24話 今後を考えながら宴会するよ
「これはだな……このトイレを楽しむ場所として利用料を取って営業する方が良いと思うんだが……どうだろうか?」
「ほう? なるほど……頭は大丈夫か現場監督よ?」
現場監督が温水洗浄機能付き便座に感動しすぎたあまり、今の建物の空きスペースに飲食店と、便意を自然に覚えるまでまったりできるスペースを設置し、排泄を楽しむ新しい遊興施設としての利用を提案しだしたのだ。
意見を求められたようなので思ったまま伝える。
「お前頭おかしいだろ?」
と。
だが、俺がどれだけ『お前頭おかしいだろ?』と言っても、現場監督は言えば言う程に『トイレ施設で間違いが無い』と確信していく。
あまつさえ「これから施主と話をつけてくる!」と言って出かけてしまった。
また、アンネはアンネでぶつぶつと何やら考え事をし、思考の深みにはまっていくように、その場から動かなくなっていたので俺がアンネをお姫様だっこして運ぶ。
お姫様だっこしたらドキドキしてくれるかな? とかちょっと期待したが、アンネは俺をチラ見しただけで、また熟考に戻っていった。
延々ブツブツブツブツ言ってるアンネを抱えつつも、折角大金も入ったので贅沢をしてみることにした。
贅沢をするに当たって役に立つのはニンニンだ。
なんせアリエナイに到着してすぐの観光案内所で飲食店情報を探していたくらいだから『これ食べてみたい』といった具合に気になる店はしっかり記憶していたのだ。
ニンニンに行ってみたいと思った所が無いか聞いてみると、すらすらと道案内を始めた。
そして前に『入ったらめっちゃ高い店だった』という経験があったことから、店に入る前に店から出てきたオッサン達に声をかけはじめるニンニン。そしてあろうことか、あざといと唸る程に可愛い子ぶりっ子しながらオッサンたちから情報を聞きだし、ニッコニコになりながら戻ってきた。
「この店は質、値段。どちらも安心して入れそうな店にゴザル!」
「ねぇ、ニンニン……『色仕掛け』覚えたの?」
「てへへ……アンネ殿が使える武器は使えと指導してくれたので頑張ったでござる! でもまだ初歩的な事しかできないでゴザル……もしや使ってはダメだったでゴザルか?」
首を少し傾げながら、頬に人差し指、唇に中指を当て、ちょっと潤んだ目線を向けてくるニンニン。
あざといっ!
いいぞもっとやれ!
若干、ニンニンのあざとい表情に、でれっとしつつ中に入る。
その店はどうやら居酒屋のようで、事前情報通りお値段もリーズナブルそうだ。
だが客層が男だらけの為、非常にムサイ。
そんな中、クールビューティメイドをお姫様抱っこしながら、ロリボンキュボンメイドとミニスカ浴衣忍者を引き連れて入れば、当然の事ながら目立つ目立つ。
さも面倒そうな店員に、とりあえずビールを頼みつつ、指さしで案内された端のテーブルに座り、ニンニンとイモートに向き直る。
隣の席に座らせたアンネは座っても尚、ぶつぶつ中だから、もう気にしない。
「とりあえず今日は贅沢しよう! 食べ物はお祝いだから好きなの食おう! 宴会だ! お酒も好きなの飲んじゃえ!」
そう勢いをつけてメニューを渡し、ニンニンとイモートに注文の全てを任せた。
ニンニンとイモートはメニューを2人で見ながら楽しそうに話し店員を呼んでは注文を進めて行く。
どうやらニンニンは肉が好きらしくイモートは変わらず魚好き。
注文の内容が明らかに緑色が足りない。
野菜が足りんよ野菜が。
これはいけません。
バナナは正確には野菜だ。
だから後でしっかり野菜を食わせる事にしよう。
ビールや簡単な料理が置かれ始め、カンパーイと宴会を始めだした頃、ようやくアンネも考えがまとまったのか動きだし、注文しておいたビールを手に取りぐぐぐっと一気に呷ってから口を開いた。
「ご主人様……街を作りましょう。」
「うむ。そうだな。で? なにを言っとるんだチミは?」
どうした参謀。
考えすぎてネジがぶっ飛んだか?
炙ったししゃものような干し魚を手に取って、もすもすと食べながらアンネが言葉を続ける。
「よく考えてください。ご主人様は建物も素材さえあれば建てられるんですよね?」
「うん。問題ない。
多分謎パワーで冷暖房完備も行けるだろうし寒かろうが暑かろうがどこでもイケる。」
「まずはダイヤの産出地に産出拠点を作って独占しましょう。
そしてそこから最も近い場所にも街をつくるんです。川沿いが良いですね。宿場町を作って、そこで営業拠点と娯楽施設を作りましょう。あのトイレ以外にもご主人様は色々とそういった物に心当たりはありますでしょう?」
「う、うん。まぁ、カジノとか温泉とか、娯楽施設って言われて思いつくのは色々あるよ?」
「食べる物も着る物も、万が一困ったような事態になったとしても、ご主人様ならすぐに手に入れることができますよね?」
「う、うん。材料さえあればすぐできるし、
もし街で買う必要がある物も、5日かかるような場所だとしても半日かからず移動できるよ? ……ってゆうか、アンネ『~ッス』って語尾はどうしたの?」
「いや今それどころじゃないんで。ご主人様、ちゃんと話を聞いてもらえませんか?」
「ごめんなさい。」
しゅんしゅんしゅん……と、小さくなっていく俺。
そんなアンネの言葉に声をかけたのはイモートだった。
「お姉ちゃん。ちょっと落ち着くでガスよ。ご主人様が困ってるでガス。」
「そうでゴザルよアンネ殿。何をおいてもヤベエ殿の機嫌を損ねたらダメになるのではござらんか?」
アンネは二人の言葉に一度目を閉じ小さく息を吐く。
そしてゆっくりと目を開いた。
「そうですね。
大変申し訳なかったっス。ご主人様。」
柔らかい表情に戻るアンネ。
「二人ともありがとー。なんか助かった。」
「いいでガスよ。美味しい料理も冷めてしまうでガス。」
「そうでゴザル。なにはともあれ食事を楽しむのが大事でゴザル!」
「そうっスね……ではしっかり頂きましょうか。
でもご主人様。先ほどの件は少し考えていただけるとありがたいっス。
多分贅沢な暮らしだって思うままにできるッスよ。」
アンネの言葉を少し考えながらも楽しい食事の時間が始まったのだった。
***
「いやマジでアンネぱねぇし、もう無理に『っス』って言わなくてもいいって。あの責められる感じがゾクゾクしてなんかイイし」
「アハハハ! ご主人様素直過ぎ! 分かりました。私もなんかこっちの喋り方の方が楽なので、もう気を使いませんからね?」
「最初から気ぃつかってねーだろーが!」
「「 アハハハハハ! 」」
俺とアンネは酒に弱いのか、それとも雰囲気に弱いのか、無駄に楽しくなっていた。
ニンニンとイモートは
「えへへ~」
「うふふ~」
と、ふにゃふにゃとぽやぽやになっている。
「てゆーかイモートは、もう『お姉ちゃん』って言ってるよね? って事はさぁ? なに? もう完璧に『女』になってきてんの?」
「いやぁ……最初はイモートも無理矢理言ってたんですよ?」
アンネはビールを置いて、ふぅっと一息吐きながら肩ひじをついた。
「でも、なんか、昔と比べると、ご主人様についていく方が、ずっとずーっといい生活させてもらえるじゃないですか? それに装備だってめちゃくちゃスゴイし。正直なところ感謝してるんですよ。
なので御主人様に喜んでもらえるように、みんなで相談しながら考えて実行してるんですよ。」
「そうでガス~うふふふ。」
「でゴザルな~えへへへ。」
みんな色々俺の事を考えてくれているらしい。
なんだか雰囲気や仕草も女性っぽい感じがする。
つい照れから、にちゃちゃちゃっと顔が崩れる。
「うへっへっへ。 なんだよ~そんな女っぽいような事してたら襲っちゃうぞう?」
「いいですよ? もう私は覚悟決めてますし。」
冗談に対してアンネが何事もないと雰囲気でそう言った。
俺は意味が分からず聞き間違えたかと戸惑ってしまう。
「え? ……ちょっ。」
「女にされた時点で、どうなるかぐらいの想像できてましたからね……というかぶっちゃけ、なんでまだ襲われてないのが不思議で不思議で。」
「いや……だって、なんか悪いじゃん。」
「気遣ってもらえると悪い気はしないですけどね。でもご主人様にはよくしてもらって感謝もしてるんで、そのお礼くらいには身体くらいは好きにして頂いてもいいかなと思ってるんですよ?
美味しい物もたくさん食べさせてくれますし。」
「え? いや、マジで!?」
「ええ。特にあの……ご主人様のバナナなんて……本当に最高ですもん。」
「おおおっ! ヤベエ様のバナナ~! あれは最高でござるー! アレの味は、もう女でも仕方ないと思えるくらいスゴイでござるー……えへへへ。」
「ご主人様のバナナ……うふふふふ。すっごくおいしいでガス。大好きでガス。」
俺のバナナの連呼が始まった。
魔バナナぱねぇ。
なんかバナナの話題になった途端、ニンニンが思い出したように様付けし始めたし。
ただどうしよう。
周りの目が超気になる。
「本当にご主人様のバナナってスゴイ! これまでに味わったこと無いくらい!」
「そうそう! ヤベエ様のバナナのニオイを嗅いだだけで体が芯から熱くなってくるような感じがするでゴザル!」
「最初は怖かったしイヤだったけど……あの味を知っちゃったら……うふ。もうダメでガス。」
三人が俺のバナナ談義で盛り上がっている。
いや、周りの客の目線がなんか俺を睨むみたいなもんに変わってないか!? ギリギリ歯ぎしりするような音が聞こえないでもないんだけどっ!
「あぁ……あのバナナを味わうのに『女』である必要があるなら、もう心の底から女としての自分を認めてしまいそう。」
「そうでゴザルな~……ヤベエ様は『男は連れて行かん』と申されておったからな。あのバナナを味わう為には『女』でなければならんのでござろうな~……
拙者も……なんだか『女』でよかったような気がしてきたでゴザル。」
「お姉ちゃんもニンニンさんも遅いでガス。私はもう既に『女』になっているでガス」
「ということは……私たちはご主人様のバナナで、身も心も女にされてしまった。ということなのかしら?」
3人が酔ってほんのり赤い顔で『バナナの為に女になった』とか『バナナで女になった』とか、色々誤解されそうな事を言っている。
周りを見渡せば、なんか色々想像したのか前かがみになりつつある客もいる。
もうやめようよ!
だが、女達によるバナナ談義は止まるどころか興奮をもって更なる加速をし始めた。
「ご主人様のバナナは世界一!」
「他のバナナなんてゴミと一緒、存在する価値すらない!」
「ご主人様のバナナ……欲しくなってきちゃった……うふふ……」
3人は、酔いにより気づいていなかったが、言霊という物は恐ろしいもの。
自身が発した言葉により、女であるということを心から受け入れ、本当に『女』になりつつあるのだった。
ただヤベエがそれを知る由もない。
「おうおう、さっきから聞いてりゃあソコのモヤシのバナナが最高だぁ!? ふざけんなよ? 俺のバナナを味わってみろよネーチャン達よぉ。今すぐ相手してやっからさぁ! へへへ。」
身の丈8尺はありそうな男が乱暴に席を立ち、ズカズカとこっちへ向かってやってきた。




