25話 バナナはバナナであって、それ以上でも以下でもないよ
「バナナを比喩に使うんじゃねーよっ!!」
「ぐべふぁぅっ!」
俺は8尺男が言葉を発した瞬間に飛びかかっていた。
目にとめる事も出来なかったであろう瞬発力で動いて男の頭を掴み、そして近くのテーブルに叩き付ける。
男が叩きつけられたテーブルは割れ、8尺男の頭は地面にまで押し付けられ、完全にのびている。
突然の事態と騒音に周囲がザワつき始める。
事態を引き起こしておいてなんだが、俺自身、自分の行動に驚きが隠せなかった。
そもそも俺の中身は日本人のオッサンであり、無駄な争いが大嫌いな平和主義者だ。そう自称する俺が暴力をふるっていたのだ。
ただ…………どうしても我慢が効かなかった。
8尺男が、さも何かの比喩のように『バナナ』を使った瞬間、胸の内に何かが終わってしまうような危機感が沸き起こり、その危機感を持たされた事に対する怒りに頭が沸騰し、冷静に考えるだけの余裕が消えたのだ。
また女がバナナを連呼するのは嬉しいが、男がバナナを口にするという事にも、なぜか嫌悪感があった。
「てめーは俺を怒らせた……命を取らなかっただけでも有り難いと思え。」
怒りが残ったままの感情で完全に伸びている男に捨て台詞を放つ。
ザワついている男たちが俺の言葉と発する圧力にゴクリと息を飲んだのが伝わってきた。
そしてそんな外野につられるように、胸に新しい思いが沸き上がった者達が居た。
『ご主人様……強いお方。
……この人に委ね任せていれば幸せになれそう……いえ間違いなくなれる。なんだか胸の奥が熱い気が……』
『ヤベエ殿が守ってくれたでゴザル! 危険を察知してすぐに守ってくれる! やっぱり優しいでゴザル! あれ? なんだか顔が熱くなってるでゴザル……』
『ご主人様が怒ったのを初めて見たでガス。これは私達に手を出そうとする男に怒ったでガスね? つまり私達を自分の物と思ってるでガスな。 あれ? な、なんで嬉しい気持ちになるんでガスか?』
各々自分の胸に生まれた感情の正体には、まだ気づいていなかった。
そして様々な視線を集めたことで、ようやく正気に戻る。
「うっわ! めっちゃまずいことした! 店員さんお会計お願いっ! もう帰るから! ほんとゴメン!」
店員が怯えているのでニンニンに預けていた高額紙幣の入った財布を返してもらい、入っていた金額全部を怯える店員に押し付けた。
「テーブル代とかもこれで勘弁してっ! 足りなかったら……絡んだアイツから徴収してね!
もし払うの渋ったら俺が『シメる』って言ってたって言っていいから! ごめんね! アンネ! イモート! ニンニン! 逃げ……帰るぞ!」
声をかけられた3人は、驚いたワケでもないのにビクンと体が反応し、少し慌てながら既に店を後にしかけているヤベエを追いかけるのだった。
「いや~まずかったな~……なんかゴメン。せっかくの宴会を台無しにしちゃって。」
ペンションへの道中、アンネやニンニン、イモートは何か声をかけようとしてくるが、なぜか途中で言葉をやめてしまっている。
うっわ……3人ともすんごい怒ってね?
談笑タイムが俺のせいで強制お開きになっちゃったしな……
コレはお詫びしなきゃ……何でお詫びしよう……
ん~~。料理は肉と魚多かったしな。栄養バランスが大事だよな。
うん。やっぱりバナナを食べさせよう。
そうだ。お詫びバナナだ。
***
「なんてこった! もう2本しかないっ!」
ペンションに帰って荷物を漁りバナナを手に取った俺は無念に駆られた。
とりあえず2本のバナナに魔力付与をすると、ニンニンが小指を噛んで悩ましげな顔をし、アンネは両手で頬を押さえ、イモートは両手を股に挟むように体を小さくした。
2本しかないバナナ。
どうしよう。
するとアンネが何かにせっつかれるように俺の前に来た。そしてその胸を俺の顔面に押し当ててはじめる。
俺の顔面はやわらかい感触に包まれ、この世の幸せを感じずにはいられない。
「ちょ、アンネ!? やめ……」
決してやめて欲しく無いので『ヤメロ』とも『ヤメテ』とも言わず『やめ……』で止める。万が一にもご主人様命令にでもなったら幸せタイムが終わってしまう。もちろん抵抗もするフリだけだ。率先して顔を動かしもしよう。
たまらん。
バインバインな感触! たまらん!
…………
あれ?
アンネって……胸あったっけ?
俺はアンネの肩を掴み引きはがす。
アンネも顔を真っ赤にしながら困惑していた。
「すみませんご主人様。なんだかすらりんが突然大暴れして誘導されてしまいました。
……んっ! す、すらりん! 小刻みに動かないの! ……んんっ!」
ピクンと身体を震わせ、一瞬だけ顔を顰めるアンネ。
「すらりん? もしかして……バナナ欲しいの?」
俺がアンネの胸に問い掛けると、大きくプルンと揺れた。
「んっ!」
アンネがすらりんの揺れに合わせて声を上げる。
「あーげない。」
俺がアンネの胸に意地悪を言うと、細かくブルブルブルブルと揺れた。
「んんっ!」
アンネがまた、違う色のついた声を上げる。
しばらくすらりんに同じ質問を繰り返し、あーげない。と問答を繰りかえしていると、その都度ピクリと身体を反応させていたアンネの目線がきつくなってきたので、すらりんに魔バナナをあげてみることにした。
「ち、ちなみにどうやって、すらりんにバナナをあげたらいいの?」
なんせすらりんはアンネの胸に住んでいる。
俺の問いにアンネが顔を赤らめながら胸元の第一、第二ボタンを外した。
そして前かがみになる。
俺はドキマギしながらも、誘われるままアンネの胸元に俺のバナナをゆっくりと差し込んだ。
するとアンネの胸がバインバインバインバインと激しく動き、俺のバナナを飲みこんでゆく。
「あっ、あっ、あっ、あっ」
胸の激しい動きにアンネが声を漏らした。
目を閉じて何かに耐えている。だが、耐え切れず声が漏れているようだ。
スライムがバナナを食べているだけ。
そう。
スライムがバナナを食べているだけなのだ。
スライムがバナナを食べているだけだが、なんとなく俺は股間を抑える。
しばらくすると、バインバインとした動きが落ち着き、ぽよんぽよんとした動きになり、アンネの声もしなくなった。
だが……なにやら、ふうふうとアンネの息が荒い。そしてちょっと疲れているような感じがする。
うん。色っぽい。
ただ、スライムまでもが欲しがる魔バナナに興味が沸いてきた。
『え? そんなになの?』だ。
興味という知的好奇心に負けた俺は、残り1本という事もあり、誰に食べさせても不公平になる事から、最後のバナナを自分で食べてみる事にした。
皮を剥いたバナナを自分で咥える。
それを見た3人が
「あぁぁっ!」
と、悲痛な声を上げた
だが……無視して食べる。
いや、手が止まらなかった。
口に含んだ瞬間に広がる香り、たまらず香りにつられ咀嚼してしまう。
租借した途端に口の中に宇宙が広がった。ビッグバンだ。ここに全てがあった。
「しゅっ、しゅごいのぉぉぉおおおっ!!」
俺のあげた声は嬌声だった。




