした表情になり、ニンニンとイモートに勢いよく向き直った。

 ニンニンはポケっとしつつ慌てるが、イモートは何かを悟ったような顔で、さっきまでの比ではない程に大慌てになりながらアンネに駆け寄り耳打ちを始めた。


 アンネはイモートの言葉に耳を傾け、すぐにどこかホっとしたような表情をした後、瞬時に『えっ?』という顔に変わり俺を見た。視線は俺のズボンに向いていた。


「……【清浄魔法】を使って綺麗にしました。」


 目でイモートの言葉を悟り、報告する。

 アンネは予想外に『やれやれ』といった雰囲気になりながらも、優しく微笑んだ。


「そこまで我慢するくらいなら……昨日も言いましたけど、私の身体を使ってくれてもいいんですよ?」


 と声をかけてくれた。

 アンネの言葉を聞いた俺の顔が崩れる。


 色々見られて、色々諦めて、そして生暖かい同情だ。


「同情で童貞捨てたくなんかないやーーいっ!」


 次の瞬間、俺はそう叫んで、部屋から逃げ出していた。



 そう。

 中身の日本人のオッサンも童貞だったのである。

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